第17話 目の前の
結局、あれから毎日しっかりと家に帰るようになって。
ベッティーノには「困ったことがあったら相談して」なんて、心配される始末。
(とはいえ、だ)
毎日一緒に生活していて思うのは、目の前の人物が本当にいじめをするようには見えないということ。
ツリ目がちなところが、確かに少し気が強そうにも見えるけど。どちらかというと正義感が強そうな見た目だなと、俺は思ってる。
だから。
「ところで、聞いてもいいか?」
「はい?」
知りたくなったんだ。
「その……答えたくなかったら、そう言ってくれればいいんだが……」
婚約を向こうから破棄させるために、彼女が何をしたのかを。
「君に関する噂は、どこまでが本当でどこからが嘘なのか、真実を知りたいんだ」
「あー」
目の前のジュリアーナという人物が、どんな女性なのかを。
「ニコロは、これから私が話すことを絶対に誰にも言わないって、約束できる?」
その言葉に安易に頷いた俺は、想像もしていなかった。
まさか、噂の中に真実はほとんどなかったなんて。
むしろ、全てが計算されつくされた上でのことだったなんて。
本当は彼女こそ、王妃になるべき器だった。
そう思わずにはいられない内容が語られるなんて、きっと俺じゃなくても予想できなかっただろうな。
しかも今度は、ドレスを売りたいと言い出した。
その上、その理由ってのが。
「ずっとね、孤児院だけでも十分な収入を得られるようにしてあげたいって思ってたの」
これだ。
もう俺は誰かに聞きたい。これだけのことを当然のように口にできる人物が、世の中にどれだけいるんだと。
マジでジュリアーナを手放した第一王子、相当バカなんじゃないか?
「今だからこそできることを、どんどんやっていきたいの。そのためにも、ドレスを買い取ってくれそうな場所を教えて?」
「いやいや、待ってくれ。そもそもドレスを売らなくても、俺が渡した分がまだあるだろ」
「他人が稼いだお金じゃ、意味がないの」
そう言われても、なぁ。
「それに私、いらないドレスを全部処分したいし」
「は!?」
せっかくあるなら、いつか使うかもしれないし取っておけばいいんじゃないかと考えてた俺に、物凄い発言を平気でしてくる彼女は。
「当然でしょ? 私が持ってるドレスは全部、ダミアーノ殿下の隣に立つために作られたものだから」
顔色一つ変えず、そう言い放つ。
「だからって売ることないだろ! 社交……には出ないとしても。誰かに呼ばれ……ても行きたくないよな。あぁ、クソッ!」
しかも俺に至っては、動揺しすぎていらんことを口にしだすし。
自分で提案して自分で却下するとか、なにやってんだ。デリカシーとか思いやりとかないのかよって、自分の無神経さに腹が立つ。
そんなこと、今の彼女が一番やりたくないことだろうに。俺はバカなのか?
思わず左手で髪をかきむしっていることにすら、気づいてなかった。
「それで、教えてくれるの?」
「……その前に、君が売りたいドレスがどのくらいあるのか見てもいいか?」
「もちろん!」
そんな会話を交わして、食後に見せてもらったドレスの量に、俺はさらに驚くことになるのだが。
これを全部運び込んで収納してたのは、この家の魔術が全部やってたからいいとして。
「……まさか君は、これを全部一人で運ぼうとしてたのか?」
「そのつもりだったよ?」
「…………はぁ~~……」
念のためにと聞いたそれに、頷きで返された時の俺の気持ち。誰か分かってくれるか?
思わず、ため息だってつきたくなるさ。
とはいえ、これだけの量ってなると、なぁ……。ここまでくると、もはや平民が手を出せる段階をとっくに通り越してる。
「とりあえず、俺もこれだけのものを買い取ってくれるような店は知らない」
「そんな……!」
「だから、同僚に相談してみる」
なら今こそ、ベッティーノに相談だろ。困った時のお貴族様、ってな。
ただ、一つ心配なのは。
「アイツ、高位貴族の令嬢と結婚してたし……知ってるよな?」
本物の貴族が、ドレスを売るっていう選択をするのかってことだ。
これで知らないって言われたら……。さて、どうすっかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます