第85話 いざ出陣ですわ!


 総勢50名ほどの騎士が王宮の前に馬を引き集まった。


 国王陛下は馬車に、私と一緒に乗っています。エイドリック王子は、馬にて移動しますので、騎士の中に紛れています。


 私には剣がありませんので、王宮の掃除道具入れから箒を一本持ってきました。


 その行為が面白いようで、国王陛下はずっとケラケラと笑っております。


 笑顔が出て嬉しいですが、そんなに楽しいでしょうか?


 箒は掃除もできますが、戦うこともできます。


 馬車の中から、国王陛下がサインを送ると、騎士達は馬に跨がり、エイドリック王子が先頭を走り出した。



 いざ出陣ですわ!



 今日はクローネの住んでいた邸を隅から隅までしっかり見てきます。


 双子の弟はどんな男か気になる。


 奥様はどんな奥様でしょう?


 8年も放置されていても怒らない奥様が、気になります。


 大麻が群がる畑の中にある道を通って行きます。


 花の時期も収穫の時期も終えている大麻草から、麻薬を作っているのでしょうか?


 人手が足りなくて、放置をしているのかもしれないですね。


 それとも作り過ぎてしまったのでしょうか?


 領民はどうしているのでしょう?


 まだ空が白み始めた明け方は、特に冷える。


 コートと襟巻きとタイツをはいた厚着をしていても、冷える。


 外の騎士団達は、もっと寒いだろう。


 クローネの邸に到着したのは、人が動き出す時間だ。寝坊なら起きられない。


 国王陛下と私は、一番、後ろに付いた。


 先頭のエイドリック王子は、扉を静かに開けた。


 鍵はどうやら施錠されていなかったようだ。


 そうして、その後から、大勢の騎士が邸の中に入り、邸の住人を、まず確保する。


 まだ眠っていたようで、素早い制圧だった。


 邸の中は、殺風景だった。


 家具も少なく、人の気配はない。


 女性が一人、男性が二人いた。


 三人は一階のリビングに強制的に連れてこられて、縄で縛られている。


 メイドやシェフの姿もない。


 ここは侯爵家だと思ったが、あまりにも人がいなさすぎる。



「名を名乗れ」とエイドリック王子は命令した。


「クローネの妻、エミュと申します。子はおりません。この者達はクローネの双子の弟、クローニとクローニの愛妾ビオニスです」


 クロードの奥様は、美しい夫人だった。年齢はおそらく30代だと思う。


 エミュさんは、家族を紹介をした。


 愛妾という聞き慣れない言葉が出たが、クローニとビオニスは同性愛者なのだろう。


 クローニは髪が白銀で、瞳は薄いブラウンだが、ビオニスは完璧なブルーリングス王国の色を持っていた。髪は男性なのに長い。その長い髪を結んではいない。小柄な身体なので、よく見なければ女性に見える。年齢は不詳だ。



「使用人はいないのか?」


「クローネと共に処罰されて、この家の者は私達だけです」


「畑に生えているのは、大麻草だと思うが、これをどうするつもりだ?」


「クローネの部下が刈りに来て、少しずつ売りに行っていたようです。こんな草にどんな価値があるのか?結婚する前からクローネは、畑に草を植えていたね。食費は、毎月、クローネから送られてきたから、困ってはいなかった。私は表面上、妻となっているが、クローニの世話をするための家政婦ですよ。元々、貴族でもありませんし、閨を供にしたこともありません」


「それでは、草を刈りに来ていた者に会いたいが、名前は分かりますか?」


「何も知りません。クローネが死んだなら、金はもらえなくなるのか?クローニの世話もしなくていいのでしょうか?」


 エミュさんは、眉間に皺を寄せて、これから自分はどうしたらいいのか分からないようだった。


「エミュ、出て行くなよ。ご飯はエミュが作ってくれると兄ちゃんが言っていたぞ」とクローニが口をとがらす。



 身体は大人のようだが、口調は子供のようだった。



「父上、如何なさいますか?」


「エミュ殿、今言った事に間違いはないか?」


「ありません。クローネが死んだのなら、金は送られてこない。それなら、私はここから出て行きたい」


「縄を解いてもよかろう」と国王陛下は、おっしゃった。


「領民はどうした?」


「私は何もしてないね。だから知らない」


「外の草は、有害な草であるから、燃やしてもいいだろうか?」


「私はいりませんので、どうぞ燃やしてください。持ち主のクローネもいなくなったなら、文句を言う者もいないでしょう」


「では、有害な草は、騎士の手で処分する。エミュ殿が出て行かれたら、クローニは二人で生活できるだろうか?」


「クローニは、見て分かるように、知恵が遅れている。クローニの世話を見るために、ビオニスを連れてきたと聞いた。私がこの邸に来たときからいたので、詳しいことは知らない」


 どうやら、エミュさんは嘘をついている感じはしない。


「では、クローニとビオニスは、教会で見てもらおう。エミュ殿は、いつ出て行く?出て行くときに、保護に来よう」


「それなら明日、この邸から出て行くよ。二人のことは、国が世話を見てくれるなら、助かる」


「了承した。エミュ殿は明日出て行くといい。昼頃、二人を保護に来る」


「それなら、私も昼頃までいるよ」


「すまないね」と国王陛下がエミュさんに言った。


「エイドリック、今日は戻ろう」


「了解しました」


 騎士達は邸から出て行った。


 どうやら、大きな問題はなさそうだ。


 結局、クローネに妻はいなかった。


 翌日は、私は留守番していた。


 一日で旅支度をしたエミュさんは、中央都市で仕事と住処を探すと言っていた。


 クローニとビオニスの着替えや持ち物も纏めておいてくれたので、それを馬車に載せて、教会が運営している修道院に連れて行ったと聞いた。


 そこは、病気などで自立できない者を保護する施設です。


 貴族の寄付で運営されています。


 今までのように自由ではないかもしれませんが、食事も出ます。


 男性と女性に別れて、できる作業や簡単な仕事をさせているようです。


 枯れた大麻草は、騎士が、畑の周りの雑草を刈って、飛び火がないように気をつけて、燃やしたそうです。


 クローネは侯爵家の嫡男でしたが、領民から税金も取ってなかったようで、よい領主様だと、言われていたようです。


 補填していたお金は、麻薬や人身売買などから手に入れたお金だったので、決してよい領主ではないが、領民からは好かれていたようでした。


 これで中央都市の麻薬事件は、落ち着きを取り戻したようです。


 私はあっという間に9ヶ月になりました。


 お腹がはち切れそうに大きくなってきました。


 月日が、王女の心を癒やしたのか、ナターシャ王女とエリーゼ王女が、ローズ王女を誘って、王妃様とお茶会を始めました。


 今度は私も仲間に入れてもらえるようになりました。


 王妃様が私の武勇伝を面白おかしく話すので、頬が熱くなります。


 ヴィオレ王女は、エイドリック王子と温室でお茶を飲んだり、庭園を散歩したりできるようになってきたそうです。


 心に受けた傷は消えないけれど、少しずつ時間が癒やしてくれます。


 少しずつ、自分を受け入れて、考え、解決策を探っていくのです。


 エイドリック王子の猛烈なプロポーズも助けになったと思います。


 そんな時、辺境区から手紙が届きました。


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