社畜 面談

取り敢えず一通り今できる範囲の事をこなす


「予算は……なんで書いてないの? なら仕方ない。この会社でできることは……金銭面の支援だよな他に何ができる? 一応コンピューター得意な奴はいるから編集とかは手伝えそうか」


定時前に必要な報告の書類を整えて上司に渡す


「これ渡しておいてください。予算とか言って貰えないと組めないんですが」

「確かに、分かった。上に渡しておこう」


名目上はこの仕事は蓮二ではなく同僚がやっている事になっている

そのため蓮二が直接渡すのは不自然になる

上司を経由すればその心配もない

仕事を終えて定時に帰る

上司に仕事を返された同僚に睨まれるが怖くなどない

そのまま家に帰ってすぐに食事風呂を済ませて明日の支度をして寝る

一日では完全には疲れは取れずまだ残っている

あの戦いはそれ程の激闘であった

早めに寝て少しでも体力を回復させる

翌日朝に一鬼から連絡が来る


『今日、父と面談する事になったからよろしく』

『ファ!?』

『スポンサー契約の件でね。一応まだ鶏君だとは言ってないからあくまで相談』

『成程、了解』

『それじゃ出社したらすぐに会議室に来てね』

『分かった』


出社してすぐに会議室に向かう


「あっ井坂くん」


会議室の前には震えた上司が立っていた

話は聞く前にわかるが取り敢えず聞く


「産まれたての小鹿バリの震え方してますが」

「獅子神さんに呼ばれてね内容は伝えられてないんだ」


クビかもしれないと震えているのだ

一応内容を知っている蓮二は首を傾げる

(別に隠す話でもないと思うけど)


「そうなんですね」

「井坂くんはなぜそんなに平気そうなんだい?」

「別に咎められるような事してませんから」


真面目人間の蓮二は源次郎に目を付けられる様な事を一切していない

立場が危うくなるようなそんなリスクは犯すべきでは無いという考え


「まぁ行きますよ」

「そ、そうだね。失礼します」

「来たか2人とも」


会議室に入ると3人の人間が居た

1人は上司を呼び出した獅子神源次郎、他の2人は見覚えがあった


「あっ蓮二さん!」


天音が手を振っている

2人とは竜胆天音と獅子神一鬼であった


「2人がなぜ?」

「スポンサー契約についてだからだよ。呼び出されてね」

「私も話を聞こうかと」


この2人も互いに連絡先を交換していたらしい

蓮二を介さずとも連絡が取れる

対面した椅子に座る


「後藤と言います。よろしくお願いします」


上司はガチガチに緊張して2人に名刺を渡している

天音だけならこんな事にはならなかっただろう

相手が悪すぎる

獅子神源次郎とその娘の一鬼が居るのだから何か下手な真似をしたらクビが飛ぶ


「これは丁寧に、……私は竜胆天音です。天音で配信者をしています」

「存じております」

「私は獅子神一鬼、獅子神源次郎の娘だがまぁこれは気にしなくていい」

「話に入るがこの2人の支援をする」

「知っています」

「その件でだが予算がどのくらいか知っているか?」

「いえ」

「昨日上の者に報告はしたんですがまだその情報は降りてきてません」

「そうか、額としては100万だ」

「……多いんですか?」


小声で隣に座る上司に聞く


「だいぶ少ないよ。今回の契約は年契約、1年間で幾ら払うかって話で、今回は2人に1年に100万ずつ払うって話」


上司が小声で返答する


「普通に働いた方がいいレベルですねこれ」

「流石に100万は少ないね……」

「そうだな、この会社は知っての通り中小企業で金は多く持っていない。ただ探索者の中でも実力のある3人の契約者がスポンサー契約して活躍すればもっと払う事が出来る」

「それはつまりあくまで初期段階では年契約100万と言う事ですか」

「そういう事だ」


(成程、確かに活躍すれば注目はされる)

探索者は元々注目されている

配信者が多い事もあって配信に一度でも参加していれば探索者じゃなくても知っている人が多い

配信に参加していない人物は殆ど知られはしないが


「3人の実力は把握済みだからな」

「私達の実力と言うより彼の実力だろう? 彼は私達より強い」

「はい、間違いなく探索者の最上位に君臨する異能者かと」

「共に戦ったこの2人もそう言っているからな」


(へぇ、そんな人が)

探索者の中でも実力者が3人もスポンサー契約するのなら有名になれるだろう

最もその知名度と会社の実力が釣り合うかが問題


「それは誰ですか? この場にはいないようですが」

「居るぞ」

「はい?」


(居る? 隠れてるとか?)

蓮二はキョロキョロと視線を周りに向ける

一鬼が笑い出す

それにつられて天音も笑う


「面白いなこれは」

「少々意地が悪い気はしますが」

「もう1人とは何処に?」


上司も蓮二も気付いていない

蓮二に関しては少し考えれば分かるのだが気づかない


「君の隣にいるだろ? 炎の異能者の鶏君が」

「えっ?」

「……くわぁ」

「あははは、別に鶏ならなくてもいいんだぞ?」

「やっぱり気づいてなかったんですね」

「井坂君が鶏?」

「……はいそうですね」


上司は驚くが納得する

スポンサー契約ということもあって不備がないように配信を見た

そして最近の鶏が配信に参加したアーカイブを見た時配信の日付の日に蓮二が同じ柄の汚れの付いたスーツを着ていた事を思い出した


「娘の言葉が嘘だとは思わないが配信中は仮面を付けているからな本人か分からない」

「本当ではありますね」

「それはどうしてだ?」

「昨日配信を見たんですがその配信の日付と同じ日に井坂君は配信に映った人物と同じスーツを着ていたんです」

「なるほどな」

「仕事終わりにダンジョン配信手伝ってもらった時ですね」

「あぁあの魔物が出た時か確かにあの時はスーツだったな」


(確認……異能だな)

蓮二は立ち上がり椅子から少し距離を取って異能を発動させる

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