シュガーコントロール
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プロローグ
「わあ、こんな大きなケーキ、一人で食べようとしたんですか?」
テーブルの真ん中にはホールケーキが置かれていた。八人で食べても十分満足できそうな大きさだ。
『一人で食べられるかな?』
急にそんな連絡が来て、アパートに来てみるとこの有り様である。
「早く、食べよ」
フォークを差し出される。
「いや、ホールのまま食べる気ですか? 普通、切り分けません?」
私は呆れながら、テーブルから立ち上がり、キッチンシンクに向かった。キッチンシンクは綺麗に掃除されていた。水切りラックには二人分のお茶碗と鉢形の食器があった。なぜかワンセットだけ濡れており、もう一方は乾いている。その上に無造作にナイフが置かれていた。
私はナイフを取り上げながら、振り返った。
「なにを食べたんですか?」
「肉じゃが。――不満そうだった」
「それは残念でしたね」
「残念?」
「大好きなもの食べたほうが寝付き、いいですよね」
「なんだ。頑張って手料理、振る舞った私に『残念でしたね』って言ってくれたのかと思った」
私は苦笑した。
「それもあります」
ナイフをケーキに突き刺す。
手前に引くが、引っかかるような感触があり、上手く刃が進まない。
「切りにくっ!」
私はケーキからナイフを引き抜き、その刃を見た。
「――これじゃあ、切れないはずですね」
私は肩をすくめ、大きなため息をついた。
ナイフの刃は盛大に刃こぼれしていた。
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