第62話 婚約
エイドリック王子が国王陛下と相談した結果、国王陛下はエミリア様と相談をすると決められた。
本来は王妃様がすることだが、王妃様は産後の安静期間であるので、国王陛下に仕事が回ってきた。
条約を結ばねばならないので、レインと私も同席した。
約束時間に待っていると、エミリア様が到着しましたと報せが来た。
開けられた扉の中には、10センチほど持ち上げた髪はびっしりと真珠で埋め尽くされて、ドレスは、真珠と点滅する電球が付いていた。
電球が真珠と同じ大きさになったのは、控えたのだろうか?それとも、そういうデザインなのか。
「お久しぶりでございます、国王陛下」
エミリア様は国王陛下にお辞儀をした。
「久しいの?会わない間に何かあったのか?エミリア嬢はずいぶん雰囲気が変わられたな?」
「そんなことはございません」
それにしても、重そうなドレスだ。
ドレス全体に真珠を縫い付けて、その間に電球が埋まっている。小さな電球でも真珠でも、数が増えれば、それだけ重くなってしまうだろうに。
ふと足下を見れば、なんだか不安定に見える。
「さあ、ソファーに座るといい」
「はい、失礼いたします」
カツカツカツと靴の音がする。
ソファーに座った瞬間に、バリと音がした。
割れるわよね。ガラスですもの。
「エミリア嬢、凄い音がしたが、痛くはないか?」
エミリア様は、目に涙を浮かべておりました。
「エミリア、ちょっと立ってみてくれ?」
エイドリック王子がエミリア様の前に行き、手を差し出すけれど、エミリア様はその手を取られなかった。
私はお節介かもしれないと思ったけれど、エミリア様の前まで行き、「怪我をなさったのではありません?ガラスの割れる音がしましたわ」と、お顔を覗き込みました。
エミリア様は唇を噛みしめておりました。お顔の色は青ざめています。
「ご挨拶が遅くなりました。私はニナと申します。ブルーリングス王国の血族です。看護師免許を持っております。少し見せてもらえませんか?」
「けっこうよ」
心を閉じてしまったようです。
仕方なく、私は自分の席に戻りました。
「エミリア嬢、何を頑なになっておるのだ?」と国王陛下は、エミリア様を案じております。
「怪我をしたのなら、医師を呼ぶ。痛ければ、一言痛いと言えばいいのだよ?」とエイドリック様が心配そうに見ております。
「痛いわ」
「分かった。直ぐに医師を呼ぼう」
エイドリック王子が手を差し出したが、その手を取らない。
いったい何を考えているのやら。
エミリア様は自分で立ち上がると、ふらつき、床に転んだ。
ドレスから垣間見える靴の踵は、軽く10センチほどあった。
これでは捻挫してしまう。
エイドリック王子が起こそうとエミリア様に触れると、エイドリック王子の指先から血が流れた。
触れようとしても触れられない。
「私に触らないでください。電球が割れたんだわ。強度の計算を間違えてしまったようです。最近、研究に集中できなくて。二兎追うものは一兎をも得ずと言われますものね。私も、そろそろ決断の時が来たようです。この婚約はなかったことにしてください。学術学会で、私のレポートが選ばれたのです。研究者としては、これ以上ない名誉なことです。フラッオーネ帝国で研究をしないかと声を掛けてもらっているのです。私は研究がしたい。エイドリック王子、我が儘をお許しください。私の頭の中は、数字で溢れています。王妃の役目は、もっと適したお嬢様がいると思います」
エミリア様は美しいお辞儀をエイドリック様にしてから、国王陛下にお辞儀をした。
「お部屋を汚して済みませんでした。落ちているのはガラスですので、気をつけて片付けてください。王妃様にはご期待に応えられず申し訳ございませんでしたと、お伝えください」
エミリア様はそのまま応接室から出て行かれた。
エイドリック王子は、「頑張れ、エミリア!」と声援を送って、爽やかな笑顔を浮かべていた。
私は、文句も言わずに応援できる、懐の大きなエイドリック王子は素晴らしいと思った。
「さて、エイドリック。想い人は自分の道を見つけたようだ。心は痛むか?」
「いいえ、俺はエミリアを愛していましたが、自分で決めた道に進むのであれば応援したいと思います」
「では、次の婚約者を決めなくては、エイドリックも婚期を逃しているから、いい相手がいるといいが?婚約者を決める前に、プルルス王国の姫の存在がある。その姫をパーティーに招待して、お見合いをしてみるか?」
「はい、俺もそれがいいと考えておりました」
「では、手紙を書いておく。日時の変更はしない。仕方がないから、もう少し現役をつづけるか」
「お手数をおかけ致します」
「ブルーリングス王国と友好国になり平和条約は結んでおくつもりだ。ニクス王国にブルーリングス王国の血が思った以上に紛れているようだ。姉妹王国にした方はいいかもしれないよ。ブルーリングス王国に作った療養所を使ってもらわなくては、宝の持ち腐れだ。病院でも、長期療養者に勧めてもらう」
「それは助かります。そろそろ完成している頃合いだと思います」
「ブルーリングス王国は医療面に力を注いできた。薬の研究所も充実させている。今、ニクス王国で研修をさせてもらった者が、冬の前に移動をする予定でいる。患者もいれば、一緒に移動してもいいと考えています」
「そうか、冬の前だな。病院の院長と話をしておく」
「ありがとうございます」
レインは、頭を下げた。
「それから、学校を作ってもいいかもしれないね」
「確かに大国では、寄宿舎のある学校がある。土地は余っている。空気もいい。冬は寒いが、若者なら身体が鍛えられる」
「先ずは男子校を作ってもいいだろう、こちらでは教え導く教師を探しておく」
「国王陛下、ありがとうございます」
「しっかり勉強や研究所を充実させておかなければ、エミリアのように優秀な人材が大国に出て行ってしまう。我が国とブルーリングス王国に留めて、立派な人材を作り、国の発展に役立つ者を作って行かねばならない。平民からも知識のある者は勉学させるべきであろう。奨学金や推薦者などの協力があれば助かる。会議で話し合ってもいいであろう」
国王陛下はブルーリングス王国の未来。姉妹王国と考えられているようだ。その方が助けられる。元々、ニクス王国の一部を貰い受けているので、ブルーリングス王国だけではやっていけない。土地はブルーリングス王国となるようにするのだろう。
「学校の建築は、寄宿舎も含めて作りたいので、来年の春を目処に完成させたいと考えております」とレインは言った。
「地元にも学校を作るといいと思うわ。小学校から教育をすれば、ブルーリングス王国の幼い子も育っていくわ」
私は孤児院の子供も連れて行きたいと思っている。
ただ、今すぐは難しい事は分かっている。
住む場所と学校も必要となる。
「孤児院の子達も連れて行こう。孤児院の子達はブルーリングス王国の子であった」
「やることがいっぱいよ」
私はレインの顔を見て、微笑んだ。
レインも楽しそうな顔をしていた。
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