第10話 これが私の新しい生活スタイル
「さて、と」
とりあえずテーブルの上に、買ってきた物全てをバッグごと置いて。
まず先に、分かったことを一通り整理しておく。
「金貨は持って行かなかった。これ正解」
バッグの横に大量に積み上げられている金貨を見つつ、まずは片手で小さくガッツポーズ。
色々買い込むと重くなるし、そういう意味でも使えない金貨を持って行かなくて正解だったと思う。
「お砂糖は比較的高級品。これ覚えておこう」
つまり、令嬢時代当たり前に食べていたお菓子類も全部、高級品。
なんならアメ一つですら、子供が気軽に口にできるものじゃないのかもしれない。
とはいえお店のおばちゃんいわく、昔よりは安くなったってことらしいからね。もしかしたら今後、もっと普及するかもしれない。
「そして旦那様は高給取り。これ重要」
そう、そこ。
今日の一番の収穫は、もしかしたらこれだったかもしれない。
魔導士は確かに珍しいけど、平民出身でもこんなに大量の金貨をポンと出せちゃうくらいには、お給料がいいってこと。
旦那様に関しては、今は貴族になってるけどね。
「正確に言えば、逃げられないように無理やり貴族にさせられた、ってところだろうけど」
全員が魔術を扱えるわけではない以上、魔導士になれる人材はとてつもなく貴重。となれば、なんとしても国に留めておきたいと思うのが普通。
まぁでも、あの人はきっと研究さえできれば、あとはどうでもよかったんだろうけどね。
……あれ? 魔導士って、もしかしてみんなあんな感じだったりする?
「変わり者が多いとは、聞いてたけど……」
旦那様みたいな人たちばっかりだったら、統率を取るのがなかなかに大変そう。
でも逆に「研究できなくなる」って言われたら、全力で頑張りそうだけどね。仕事なんて最速で終わらせて、研究室に籠ってそうだもん。
「とはいえ、ですよ」
今後も渡される可能性のあるこの金貨たちを、果たして私はどうするべきか、ってことなんだけどね。
今のところ使い道がないから、とりあえず保管、みたいになっちゃうよね。
う~ん。銀行とかあれば、貯金しても無駄にはならないかなーって思うんだけど。それもないしなー。
「ま、しょうがないか」
無い物ねだりをしたところで仕方ないし、今は私が厳重に保管しておこう。
これもまた、妻としての役目だよね!
「よしっ。じゃあいったん、色々片付けちゃおう!」
食材だけテーブルの上に取り出して、今度は金貨を全部バッグの中に放り込む。
どうせ使うのは私だけなんだし、今は部屋のどこかに保管しておけばいい。
必要になったらすぐに取り出せるしね。
「あとは着替え着替え~♪」
フッフ~ンと鼻歌を歌いながら、バッグを掴んで部屋へと戻る。
どうでもいいけど、一人だけだと独り言が多くなるんだなって、ふと思った。本当にどうでもいいけど。
「おぉ!」
アルベルティーニ公爵家を出る時に持ってきていた服と靴から、買ったばかりの服と靴へ。ついでにリボンも変えちゃう。
これだけでかなり平民っぽくなった。
布自体が違うから、ちょっと硬いかなって思ったけど、その分丈夫そうだし。靴なんてヒールが全然ないから、こっちのほうが動きやすそう。
リボンも絹じゃないから手触りは落ちるけど、その分ちゃんと私の髪をしっかり結べてる気がする。
「すごい! コルセットが必要ない!」
ハイウエストのスカートは、私の瞳の色に合わせてグリーンにしてみた。
そしてこのスカートが、コルセットじゃなくて自分で紐を結ぶタイプの物だったから、好きな加減で止めることができる。
最高じゃない?
「これ考えた人、天才」
オーダーメイドじゃないからこそ、幅広い体形にフィットするように作られてるってことだよね。
これでもう、コルセットとはさようなら!
とはいえ足元が隠れるくらいに長いのは、貴族と変わらないっぽいけど。
その分、靴は貴族と違ってヒールもなければ、無駄な装飾もない。誰かに手伝ってもらわないと履けないような、面倒な作りもしていない。
本当に最高じゃん。
「うふふ」
なんだか嬉しくなってきて、思わずこぼれた笑み。
高い位置で結った金の長い髪の先が、視界の端でフワリと揺れた。
ちなみにリボンは持参した物と同じ幅広の赤色を選んで、可愛くちょうちょ結びにしてみた。
ブラウスは白と黒どっちも買ったけど、汚れるといけないから今は黒。
これもちょっとだけオシャレに、要所要所にフリルと、胸元に細いリボンつき。
ドレスほど動きにくくないし、気をつけなくていいし。これは本当に、ちょうどいい感じにオシャレだと思う!
「そうそう! エプロンもつけないとね!」
腰に巻くのは、スカートを汚さないため、かな?
念のため買ってはみたけど……。これに関しては、しばらく使ってみないと必要かどうか分からないかも。
「よっし、準備完了!」
これが私の新しい生活スタイル。
名付けて、ジュリアーナ平民バージョン!
正確には、平民じゃないんだけどね。旦那様は男爵位だから、ランディーノ男爵夫人バージョン、かな?
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