第23話 今だからこそできること
「なんというか……むしろ君が、最も王妃に相応しいんじゃないかと思い始めてきた」
「相手が違えば、私もここまでしなかったんだけどね」
そういうわけには、いかなかったから。
それにプラチド殿下にだって婚約者がいるんだから、今から変更っていうわけにもいかないし。
というかあの二人はちゃんと想い合ってるから、私が引き離したくない。
「それで?」
「うん?」
「平民同然な生活を強いられるような、地位も名誉もない男爵に嫁がされた君は、一体これからどうするつもりなんだ?」
「そう、ねぇ」
とりあえず一番の目標は達成したし、ニコロもこうして普通に話してくれるようになったし。
お料理とかお買い物とか、私自身の個人的にやってみたいことは一通り楽しめたんだから、そろそろ次のことを始めてもいいのかもしれない。
「いらないドレスを売って、そのお金で孤児院への寄付を再開したいかな」
「……やっぱり、適性あるよな」
「元婚約者様には見る目がなかったから」
「みたいだな」
でも実際、今だからこそできることを色々とやってみたい。
第一王子の婚約者として、公爵令嬢として孤児院に通っていた頃は、できなかったことを。
「ずっとね、孤児院だけでも十分な収入を得られるようにしてあげたいって思ってたの」
傲慢かもしれない。独りよがりかもしれない。
けど、そうなれば彼らはもっと自由に未来を選択できる。お腹いっぱいご飯を食べて、キレイな服を着て、多くのことを学べれば。
そのために必要なのは、何を置いてもまずはお金。先立つものがなければ、どれも手には入らないんだから。
「仲良くなったお花屋さんの子がね、ハーブについて色々教えてくれたの!」
料理に使えるもの、お茶にできるもの、薬になるもの。
生命力が強いと言われているそれらのハーブを孤児院で育てて、自分たちで加工して売り出せば。初期費用はなるべく抑えつつ、あとは毎年お世話するだけでいい。
上手くいけば、どこかのお店と専売契約だって結べちゃうかもしれないんだから。
「マジでなんで手放したんだ、第一王子」
ボソッとニコロが零した言葉は、聞こえていたけど。あえて聞こえなかったフリ。
というか、この人時折ちょっと言葉が崩れるんだけど、これが素なのかな?
「今だからこそできることを、どんどんやっていきたいの。そのためにも、ドレスを買い取ってくれそうな場所を教えて?」
絹やレースを使われているあれらは、きっと普通のところでは買い取ってくれない。というか、買い取れるような額のお金がない。
だったら専門の場所で、って思うのが普通でしょ?
でもニコロはそう思わなかったらしく。
「いやいや、待ってくれ。そもそもドレスを売らなくても、俺が渡した分がまだあるだろ」
「他人が稼いだお金じゃ、意味がないの」
確かにニコロは高給取りのようだけど、それはニコロ本人が使うべきお金。
「それに私、いらないドレスを全部処分したいし」
「は!?」
あれ? そんなに驚くようなことだった?
「当然でしょ? 私が持ってるドレスは全部、ダミアーノ殿下の隣に立つために作られたものだから」
もう全部、必要ない。
だからアルベルティーニ公爵家も、私に押しつけてきたわけだし。
「だからって売ることないだろ! 社交……には出ないとしても。誰かに呼ばれ……ても行きたくないよな。あぁ、クソッ!」
自分で言っておきながら、そんなことはあり得ないと気づいたみたい。結局苦い顔をしたあとに、ガシガシと髪をかきむしってた。
当然でしょ。あれだけ噂になってる女がそんなところに出向いたら、格好の餌食なんだから。
よかった。ニコロがそういうところに気づける人で。
「それで、教えてくれるの?」
「……その前に、君が売りたいドレスがどのくらいあるのか見てもいいか?」
「もちろん!」
最初からノーを突きつけてこなかったということは、教えてくれる可能性が高いって考えてもいいよね!
期待に胸を膨らませながら、自室のクローゼットを開けて。
「これ全部!」
「……はぁ!?」
意気揚々と言い放った私に、本日何度目か分からないニコロの驚き顔。
なんかもう、驚きすぎて目が零れ落ちちゃいそう。
「これ!? 全部!? むしろよくこんな量運び込んだな!!」
あれ? でも私がこの家に来た時には、すでに収納されてたよ?
(まさかそれも、全部魔術でやってたの……?)
今さらながらに恐ろしいことに気づいてしまって、ちょっと口元が引きつりそうになる。
でもこの家だったらあり得ないどころか、それが一番早くて効率もいいだろうし。むしろ、そうしない理由がない。
(家が! 便利すぎる!)
お願いしたら、全自動で本当に全てをやってくれる家もできちゃいそうで。改めて魔術の凄さを実感してる。
というか、家にそんな機能をつけられちゃうニコロが凄いのかな?
「……まさか君は、これを全部一人で運ぼうとしてたのか?」
おっと、いけない。別のことを考えてたら、話しかけられてた。
「そのつもりだったよ?」
「…………はぁ~~……」
え!? なにその深いため息!
私なんかおかしなこと言った?
「とりあえず、俺もこれだけのものを買い取ってくれるような店は知らない」
「そんな……!」
「だから、同僚に相談してみる」
なんと!?
同僚ということは、つまり魔導士の? そういうことだよね?
そんなこと相談できる相手がいるの?
「アイツ、高位貴族の令嬢と結婚してたし……知ってるよな?」
腕を組みながら考え事をしているのか、ボソッと呟かれた言葉に、一瞬でも疑ってごめんなさいと心の中で即座に謝っておく。
だって、そんな強力な助っ人がいるなんて思わないじゃん!
それに、もしかしたら……。
(社交界では、結構有名だったあの人かも)
跡継ぎではない、魔導士に嫁いだ侯爵令嬢の話。
珍しいことだから結構有名で、その分一部では
だって貴族令嬢としては珍しく、恋愛結婚だったらしいからね。
(それを認めてくれたお父様は、きっと本当に娘のことを愛していたんだろうなって思った記憶があるし)
もし会えるのなら、いつか会って話を聞いてみたいとも思ってた。
だからニコロが言っている人物がその人ならいいな、なんて。
ちょっとだけ憧れのような気持ちを抱いていた私は、違う意味で期待しつつ嬉しくなっちゃった。
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