第81話 出陣

 残酷なシーンがあります


 …………………………



 お兄様が集めた騎士は、この中央都市を守っている騎士達だ。総勢200人はいる。そこに、ホテルの関係者が集めた騎士が約100名が夜明け前に王宮の前に集まった。


 皆、中央都市を守っている騎士達だ。


 待てと言われていた私と私の侍女と御者が、箒を持って向かった。


 私達の姿を見たお兄様は、ぶはっと吹き出して笑っている。



「お兄様、一大事ですよ。笑っている場合ではありません」


「ああ、危険だから来るなと言ったが」


「違いますわ。迎えに行くまで待てと言ったのですわ。お兄様は、忘れておいでだと思ったのですわ」


「分かった、後ろの方にいなさい。子に何かあれば、レインが泣くぞ」


「分かりましたわ」



 レインの泣き顔を想像したら、急に寂しくなった。


 会いたい。


 会いたいけれど、子を守る役目もあるのです。


 迎えが来るまで待っています。


 でも、今は緊急事態です。


 お兄様は、王宮内の地図を開き、突入方法を話している。


 後から合流した者に話しておかなくては、上手く片付けられない。



「では、行くぞ」



 一斉に人が走り出した。


 壮観です。


 鍛え抜かれた漢達が戦いに行くのです。


 お兄様は、大丈夫でしょうか?


 お兄様は、騎士ではありません。


 想像した通り、入り口に人はいませんでした。


 扉は、全部開けられて、王宮内に入ると、静かに進んで行きます。


 騎士団の姿が見えましたが、皆、座っております。よく見ると、手を後ろで縛られております。


 動くに動けない状態なのでしょう。


 こそっと小柄な騎士が、騎士団の後方に駆けていきます。


 王宮内は、まだ薄暗く、よく見えないのです。


 小柄な騎士はナイフを配ったのか、後ろの者が前の者のロープを切っているようです。


 そうして、中の様子を聞いてきました。お兄様は、いったん、後方に下がると皆に中での様子を伝えます。


 この時間なら寝ている可能性もありますが、興奮状態の者は眠りがやってこない場合もあります。


 賭けですね。


 捕らわれている部屋に続きの部屋があったような気がします。


 その部屋に盗賊が寝ている可能性は大ですが、私は地図に載っていない部屋の存在を話しました。


 武器は皆、奪われているようなので、我々が倒さなくてはなりません。


 正面からと隣の部屋からも突入することになりました。


 いざ、出陣ですわ!


 私は箒を掲げて、静かに走って行きます。


 隣の部屋では、寝ていたようですわ。次々に足の靱帯を切って、縛っております。悲鳴を上げる前に、口を塞ぐ者もおりますので、素早い制圧ですわ。


 国王陛下の部屋では、サンシャインは起きておりました。


 騎士達が戦っております。


 私はベッドの中でブルーアイに涙を貯めたゴードン王子を見つけました。


 箒を捨てると、後ろですっころんだ者がおりましたが、敵なので知りませんわ。


 私はゴードン王子を抱っこして、静かな場所に向かいました。


 指を吸って、泣き出しました。


 きっとミルクももらっていなかったのでしょう。


 私はまだ母乳が出ません。マリアは大きいけれど無理ね。



「王妃様を」



 お兄様は、エイドリック王子と王妃様を連れてきました。



「王妃様、ゴードン王子に母乳をあげてください。脱水してしまうわ」



「乳母があげているのよ。ミーヤ」



 ミーヤはいないようです。


 乳母ならば、自分の子もいるはずです。


 この場にいたなら、急いで自分の子の様子を見に行った可能性もありますし、ここにはいなかった可能性もあります。



「王妃様しかおりません」



「出るかしら?」



「出すんですよ」



 王妃様を引っ張って、応接室に入った。


 王妃様は、どのように乳をあげるか分からないようで、困っておいででした。



「王妃様、失礼します。私は看護師でございます。肌に触れる事をお許しください」と言って、王妃様のドレスを上半身脱がせると胸をマッサージした。すると、徐々に乳が出てきました。そっとゴードン王子に乳を含ませる。



 ゴードン王子は泣きながら乳を吸っている。


 乳が出ているようで安心した。




「吸っているわ」


「もう大丈夫ですわ、途中で、反対の乳も吸わせてくださいね」


「分かったわ」



 王妃様も落ち着いて参りました。



「姫様達はどこに?」


「盗賊達に襲われているわ。ヴィオレ王女も」と言って、王妃様は泣き出しました。


「捕らわれていたサンシャインを逃がしたのは誰ですか?」


「第二夫人のリアンよ、一生許さない。私の可愛い娘達を傷つけた。ニナ妃、助けに行ってください。姫達を助けてください。できたら、この部屋の前に騎士を立たせてください」


「承知しました。ラソ、王妃様をお守りしてください」


「承知しました」



 私は素早く部屋から出ると、縛られていて出遅れた騎士を連れてきて「王妃様がここにいます。王妃様を守って」とお願いした。



「承知しました」



 私は素早く王女達を探し始めた。


 王宮には部屋がたくさんある。



「ニナ様、もっとゆっくり歩かれた方がいいと思いますわ。ニナ様の赤ちゃんも大切ですわ」



「そうね」と膨らんできたお腹を撫でる。


「私とレインの子ですもの。丈夫ですわ」


「どこにそんな根拠がありますの?」とマリアが呆れています。


「国王陛下の執務室から一番近い寝室は何処ですか?」


「それなら、こちらですわ」


 マリアとシェロが箒を掲げて、歩いて行きます。


 皆が王女達を探しているように見えるが、まだ見付からないようです。


 一番近い部屋にはいなかった。


 既に、騎士が確認している。


 サンシャインならどうするか考える。


 一番屈辱的なところは何処?


 まさか、牢屋?




「マリア、牢屋に連れて行って」



「牢屋ですか?」



「サンシャインの指示なら、もしや?」




 マリアは牢屋の場所を知らなかったので、王女を捜索している騎士に連れて行ってもらった。



 牢屋へ向かう途中で、王女の泣き声が聞こえて、騎士は仲間を呼びに行った。


 牢屋はジメジメしていて、床ではなく土で造られている。布団もなく毛布もない。そんなところで、初めて抱かれるのは、辛いだろうと思う。


 犯人を逃がしてはならない。


 後方から、素早く走ってきたのは、エイドリック王子とお兄様でした。遅れて、騎士が二人。


 四人牢へと入ったようです。


 私の後ろにいたマリアが走っていきました。




「キルトを持ってくると言っておりました」とシュロが言いました。



 姫達の心に深い傷ができませんようにと、私は神様に祈りを捧げました。


 バシバシと体術の音が、まだ続いています。


 いったい、何人いたのでしょう。


 マリアが戻って来ました。




「外に騎士達が待機しております」


「そう」



 姫達の姿をなるべく見せないように配慮しているのだろう。



「キルトを」とエイドリック王子の声が聞こえた。


 マリアが私にキルトを渡してくれた。


「キルトです」と言って、4つの牢を通った。


 賊の数は4~5人でしょうか。


 私はなるべく姫を見ないように、手早く渡していく。



「騎士を入れてくれ」


「はい」



 私は外にいる騎士に「捕らえてください」と伝えた。


 エイドリック王子に抱かれた乙女はヴィオレ王女でした。


 お兄様は、まだ幼いローズ王女を抱いていました。


 騎士に抱かれているのは、ナターシャ第一王女とエリーゼ第二王女でした。


 ナターシャ王女とエリーゼ王女は顔を隠しておいででしたけれど、泣いてはいません。


 王女の威厳を感じられます。


 私なら、きっと泣いてしまう。


 二人の王女を見習わなくてはと思う。


 国王陛下の執務室に戻ると、扉の外に騎士達がおりました。


 私には使命があります。



「すみません」と騎士の間に入り、国王陛下に報せなければならないことがあります。



「国王陛下、王女3人とも無事に保護しました。ヴィオレ王女も無事に保護しました」



「ありがとう、ニナ妃」



 国王陛下は、剣を抜いておりました。


 剣先は、第二夫人のリアン妃に向いております。




「盗賊を逃がし、王宮を盗賊に明け渡した罰は、軽くはない」


「忘れられておりましたので、名前を思い出して欲しかったのですわ」


「馬鹿げたことを言う。子供のような理由で大罪を犯した。盗賊と一緒に処罰をしてやろう」


「貴方の子供は見ていただけですわ」


「同罪であろう」



 シル王女は、俯いていた。


 騎士達が入って来て、二人を縛り上げている。


 サンシャインも縛られ、外に連れて行かれる。


 すれ違いざまにサンシャインは、私を見ていた。


 足がお腹めがけて蹴りを入れられたが、お兄様がその足を剣で斬り付けた。



「危険だ、後ろに下がっていなさい」


「はい」



 私もお兄様もサンシャインを睨み付けていた。


 リリーを殺した犯人だ。


 殺したいほど、憎らしい。


 盗賊は全て極刑を言い渡された。


 王宮の前にある公園に連れて行かれて、騎士が盗賊の首を落としていく。


 王女達を犯した盗賊は、性器を露出され、根元から切り落とされてから、首を落とされた。


 お兄様は国王陛下から、サンシャインの処刑をしてもいいと許可を頂いた。


 首を差し出した格好で、他の騎士が逃げ出さないように、押さえつけている。




「リリーをどうして殺した?」


「生意気で鬱陶しいのは、遺伝か?」


「最後の言葉は何だ?」


「忘れたね」



 答える気はそもそもないようだ。


「殺せ!」とサンシャインが叫んだ。


 お兄様は、首を落とす為の剣を振り上げて、サンシャインの首を落とした。


 敵討ちにするには、生ぬるいが、お兄様は、剣を置き、サンシャインの頭を踏みつけた。



「国王陛下、リリーの敵討ちをさせていただき感謝します」



 お兄様は、深く頭を下げた。


 私も頭を下げた。


 サンシャインを殺しても、リリーは帰ってこないけれど、それでも、気持ちは楽になる。


 お兄様が頭から足を下ろすと、今度は国王陛下がサンシャインの頭を踏みつけた。


 骨が折れて、眼球が出て、形も変わっていく。


 脳も潰れて、耳や鼻からもどろっとしたものが出てきた。



「大切な姫を穢したことは、死んでも許さん」



 国王陛下は、サンシャインの頭をぐしゃぐしゃになるほど踏み潰した。


 国王陛下はご自身で殺したいのを、お兄様に譲ってくださったのだと思った。


 首が数え切れないほど落とされて、最後に燃やされた。


 シル王女も同罪にされてしまった。


 貴族の者は、爵位剥奪の上に、国外追放となった。


 国外には、ブルーリングス王国も含まれると追記された。


 一週間以内に出て行かねば、死罪だとお触れが回った。


 盗賊に犯されたヴィオレ王女に、エイドリック王子は、結婚を申し込んだが、穢れた身であるからと、いい返事は返ってこなかった。


 だが、エイドリック王子は、そんなヴィオレ王女を強く抱きしめて、優しいキスをしたという。


 ヴィオレ王女はエイドリック王子の胸で、泣いたという。


 預かった王女を傷物にした責任もある。


 国王陛下はプルルス王国の国王陛下に謝罪をして、正式に結婚式を行うと約束した。


 合同結婚をする予定だったが、直ぐにウエディングドレスを用意し、ウエディングドレスができ次第、結婚式を挙げる予定を立てた。


 冬物のマタニティードレスを取りに行ったら、アリスさんは、忙しい、忙しいと三月ウサギのように忙しいと繰り返していた。



「そうだ、レインは辺境区に行ったんだったな?」


「ええ」


「妊娠おめでとう。レインがいないが、困ったことがあれば、なんでも言ってくれ。このウエディングドレスが出来上がったら、お子の産着からおしめも作っておくから、他で買うなよ」


「ありがとうございます」


「どういたしまして」



 また忙しいと言い始めたので、私はお店から出て行った。


 マタニティードレスや下着までオーダーメイドって、すごい。


 凄いのは、数も凄かった。


 生まれるまでに、全部着られるだろうか?


 お祝い事なので、まあいいかと思った。


 従者は王家の従者だ。


 たくさんの荷物を馬車に積んでいる。



「ニナ様、馬車に乗りましょう」


「はい」



 私の手を取ったのはマリアです。


 住処は、お兄様の邸から、王宮に替わりました。



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