第12話 なんか、臭くない?
「うん、いい感じ!」
小さく一口分を味見してみた感じ、トマトソースは美味しくできた気がする!
目分量でも少しずつ味見をすれば、意外となんとかなるもんだね!
「さて、お次はー……」
問題のパスタですよ。
これね、私ソース作ってる途中で気づいちゃったんだ。
茹で時間が、分からないってことに。
「まぁでも、大丈夫大丈夫。食べたことはあるんだから、その硬さになってればオッケーってことで」
不思議なことに、なぜか乾燥パスタだけはあったんだよねー、この家。
保存できるからかな?
とりあえず、あるものは好きに使わせてもらう方針で。
「あ、そうだ! パスタ茹でてる間に、お皿の準備しなきゃ!」
お皿ーお皿ーと、相変わらず独り言を連発しながら、あっちこっちの棚や引き出しの中を探って、それっぽい物を見つけてくる。
というかこの家、収納スペースの割に物がなさすぎる。ほとんどの場所が、空っぽなんだけど。なんのための収納?
「さてさて、どうかなー?」
見た感じ色はだいぶ変わってきてるし、混ぜてみるとかなり柔らかくなってる気がする。
なので一本、まずはお試し。
「ん~! アルデンテ!」
はじめてにしては、本当に上出来じゃない!?
もうこれでお鍋のお湯ごとザルっぽい物に流して、ソースをちょっとだけ温め直したらそこに入れて、絡めて終わり。
お皿に盛って、完成!!
「わぁ~! 美味しそう!!」
こんなに上手くいくの!? 凄くない!?
やっぱりパスタって簡単なんだなー。
「わーい! いただきまーっす!」
初の手作り!
いい感じだったけど、さぁお味は……!
「…………あれ? なんかちょっと……薄い?」
さっき味見をした時には、かなりいい感じのソースになってたはずなのに。
なんで?
原因がよく分からないまま、一口。また一口。
それでもやっぱり、味は薄い。
「えー? パスタ入れる前はそんなことなかったのにー」
なんて、自分で言ってハッとした。
いやこれ、パスタ入れたからじゃない?
「というか、確実にそのせいだ」
考えてみたら、パスタにはほとんど味なんてないわけで。
つまり、ソースはパスタを入れた時のことを考えた味付けにしないといけなかったってこと。
「うっわー、やらかしたー」
やっぱり、お料理は修行が必要だね。
でも逆に今それが分かったんだから、次は失敗しないよ!
「とりあえず、ちょっとお塩足してみよう」
ついでに実験実験。
どのくらい味を濃くしたほうがいいのか、今のうちに知っておきたいからね。
そもそも少々とかひとつまみとか、そういうのが多すぎるんだよ、お料理って。もうちょっと分かりやすい方法ないの?
「……あったとしても、この家には計量スプーンすらないか」
むしろ大さじとか小さじとか言われるほうが、分量分からなくて困るだけだね。
しかも計量カップすらないし。
「やめよう。虚しいだけだ」
考えれば考えるほどドツボにはまるような気がしたから、今は考えないことにしておく。
精神衛生上、きっとそれがいいよ。うん。
「あ。さっきより美味しいかも」
ちょっとお塩を足すだけで、ガラッと味が変わる。
逆に言えば、濃すぎる状態になる可能性もあるってことだもんね。気をつけないと。
でもとりあえずは、美味しく食べられる塩加減が分かっただけ進歩。
無知から初心者ぐらいには、きっとこの一回で進めたはず。
「でも、もうちょっと最初から美味しく食べたかったなー」
とりあえず食べ終わったので、先にお皿とフォークだけを流しに入れておく。そして一度テーブルに戻って、グラスに入れていたワインの残りをチビチビと飲む。
本当は紅茶が飲みたいけど、この家にはないし。もちろん市場になんて売ってるはずがなくて。
どうせ金貨ばっかり余ってるんだから、どっかで紅茶でも買ってきたい気分なんだけど。
というかそもそも、どこに売ってるんだろう?
「お酒、あんまり好きじゃないんだけどなー」
でもオレンジジュースとかだと、すぐに腐っちゃうし。
牛乳もさ、あるにはあったんだ。でも一人しかいないじゃん? それも悪くなっちゃうじゃん?
結局一番無難に、腐りにくいワインにしてみた。劣化はするけど、飲めなくなるわけじゃないし。
「保存できたらいいのになー」
魔導士の家なんだから、そういうことができる部屋とかあってもよかったと思うんだよね。部屋まではいかなくても箱とかさ。
でも見たところ、そんなものはないっぽいし。
「そこはまた考えるか」
とりあえず今は、食器類を全部洗わなきゃ。
この食器を洗うっていう行為も、はじめてなんだよねー。どんな感じなんだろ。
「フライパンとー、お鍋とー」
あとこのグラスかなー。
なんて思いながら、グラスを手に持ったまま流しに向かった私の目に飛び込んできたのは。
「……え?」
洗ってもいないのに、なぜか流しの中でキレイになっている食器とフォーク。
え? どういうこと?
「私まだなにもしてないよ!? むしろ水の流れる音すらしてなかったよ!?」
とりあえず手に持っているグラスを流しの中に入れて、そのままフォークを取り出してみる。
裏返してみても、さっきまで私が食べてたはずの痕跡は一つもなくて、キレイに光を反射していた。
「どういう、こと?」
まさか、ここにすら魔術が……?
そう思い至って、ハッとした私がコンロの上を見ると。そこにはまだ、キレイになっていないフライパンとお鍋が。
「あれ?」
自動で勝手にキレイになるものだと思ってたけど、どうやら違うらしい。
でも何がトリガーになってるのかがよく分からなくて、とりあえず違いを考えてみようと向けた視線の先。
「えぇ!?」
先ほど置いたばかりのグラスも、すっかりキレイになってた。
今の今まで、ワインの跡があったはずなのに。
「なに、これ……。もしかして、流しに入れたら自動的にキレイにしてくれちゃうの?」
試しに一度、流しの中の食器たちを取り出して棚にしまって。今度はそっと、フライパンを入れてみる。
そのままジッと観察していると、一瞬だけ小さく光って。
そして次の瞬間には、もうキレイになってた。
「なにこれなにこれ! 一瞬なんだけど!」
あまりにも面白すぎて、今度はお鍋を流しに入れる。
そして同じように一瞬だけ光って、キレイになった。
「便利すぎるー!!」
ありがたいけど! いやもう、本当にありがたいけど!
でもこれでまた、私の初めての体験が奪われた形に……!
この家にいる限り、洗い物はできないものと思えってか! ちょっと興味あったのに!
「あれ? でも、なんか……」
水を出していない流しにここまで近寄ったのは初めてだったからか、今さらながらに気づいたんだけど。
なんか、臭くない?
「なんだろう? ちょっとやっぱり、臭うよね?」
この時はその理由が分からなくて、ただ首をかしげるだけで終わってしまったけど。
「んー……。とりあえず、寝よう!」
食事のあとは眠くなる。これ常識。
なので早々に睡魔に白旗をあげて、私はベッドへと潜り込んだのだった。
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