第63話 檻の中のリリー


 プルルス王国の第三王女、ヴィオレ王女がニクス王国に到着した。


 迎えに出たニクス王国の国王陛下と王妃陛下とエイドリック王子、たまたま散歩をしていたレインと私も、お迎えに上がった。


 プルルス王国は、まだ電気が通っていないらしい。医学の知識も持つ者も少なく、知識も浅いと聞く。


 その者達を学ばせて欲しいとお願いのために、寄越された王女である。


 そんなたいしたことではない事の為に、売られてきたような王女は、気の毒である。


 どんな芋のような王女かと思っていたが、馬車から降りてきた王女は、とても美しかった。


 お歳は18才と若い。


 私は自分の顔を覆いたくなった。


 とても瑞々しい肌に、目鼻立ちは美しい。


 着ているドレスは見窄らしいが、飾ってやれば、私より美しいと思う。


 プルルス王国の髪型は、髪を結い上げる髪型のようです。


 首も細く、とても儚く見えた。


 エイドリック王子は、頬を染めておいでだった。



「ようこそ、ニクス王国へ」


「この度は、パーティーに招待いただきましてありがとうございます」


 ヴィオレ王女は、ニクス王国のお言葉も覚えておいでです。


 会話に不自由はなさそうです。


 私達は、簡単な自己紹介をして、サロンにお誘いした。


 国の担当の者が、ヴィオレ王女を連れて行った。



「18才って若いわね。私が老けたような気がしたわ」


「何を言っておる。ニナは美しい」


「確かに美しかった」とエイドリック王子は、どうやらお気に召したようだ。


 今は夏だが、春の予感がします。


 恋する乙女は美しいけれど、恋する殿方も優しげなオーラに包まれて素敵になります。


「ニナも美しい」


 あら?ニナもですって、レインもヴィオレ王女が美しいと認めているのね。


 先に国王陛下と王妃様にご挨拶がありますから、お目にかかれるのは、夕食の時間かしら?


 ヴィオレ王女の従者が馬車から荷物を下ろしています。


 荷馬車の後ろから、垣間見えたのは檻のように見えました。


 私はレインの腕に捕まったまま、馬車に近づいていった。



「おうかがいしたいことがあります」と声を掛けると、男が手を止めて、近づいてきた。


「チラリと見えたのは、檻ではありませんか?」


「そうです。盗賊が現れるので、警戒して檻を積んでおります」


 他の従者が、幕を捲って檻を見せてくれた。


 檻の中には、ずいぶん汚れた女性が倒れていた。


 そのお顔を見ると、ずいぶん酷い怪我をしている。


 髪は短く、肩の上で切られており、まとう雰囲気がリリーの様な気がした。



「リリー、リリーよね?」



 私は檻に近づいて、檻の中に倒れている女性に声を掛けた。


 顔が腫れて、本来の顔が分からない。


 けれど、身につけているドレスや肩までの髪は、リリーにそっくりだ。



「お知り合いでしょうか?この者は、盗賊の中におりました。男に手を引かれて、倒れ込んだところを、男に捨てられておりました」



「リリーよね?」


 返事ができないほど衰弱しております。


 そこら中に怪我をしております。


 私はレインを見た。



「リリーに見えるの」


「その者の治療をさせてもらえないだろうか?知人によく似ているという」


「承知しました」



 檻の鍵が開けられても、身動きすらしない。


 意識がないかもしれない。


 檻の存在に気づいた騎士達が集まってくる。



「この者を離れに連れて行き、医師を呼んでくれ」とレインは言った。


「どうして、離れなの?」


「リリー嬢と決まっているわけではないから、身元が分かるまで、離れに保護した方がいい」


「分かったわ」


 リリーにそっくりな女の子は、離れに連れて行かれた。


 私はその後を着いていく。


「この子がリリーなら、ハルマ様は何処に行ったの?リリーを連れていったのは、ハルマ様だわ」


「今の段階では、推測しかできない」


「可哀想、こんなに顔を殴られて、痛かったでしょう?誰か分からないまで殴るなんて、人がすることじゃないわ」


 離れに到着すると、医師が既に到着していた。


 リリーの状態を見ると、そのまま入院となった。


 私はレインと離れて、私の護衛と一緒に病院に向かった。


 レインは客人のお相手をしなくてはならない。


 不安だけれど、いつでも甘えていられない。


 医師からリリーは妊娠していると言われた。しかし、心音が聞こえないと言われた。


 死んだ子を、手術で出さなければならないと言われた。


 お兄様に報せないと。


 私は病院で筆記用具を借りて、紙をもらうと、お兄様に手紙を書いて、護衛の一人に届けてもらう事にした。


 お兄様は、サーシャとレアルタを邸の騎士に「外に出すな」と言って一人で来てくれた。


「お兄様、顔を殴られていますが、私にはリリーに見えますの?」


 お兄様の腕を引っ張り、リリーの元に連れて行く。


「リリーは、腕の付け根にホクロがあったのだ」と言って、その場所を確認した。


「リリーだ」


「リリー、お腹の中で赤ちゃんが死んでいるそうなの。手術で子を出さなくてはならないそうなの」


「何だと?」


 お兄様に、私はリリーが捕まった経緯を話した。


「ハルマが盗賊になっている可能性もある」


「そんなこと」


「ハルマとビストリは、学生時代に、素行が悪くてよく教師に呼び出されていた。一般的に言われる不良だ。レイプ、喧嘩、盗みと言った素行の悪いことは、一通り経験してきているはずだ。レインが、知っていたかは、俺は知らないが」


「きっと知らないわ」


「レインは、心根が優しいから、多少のことは多めに見るし、相当、目に余ること以外は許す。優しいだけでは、纏められないときもある」


 トンと扉が叩かれて、レインが入って来た。


「とっても勉強になる忠告だ。俺はアルクにも同じことを言われてきた。この際、心を入れ替えるよ」


「それがいい。ブルーリングス王国の王子だ」


「おう」


「リリー、生きて戻って来て」


 リリーは手術室に運ばれていった。


 死んだ赤ちゃんは朽ちていく。いつまでも体内に入れておけないのだ。


 開けて見なければ分からないが、内臓が破裂している可能性があるという。


 私は誰とでも抱き合っているリリーの姿を見て、赤ちゃんができればいいと思ったことがあった。


 赤ちゃんは罰で生まれてくるのではない。


 幸せになるために生まれてくるのだと、今の私は思っている。


 それが死産だとは。


 内臓が破裂していれば、命に関わる。


 待合室に通されて、手術が終わるのを待つ。



「プルルス王国の国王陛下と王妃様も到着したよ。後は両国の話し合いと、エイドリックがヴィオレ王女とやっていけるかだ」


「こんな大切なときに、問題を起こすのは、さすがリリーね。昔から、タイミングを計ったように何かの行事の時に、何かをしでかす」


 いつも笑って過ごしてきたのだから、今回も笑って戻って来て。


 私達、仲直りをしたのよ。


 私達と別れて、約三ヶ月。何をしていたの? 



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