白と黒
神尾由希
第1話 透明の水の泡
「今年最大の寒波が押し寄せています。特に東北は雪に注意し、今朝は通勤通学してください。」
気象予報士のアナウンサーがカンペを読むように棒読みで言った。忙しい朝には感情などいらないのだろうかと思いながら窓を眺める。窓の外には冬に相応しい青空が広がっている。この空を見ると本当に東北地方で雪が降っているのか疑うのは私の癖だ。
「おはようございます。7時になりました。」
「千結ー。時間大丈夫なの?」
「あっ、やばいわ。行ってきまーす。」
私の毎日は7時5分のバスに乗ってから始まる。バスが立川駅に着くと、電車に乗って学校に行く。今日は終業式なので久しぶりに立川駅で風花と待ち合わせをしている。風花はバドミントン部に入っているので普段、朝は一緒に行けない。なのでこうして朝練が無い日は一緒に学校に行っている。風花を駅で待ちながら駅の広告を見る。新作のお菓子・転職アプリ・3日後に迫っているクリスマスの広告まで様々である。
「おはよー。今日寒くない?」
風花が来た。ポニーテールを揺らしながら走ってきたようだ。前髪は乱れ、首に巻いていたマフラーは外している。
「おはよう。大丈夫そう?めっちゃ疲れてそうだけど…」
「大丈夫!行こ!」
見るからに、はぁはぁしているが電車の時間が迫っていることに気がついて急いだ。電車では今日の成績返却がやばいなどと1人で風花が話していた。その時急に聞かれた。
「文理選択どうする?私は数学できないから文系にするんだけど。千結は数学得意だから理系?」
「まだ迷ってるんだよねー笑特にやりたいこともないしさぁ。先生もよく考えなさいって言ってたしもう少し考えるかな〜?笑」
今日、1番恐れていることを突然聞かれて内心びっくりした。通知表を返却されるときに文理選択について聞かれるのだ。まだ決めていないので担任と話すのが怖い。
「そうだよね。私も文系にするにはするんだけど学部がどうしようって感じー」
「やってみたいこととか無いの?夢とか」
「うーん…編集者とか憧れてるんだけどAIに将来仕事とられる気がしてあんまり胸張って、これやりたいです!って言えないかな…もう少し早く生まれてたら堂々と言えたんだけど笑」
「いいじゃん!編集長になろうよ!そしたらAIよりも頼られるかもよ!」
「◯◯駅です。右側のドアが開きます。」
話しているともう学校の最寄り駅に着いた。風花が自分の将来についてきちんと考えていて自分も考えなければ…という気持ちに陥っている。AIによってできる仕事がどんどんなくなっているのが現実だが、それに対応できるような仕事につくべきなのか、それとも、自分のやりたいことを全力で突き進むべきなのか選択が難しいと思った。
学校に着くまで風花が部活のスマッシュについて話していたがあまり耳に入ってこなかった。
白と黒 神尾由希 @kamirin0306
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