第10話 レイン辺境伯の仲間達
その日の夕食は、レイン辺境伯の友人達と顔合わせをすることになりました。
皆さん、ブルーリングス王国の血族だそうです。
一度、身支度を調えるために部屋に戻った私は、少し休んでいます。
アニーはいなかったので、自宅に戻ったのでしょうか。
私は、どうして、宮殿に女性はいないのか不思議に思い、レイン辺境伯に聞きました。
ブルーリングス王国の血族は男しか生まれないと言うことは、まずあり得ないことだと思いました。
だって、私やリリーがいるんですものね。
女性もいるそうですが、私のように早くに結婚したり、幼い頃に顔合わせをすませて、婚約をなさった方もいたりするそうですが、辺境区はやはり安全な地区ではないので、婚姻の時まで中央都市で過ごしているとか。
ときどき婚約者に会いに出かけたりする殿方もいるそうですが、家族の反対や、様々な理由があり婚約者を連れては来られないそうです。
隣国、ブリッサ王国との関係は、最近、やっと落ち着いてきたそうです。
それなので、今は病院には怪我人はいないそうです。
村人の病人が入院している程度にしか、患者はいないそうです。
隣国のブリッサ王国は、領地を少しでも広くしたがっていたのですが、それは、この辺境区にしか生えていない薬草が欲しかった為だと分かった事で解決策が見つかった。
その薬草は、レイニア草という薬草で、弱った臓器に力を与え、衰弱していた身体を健康に導くと言われているそうです。
他の地区には生えていない貴重な薬草です。
ブリッサ王国の王妃様が難病に罹り、その為に、レイニア草が必要だったと分かりました。
レイン辺境伯は、その薬草を畑で育て、量産を始めたそうです。
ブリッサ王国がその薬草を欲しがっているのならば、売りに出せばいいと考えられた。
そうして、ブリッサ王国と交渉をしたそうです。
ブリッサ王国の国王陛下は、レイン辺境伯の交渉を飲んだ形になり、今は争いがなくなっているそうです。
ブルーリングス王国の名前は出してはおりませんが、レイン辺境伯は、ニクス王国の国王陛下から、陛下と名乗られる立場である事を発表されていますので、レイン辺境伯は、この地をニクス王国の国王陛下から戴き、新たな小国とする事になっていると話しをしてあるそうです。
国の名が決まったら、早めに教えろと言われるほど、ブリッサ王国の国王陛下との関係も良くなったようです。
レイン辺境伯は、18才の頃から、この土地に移り住んで、今は26才になったそうです。
8年も、この地で努力を重ねてきたと知り、私は胸を打たれました。
8年と言えば、私が12才の頃からです。
貴族学校に入る前で、まだ、お母様に甘えていた頃のお話です。
薬草を栽培し始めた頃は、略奪などがあり村全体が襲われる様な有様だったそうですが、侵入者と戦う者と薬草畑を守る者に別れて、何度も話し合いが行われたそうです。
そんな昔から、国の為に働き続けていたと知り、私はレイン辺境伯の事を、もっと知りたくなりました。
尊敬できる殿方だと思いました。
レイン辺境伯だけでなく、この土地で戦ってきた戦士は立派です。
私を迎えに来てくださった殿方の頬には、斬られた傷跡が無残に残っておりました。
それほど、戦いは命がけだったに違いありません。
時計を確認すると、そろそろ準備を始めた方が良さそうです。
今夜はお披露目会をするから、お洒落をしておいでと言われています。
クロークルームに入り、ドレスを見ていく。
それにしても、多い。
これほどの数のドレスを私は持ってはいませんでした。
ドレスの生地も滑らかで、デザインも同じ物はありません。
お披露目会なら、派手すぎずともレイン辺境伯に恥をかかせるようなドレスを選んではなりません。
髪が白銀のように白っぽいので、髪のお洒落も頑張らねばなりません。
*
「皆の者、やっとこの地にやって来てくれたニナだ。俺の妻になってくれるよな?」
レイン辺境伯は、私の自己紹介の時に私の顔を覗き込んで、私を困らせます。
「ニナ・アイドリース伯爵令嬢だ」
拍手が湧き上がる。
ダイニングの大きなテーブルには、男だらけ勢揃いしております。20人ほどが集まっております。
私やレイン辺境伯と同じように、白銀の髪の者もおりますし、ブルーアイを持っている人もおりました。
リリーのように薄いブラウンの髪や濃いブラウンの髪の者もおります。
ブルーリングス王国が滅亡したのは、祖母がまだ幼い頃でした。祖母は王家の血筋を持った公爵家の長女でしたので、王族と共に逃げ出したのでした。
祖母の祖父母達は、若者を逃すために邸に残り、無事に任務を果たしたのです。
領民、貴族は皆殺しに遭い、国には誰一人として生者は残らなかったと言い伝えられてきた。
今、このテーブルを囲んでいるのは、王族縁者、王族を守ってきた近衛騎士達も含まれていたのかもしれません。
家族をその土地に残して逃げる事は、どれほど辛かったのかは、私は祖母から聞いておりました。
国は乗っ取られ、地図上にブルーリングス王国の名前はなくなりました。
逃げた者は、平民の洋服に着替えて、山を越えて、何ヶ月も歩き、国境をわたり、
友好国だったニクス王国に逃げたのです。
ニクス王国では、貴族が逃げてきた我々を保護して、その存在も隠すように暮らしていたと聞いています。
保護してくださった曾祖父は、子供を亡くしていたので、お婆様と一緒に逃げてきた男児を養子に迎え入れてくださいました。
そしてお婆様は血を残すために、一緒に逃げてきた親戚の子と結婚し、やっと隠れて過ごす事はなくなってきたそうです。
年月が、ブルーリングス王国の名前を消していきました。
お婆様は私の父を産み、父は、血を残すためにブルーリングス王国の血族のあるお母様と結婚して、私が生まれたのです。
冷酷非道のミエド王国も世代交代が起きて、以前よりはおとなしくなっております。
ですが、ミエド王国は国に夜襲を起こし、国の人々を皆殺しにしてしまうような国です。隣国の国は、ミエド王国を恐れておりました。
大陸の王家の者が集まり、平和条約が結ばれたのは、まだ最近です。
平和条約が結ばれ、ミエド王国はおとなしくなったそうです。
世代交代が起こり、今の国王陛下が殺戮を好まない人であった可能性が高いですが、何はともあれ、平和条約に則り、戦争が起きないことが何より好ましいことです。
ですが、平和条約が結ばれても、隣国ブリッサ王国は国境地帯にいざこざが絶えず起きていました。
ニクス王国の国王陛下は、辺境区の砦を守り続けていました。
夜襲を受けて、怪我人が大勢出て、辺境区は病院が作られ、医師や看護師が派遣されていた。
人の命が、儚く散っていくのを悲しく思い、大量の兵士を向かわせて、戦争は続きました。
そこに派遣されたのは、レイン辺境伯でした。
新たな指導者を迎えて、戦い方も変わってきました。
レイン辺境伯は、戦いをどうにか食い止めたくて、戦争の理由を確かめるために、殺すのではなく、ブリッサ王国の戦士を捕虜として捉え、この戦争の理由を確かめていったそうです。
大半の戦士は、ただの駒でしたので、よく理由も知らずに戦わされていた。
ただ、ニクス王国に侵入できたなら、ある薬草を探し、持ち帰る。それが戦いの目的である事を話していたという。
そのある薬草というのが、レイニア草だったのです。
ニクス王国に生えるレイニア草は、決して多くはない。
土地を荒らされ、その薬草も数を減らしている程だった。
レイン辺境伯は、レイニア草の栽培を行い、その薬草を増やすようにし始めた。
危険を承知で、ブリッサ王国を訪問して、国王陛下とレイニア草の販売をするので、この無益な戦を終わらせたいと申し出た。
捕虜も帰した。
その訪問で、どうしてレイニア草が必要なのかも知り、両国で条約を結ぶ事になったらしい。
レイン辺境伯は、レイニア草を増やしていき、ブリッサ王国に売りに出す。
正式な形での商売となっていったという。
まだ友好国とは言えないらしいが、これから、互いに協力し合える友好国としての条約を結ぶ手筈を整えている所だそうだ。
レイン辺境伯の仲間達は、レイン辺境伯を、皆さん、レインと呼び、とても親しげだ。
私を迎えに来てくださった頬に傷のある剣士は、私に優しく微笑みかけた。
彼はレイン辺境伯の側近の一人だそうだ。
ブルーリングス王国の血族ではないが、ニクス王国の国王陛下が与えられたレイン辺境伯を守るための側近で、兄の様な親のような人だという。
彼の名前は、アルク・ブクリエ侯爵という。大将を言い渡されていた。
レイン辺境伯の友人の一人であるビストリ・フシール伯爵は、私もお名前は聞いた事があった。
彼はレイン辺境伯と幼馴染みで、学校も、剣の鍛錬も一緒にしてきた仲だとか。
彼の髪も瞳も残念ながら、ブルーリングス王国の王族の色は持ってはいなかった。
彼の兄弟もその色はなく、伯爵家は弟が継いで、長男であるビストリ様は、辺境区で伯爵の位を引き継いでいる。
レイン辺境伯は、この際、侯爵でもいいと言ったらしいが、呼び慣れないからと伯爵の名前でいいと突っぱねたらしい。
欲のないと笑われていたが、きっと名前や位など、あってもなくても、彼らには関係がないのだろう。
同じく幼馴染みの殿方が、もう一人。
彼はブルーアイを持っていた。
髪色は、リリーとよく似た薄いブラウンの髪をしていた。
彼の名前は、ハルマ・シェラハト伯爵というらしい。
彼も公爵家の系列であるらしい。
顔立ちは、三人とも似たところはないが、血の繋がりはあるようだ。
他に者は、ニクス王国の国王陛下が寄越してくれた、レイン辺境伯の護衛だという。
ハルマ様には、弟と妹がいて、弟が中央都市で家を継ぎ、その妹であるサーシャ様がビストリ様と結婚をするらしい。
ハルマ様にもブルーリングス王国の血族の乙女を探しているが、今の所、見付かってはいないらしい。
ふとリリーの顔が浮かんだけれど、リリーが同じ殿方と結婚を継続できるとは思えなくて、その考えは捨てた。
リリーがいたら、私に安息はこない。
もう一人、髪が白銀の殿方がおりました。
目の色は薄茶です。
そのお方は、クローネ・ビッフェル侯爵と言われるそうです。
何故、侯爵なのかと言えば、ただ保護された邸が、それであったというだけだという。
クローネ様は、レインより年上であった。
お歳は、30才だという。
奥様は中央都市においでだそうだ。
ブルーリングス王国の血族だという。
お子様は、まだいらっしゃらないという。
血を残すために、レイン辺境伯は、中央都市に戻ってもいいと言っておられるが、この地が、ブルーリングス王国になるならば、妻を説得するのが、自分の責任だという。
中央都市に残された奥様は、寂しくはないのだろうか?
離れて暮らして、8年、戻ってはいないという。
結婚をして、直ぐに別居したのだと彼は言った。
心は離れてしまわないのか、心配だった。
この五名が男性のブルーリングス王国の血族だという。
あまりにも少ない。
中央都市に、彼らの兄弟がいるが、それでも少ない。
姫がどれほどいるのか?
中央都市に残る者達が、ブルーリングス王国の血族と結婚するとは限らない。
美味しい食事の後は、ワインを開けて、皆さん、楽しそうに飲んでいらっしゃいます。
私も、自然に受け入れてもらえたようです。
寧ろ、『レインを頼む』と皆さんにお願いされました。
レイン辺境伯も『もう好きになったであろう?』と急かせてきます。
そうね、確かに、こんなに歓迎されて、『好きだ』『愛している』と囁かれ続けたら、頭が勘違いでも起こしそうですわ。
でも、私の心は、もう傾いているの。
私が一言『好きです』と告げれば、ハッピーエンドですわね。
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