第2話 破滅への階段②

「は? できないだと?」


 報告を受けていた私は、あまりのことに言葉を失ってしまう。

 リーヴィアと二人きりで過ごしていて、上機嫌だったというのに。この一瞬で、気分はどん底まで叩き落されたような気分だ。


「正確に申し上げますと、今日明日で成立させるのは難しいということです」

「それでは今もまだ、あの女は私の婚約者のままということか!?」

「おっしゃる通りです」

「そんな……!」


 隣ではリーヴィアが顔を青くして、今にも震えだしてしまいそうだった。

 その姿を見て、咄嗟とっさに私は思う。このままではいけない、と。


「リーヴィア、安心してくれ。私がなんとかしてみせる」

「ダミアーノさまぁ……。でも、そのぅ……」

「とにかく、どれだけ日数がかかるのか。まずは正確な報告をするように、もう一度確認してこい」

「承知いたしました」


 頭を下げる姿は殊勝しゅしょうだが、そもそもそこまでやってから報告するのが当然ではないか?

 父上が外遊から戻られたら、もっと優秀な人物をつけていただくよう掛け合ってみよう。


「どうして……」

「あの女が抵抗しているに違いない。そうでなければ、王族命令がこんなにも適用が遅くなるなど、あり得ない」

「そんな、ダミアーノさまぁっ……」


 あぁ、可愛いリーヴィア。そんな不安そうな顔をしないでくれ。

 今にも零れ落ちそうな涙をぬぐってやれば、そっと閉じられる目。

 そのまま私は、その可憐な唇に口づけを落とす。


「大丈夫だ。私がついている」

「そう、ですね。でもぉ……」

「でも?」

「どうしたら、自分の間違いを認めて、反省してくれるのか……。私、分からなくてぇ……」


 確かにそうだ。

 どうしたらあの女に反省させられるのか。大切なのは、きっとそこなんだろう。


「ダミアーノさまぁ」

「どうした?」

「ダミアーノさまは、どうしたらいいと思いますぅ?」


 不安なのか、身を寄せてくるリーヴィアを抱きしめて。私はいくつか方法を考えてみる。

 そもそも、アルベルティーニ公爵は私の意図をしっかりと汲んで、あの女に外出禁止を言い渡している。

 しかも、それだけではない。私が望めば、いつでも家族の縁を切れる、と。そうまで言ってくれているのだ。


「近く、あの女はアルベルティーニ公爵令嬢ではなくなる」

「そうなんですかぁ?」

「実家から縁を切られれば、令嬢どころか貴族ですらなくなるな」

「でもぉ、それだと商人にすり寄りそうじゃないですかぁ?」


 リーヴィアに言われて、ハッとした。

 確かに、あの女ならばやりかねない。


「……裕福な暮らしなど、させたくないな」

「それならぁ、いっそ一番身分が低い人に嫁がせるとかはどうですかぁ?」

「なるほど! いい案だ!」


 さすが、未来の王妃。私の妃となる人物だ。

 そうとなれば、急いで手配しなければ。


「さて、誰がいいか」

「うふふ~」


 妙案が出たことで、安心したらしい彼女と二人。しばし他のことを忘れて、甘い時間を過ごす。


 そうしてリーヴィアが帰った後も考えて、考え抜いた私は。ふと、思い出したのだ。

 平民でありながら爵位を与えらえた、貴族とは名ばかりの男が存在していることを。


「魔術にしか興味がない魔導士ならば、嫁がせたところで問題はないな」


 貴族としての常識すら知らない相手ならば、商人よりもタチが悪い。性悪女の相手として、これ以上つり合いの取れる男はいないだろう。

 そうとなれば、急いで書類を作成させなければ。


「アルベルティーニ公爵へは、私が声をかけるだけで十分だ」


 私との婚約破棄によって被害を被るはずだったのだから、むしろ喜んで引き受けてくれるだろう。

 いらない娘を引き取ってくれる相手が見つかったと同時に。第一王子である私が、公爵は信頼に値する相手なのだと公表するようなものなのだから。

 書類の作成と同時に、あの女との縁も切らせてやろう。


「魔導士のほうは、所詮平民出身だ。どうとでもなる」


 いざとなれば王族命令だと脅しをかければ、どんなに嫌な女でも引き受けるしかなくなるだろう。

 他の令嬢を嫁がせる必要もなくなる分、貴族たちは私に感謝するだろうな。自分の娘を生贄にしなくてよくなった、と。


「まったく。私は自分が恐ろしい」


 こんな短時間の間に、大勢が救われる方法を導き出せるなど。

 私が王になった暁には、国はさらに発展することだろうな。


「さて。憂いもなくなったことだし」


 今夜は、どの女の元へ行こうか。

 皆が私を心待ちにしているのだから、寂しい思いをさせないように平等に愛してやらなければ。

 これもまた、王となるための一環だ。社会と女心の勉強という名の、な。






―――ちょっとしたあとがき―――



 第一王子、遺憾なくクズっぷりを発揮中(^q^)





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