【書籍化】学園の姫攻略始めたら修羅場になってた件

かわいさん

第1章

プロローグ

 イケメンには勝てない。


 俺――神原佑真かんばらゆうまがこの世の真理に気付いたのは人生二度目の恋に破れた時だった。初恋に続いてイケメンに敗北し、気付かされた。


 初恋の相手は幼馴染。


 親同士が仲良しということもあり、幼い頃から家族ぐるみで仲良くしていた。昔は妹のような感覚で接していたが、小学校を卒業する頃には恋心に変化していた。


 告白したら付き合えるかもしれない、と当時は本気で思っていた。


 しかし現実は甘くなかった。


 中学生になって一年程が経過した頃、あいつに彼氏がいるという噂が広まった。噂の相手はイケメンと有名な先輩で、実際にその先輩と楽しそうにショッピングしている姿を見かけたことで確信に変わった。


 幸せそうなあいつの姿を見て、初恋は終わった。


 初恋が終わった段階ではまだ真理に気付けなかった。当時は努力が足りないと結論付けたのだ。


 だから努力した。肉体を鍛え、苦手だった勉強にも力を注いだ。雑誌やネットで情報を収集し、おしゃれの勉強とかもしてみた。


 自分磨きを始めてから半年後、人生二度目の恋をした。


 相手はクラスメイトの少女。


 苦い初恋の経験から受け身ではダメと理解していたので積極的に行動した。特に用事もないのに話しかけ、休みの日には遊びに誘い、放課後は偶然を装って一緒に下校しようとしたり、とにかく彼女と付き合いたい一心で行動した。


 結構いい雰囲気だった。


 もしかしたら付き合えるのではないか、と淡い期待を抱いていた。


 身の程をわきまえない愚か者は再び現実を叩きつけられた。


 ある日、隣の中学にイケメンが転校してきたという噂が広がった。片思いしていた少女はそのイケメンと接触し、あっという間に虜となった。


 こうして二度目の恋も終わった。


 初恋はイケメンに敗北し、二度目の恋もイケメンに完敗した。この連敗によって愚か者は嫌でも気付かされた。


「イケメンは最強」

「世の中は見た目がすべて」

「ただしイケメンに限る」


 勉強とか運動がいくら出来てもイケメンには手も足も出ない。大人になったら金の力で対抗できると聞くが、それなら最強は金持ちのイケメンだ。同じ金持ちならブサメンよりもイケメンが勝利するに決まっている。


 結局のところ人間ってのは生まれた時に勝ち負けが決まる生き物だ。親ガチャという言葉が定着したように、誕生した瞬間に勝敗が決定している。


 どれだけ頑張っても勝てないのなら最初から勝負しないのが利口な生き方だ。早いうちに現実の壁にぶち当たれたのはむしろ幸せだろう。


 利口になった俺は敗北を受け入れ、現実世界の恋愛を諦めた。


 それからはゲームにアニメといった自分の世界に没頭するようになった。


 好きなことをしていると時間の経過は早いらしい。気付けば中学を卒業し、高校生活も二度目の夏を迎えていた。


 高校生になっても変化はない。


 学校では目立たない男子生徒であり、自称フツメンの俺は女子に見向きもされない。どこにでもいるモブキャラとして生活していた。


 現実のほうは何も変わらなかったが、自分の世界では色々な変化があった。


 とあるネットゲームにハマり、ゲームの中では愛する嫁が出来た。高校生になってしばらくしてからVtuberにハマり、推しのVtuberに認知された。


 日々の生活は充実していた。このまま現実では何事もなく平和に過ごし、自分の世界で楽しみながら高校時代を終えよう。


 そう思っていた夏休み最終日。


「――兄貴に頼みがあるんだけど」


 時刻は推しの配信を見ていた夕方。


「先に言っとくけど、頼みといっても強制だから。もし断ったら兄貴の人生終わりだからね。そこんとこよろしく」


 脅迫めいた妹の言葉に敗北者の物語は動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る