ナイン・ノード・クラスタ
@ninth_
【第1章】陽動
第1話 仕事
人型巨大兵器エマシンに、俺は搭乗している。
まだ、システムは起動させていない。
次の案件への参加時刻が、未定だからだ。
(いつまで、待たせるつもりだ……?)
既に、二時間が経っていた。
(待たされるだけ待たされて、拘束費すら支払われない。そんなことには、ならないだろうな……?)
いや、あり得るな。
そもそもが、今回の案件は内容を伝えられていない。
先の案件を終えて帰還する途中で、説明もなく、ただ向かわされたのだ。
俺の帰還する経路で、始まりそうな案件がある。
分かっているのは、それだけなのだろう。
おそらく、まだ受注さえしていない。
(オラヴィの考えそうなことだ)
オラヴィ・リスティラ。
俺が在籍する、エマシン事業社ホラントの営業担当。
とは名ばかりの、不労所得者だ。
まあ、こいつに限ったわけじゃない。
ホラントの経営陣は、全員が同じだ。
(もちろん、望んで在籍しているわけではない)
やむを得ない理由があった。
俺は、とある事情で社会的信用を得ることが出来ない。
なので、仕事を取るためには、他人の社会的信用を借りざるを得なかったのだ。
この場合の社会的信用とは、ホラント社の社員という肩書きである。
(当然ながら、無料で借りられるはずはない)
手数料が必要だった。
請負った案件ごとに、都度、支払っている。
ただ、それは書面上の名目に過ぎない。
実態は、単なる中抜きだ。
俺の受け取る報酬は、ホラントが請負った発注額の、五割に留まる。
では、残りの半分は?
(ホラントの懐に入っている。不労所得の源泉だ)
心底、やっていられない。
いつまで、こいつらに搾取されることを、許さなければならない?
分かっている。
俺の名前だけで、案件が取れるようになるまでだ。
そのためには、業界に広く名前を知れ渡らせる必要がある。
取れる手段は、とにかく案件の数をこなすこと。
この目標に関してだけは、ホラント社は役立っている。
何しろ、受けた案件を、全て丸投げしてくるからだ。
今は、雌伏の時。
心がざわめきそうなとき、俺はそう自分に言い聞かせていた。
今また、心がざわめく。
……違うな。
精神的なものではない。
生理的欲求だ。
(それにしても、腹が減った……)
最後に飯を食ったのは、いつだった?
……今朝だ。
いや、もう昨日の朝だ。
ついさっき、日付は変わっている。
三千二百十年、四月二十一日。零時三分だ。
くそっ……。
絶食して、二十時間以上が経っている。
駄目だ。
意識をすると、空腹が耐えがたくなってくる。
(何でもいい。別のことを考えよう)
何について、考える?
いつまで待つのかは、まだ分からない。
なるべく長い時間、思索に耽りたいところだ。
詳しく知っていることの方が、深く考えを巡らせることが出来るだろう。
空腹から意識を逸らせるために、エマシンのことを考えてみた。
(まずは、外観から)
シルエットは、完全な人型だ。
身長は、約八メートル。
手足は長く、胴体は小さい。
ファッションモデルのように、立ち姿が絵になる。
(次は、俺のエマシン)
固体名は、エンガイン。
エマシン二類・第五世代シオン・初期型。
型落ちである。
現在の主流は、後期型だ。
比べれば、色々な面で、初期型は劣ってはいる。
だが、俺は初期型を使い続けていた。
理由は、単純だ。
(エマシンの本質には、差がないからだ)
エマシンの本質は、ブロムにある。
ブロムは、エマシンをエマシンたらしめる特有の機能だ。
絶対的な障壁である。
エマシンの外皮に発生して、周囲十メートルの触れているものにも同じ効果を与えた。
この障壁は、通常の方法では打ち破ることが出来ない。
破れるのは、同じくブロムを有するエマシンだけだ。
(そして、ブロムはエマシンだけが持っている)
純粋な戦闘兵器が、他に存在しない理由だ。
ただし、他に兵器が全く存在しないわけはない。
それは、何故なのか?
(ブロムは、一時的に消失することがあるからだ)
ブロムを消失したエマシンは脆い。
最も普及した遠隔射撃武器である、ブラスト砲ですら通用する。
ブラスト砲が射出するのは、プラズマ化した重粒子弾だ。
これが直撃すれば、ブロムを消失した状態のエマシンは融解する。
だから、優れたエマシン乗りは、ブロムを維持し続けるのが上手い。
では、どうすればエマシンは、ブロムを維持できなくなるのか?
ブロムが消失する条件には、三種類がある。
一つ、搭乗者が消失するように命じた場合。
二つ、スライトを作動させた後の数秒間。
三つ、自分よりブロム強度の高いエマシンと干渉した場合。
一つ目は、説明するまでもない。
二つ目は、少しだけややこしい。
スライトというのは、エマシンの固有機能の一つだ。
作動させることで、自身の周囲に、強烈な衝撃波を発生させる。
この余波を使って、エマシンを高速移動させるのが、セオリーとされる使い方だ。
宇宙空間では推進力、重力下では跳躍力とする。
感覚的に言えば、ブロムを瞬間的に燃焼させて、その対流で移動するというのが近い。
燃焼したブロムが修復するまでに掛かるのが、三秒から五秒という感じだ。
なお、掛かる秒数は、エマシンにより異なる。
エンガインは、三秒程度だ。
三つ目は、もう少しだけ複雑だ。
ブロム強度は、エマシンと搭乗者の相性によって決まる。
普通は、二千程度であり、高ければ五千を超える。
眉唾物だが、過去には七千を超える事もあったらしい。
ブロム強度は、触れ合ったエマシンの間で、瞬時に差し引きがされる。
差し引かれて、値が残らなかったエマシンからは、ブロムが消失した。
これに対して、値が残った方のエマシンは、受けるダメージが軽減された。
差し引かれて残った値が千につき、およそ一割程度は受けるダメージが減少する。
例えば、ブロム強度が、二千と五千のエマシンが対峙した場合。
前者のエマシンは、相手と触れ合っている間、ブロムを消失。
後者のエマシンは、相手の攻撃から、三割程度の損傷軽減率を有する。
この割合は、損傷軽減率と呼ぶ。
エンガインのブロム強度は[5209]である。
俺が、過酷な案件を乗り越えてこられたのは、この強度に依るところが少なくない。
他に、何かあったか?
そうだ。
俺の居るところ。
エマシンの胸郭内部にある、操縦房と呼ばれる直径二メートルの球状空間だ。
球の内部には、一脚の椅子が据えられている。
所謂、操縦席だ。
そこに、俺は深く腰掛けている。
両手は、トリガー付きのレバーの上。
両足は、複数あるフットペダルに置いている。
見ているのは、操縦房の内壁に並ぶ情報ターミナルだ。
(もちろん、複雑な形状をした人型の乗り物を、これだけで操ることは不可能だ)
操縦席を囲む各種インターフェース。
これらは、動作のきっかけや、アクセントを付けるためだけに使用する。
(エマシンの主な操縦は、思念伝達で行う)
俺が心に思い描いたことを、エマシンが実現する。
エマシンは感じ取った外部情報を、俺の全感覚へフィードバックした。
これらには、タイムラグは一切ない。
完全にリアルタイムで、双方向のやりとりを実現した。
改めて考えると、とんでもない技術である。
(まあ、そんなことはエマシンに限らない。そもそも……)
人智を凌駕しているのが、遺産技術だ。
ナイン・ノード・クラスタの基幹技術である。
創発性理論と呼ばれる、独自の知識体系の上に成り立つ技術とされていた。
断言がされていないのには、理由がある。
創発性理論の理解を極めようとする過程で、研究者は必ず気が触れてしまうからだ。
このため、過去から現在に至るまで、真に理解した人物は一人としていない。
(例えば、今、身につけているクオン)
イヤーカフと、アームバングルにしか見えない。
身近にありふれすぎていて、価値さえ付かない代物だ。
だが、これだって、現代の技術では作り出すことが出来ない。
解析することさえ、不可能なのである。
(だが、これがなければ、エマシンを動かすことさえ出来ない。それどころか)
遺産技術で作り出された、あらゆる道具が使えなかった。
クオンの持つ機能は、それらの道具と、人との間で、思念伝達を実現することだからだ。
同時に、万能翻訳機としての機能を持つ。
ただし、ナイン・ノード・クラスタでは、無用の長物と化している。
共通語が普及しているからだ。
(他にも、挙げればきりがない)
動力源ソルボルト。
遺産技術の生み出す道具の、全てに内蔵されている。
発電源は恒星の核融合であり、基部の極小ワームホールを通じて得た電力を蓄電および放電する機能を持つ。
数十年から数百年の寿命が尽きて自壊するまで、無停止で連続稼働し続けた。
(そして、それらの全てを作り出すもの)
ワウム。
自律して行動する、ナノマシンの集合体だ。
深海や地下深くから採集した資材を体内に蓄積して、遺産技術を用いた道具を生み出す製造器官だ。
一つの惑星に、数万から数百万は居ると推定されている。
一体あたりの体長は、数メートルから十数メートルに及ぶらしい。
俺は、実物を見たことがなかった。
(どう考えても、便利すぎる器官だ。だが、これも何故、存在するのかは、誰にも正しくは説明が出来ない)
理屈が説明できなくても、使えるものは使う。
古来より、人間とはそうしたものだ。
ワウム単体が生み出す、最大サイズの製造品。
それは、約八メートルのエマシンである。
これより大きいものは、複数のワウムが寄り集まることで作り出された。
その最も典型的なものが、地下都市コクーンである。
数十万単位のワウムが、百年近くを掛けて生成するそうだ。
コクーンは、人間にとって、最適な住環境を提供する。
また、あらゆる種類の製造プラントを持つ。
そこからは、人が望む限りの、あらゆるものが生み出された。
部品も同様である。
現在の技術力が及ぶ製品は、これらの部品を組み合わせることで作り出されていた。
エンガインに外付けされている光通信ユニットも、それらの一つだ。
唐突に、光通信ユニットへの着信通知が、情報ターミナルに示される。
メッセージを送ってきたのは、ビュッサー社のニコラスだ。
五分後に、通話をしてくるそうだ。
(……二時間も放置して、次は五分後か? 時間感覚が、狂っているとしか思えない)
ビュッサー社は、エマシン事業社である
ナイン・ノード・クラスタに、百年ほど前に興った新興勢力であるリィックを商圏とする、
社員数は、数十万人規模だ。
俺の在籍するホラントにとっての、上顧客である。
多くの案件を、ビュッサーから回して貰っていたからだ。
では、大企業であるビュッサーに属する人間は、上等なのか?
結論を言えば、全く、そんなことはない。
大企業にありがちな、協力会社への丸投げ体質が、社風として染みついているからだ。
社会的信用のあるビュッサーは、多くの仕事を取ることが出来る。
長い年月が経つうちに、営業的な部分だけが社内で評価されるようになった。
代わりに、社の本質であるはずの、実働的な部分が痩せ細って壊死している。
そのため、ビュッサーには、現場を知る人間が殆どいなかった。
ホラント社を担当するニコラスは、そのオーソドックスなタイプである。
こいつからは、五年ほどの間に三十回を超える案件を受注していた。
だが、どれ一つとして、楽どころか真っ当な仕事がない。
情報不足が、常態化していたからだ。
そのせいで、現場に入った段階で、状況は既に最悪ということが殆どである。
おそらく、今回もそうなのだろう。
情報ターミナルに着信が通知されたので、応答してやる。
中空に浮かんだ情報ターミナルに、三十代半ばの男が映し出された。
痩せた青白い顔に、細いフレームの眼鏡を掛けている。
表情の変化が乏しく、不景気な幽霊のような風貌だ。
画面越しに睨み付けてやるが、陰気で平板な表情は変わらない。
感受性が、欠如しているからだろう。
ずいぶんと、待たされていた。
不愉快さが声に出るだろうが、知ったことじゃない。
「連絡予定時刻を、十分も過ぎているが?」
「ヴァレリー、ロトロ、ボッチィの三社との契約に手間取りました。前回と同じ条件を提示したのですが、なかなか合意に至らなくて……」
「ちょっと待て……? その三社は、エマシン事業社じゃないのか?」
「はい。今回の案件は、難易度が四レベル、引き上がりました。乙の五です。そのため、急遽、増援を手配しています」
「増援人数の、見込みを教えろ」
「八名を予定しています。もしかすると、九名になるかも知れません」
悪くない。
俺の手取りは、十五万ギットほど増える。
当初、予定していた難易度は丙の一。
一人で請負った場合、俺の手取りは約六十万ギットだった。
対して、乙の五。
ビュッサーからの各社への合計発注額は、約一千五百ギット。
頭数の十で割ると、百五十万ギット。
これが、ホラントへの発注額だ。
手数料とは名ばかりの中抜き後、俺の手元に入るのは七十五万ギットである。
収入面には、問題がなかった。
案件の内容は?
難易度が、四レベルも引き上げられたんだ。
大幅な見直しが、されるだろう。
「それで、あと何分、いや何時間。ここで待てばいい?」
「作戦開始時刻は、十分後。一時三十分です」
「……それは何の冗談なんだ」
「すぐに貨物船を出て、第三軌道エレベーター、アフナ・ピラーへ向かってください。宇宙港に常駐するディンのエマシン部隊を引きつけるのが、案件の内容になります」
「相手の数は?」
「確認できていません。おそらく三十体は、超えないはずです」
「今、ここにいるエマシンは、俺が乗る一体だけだ。それは分かっているな?」
「はい。もちろん、分かっています」
即答だ。
悪びれる様子など、微塵もない。
頭にくるが、こいつを問い詰めるのは、時間の無駄だ。
そんなことをしても、何の益も得られない。
何度も繰り返してきたので、身に染みている。
怒りを鎮めて、話を先へ進める。
「……三社のエマシンは、いつ、どこで合流してくる?」
「まもなくです。なるべく早くとは、お願いをしました。いずれも経験が浅いらしく。イリスさんが指揮をしてください」
「イカれてるのか、お前? ……いや、訊くまでもないな。分かった。もういい。お前が把握していることを簡潔に説明してみろ。出来るだけで構わない」
「案件の内容は、陽動作戦です。相手の数は多分、三十体。こちらは八もしくは九体が、まもなく合流してきます」
それは、さっき聞いていた。
だが、待っても言葉が続いてこない。
こいつ、まさか。
説明を終えたつもりなのか?
「……何なんだ一体、お前は? さっきまで話していたことから、何も情報が増えていないことは分かっているか?」
「訊かれたことに、お答えしました」
駄目だ。
本当に駄目だ、こいつは。
焦らず、いつも通りにするしかない。
こいつの知恵では、俺の意図を読み取ることはないんだ。
……いや、俺に限らず、誰でもなのだろうが。
一問一答に近い形の、簡潔な質問に変える。
「一つずつ訊く。陽動は何のためにするんだ?」
「ある貨物船を拿捕するためです。何か、リィックの戦略に関わる、重要な資材を運んでいるらしく……」
歯切れの悪い言葉が続きそうだ。
もごもごと口の端を動かしている。
睨み付けて、大きく首を振ってみせてやった。
「憶測は話さなくていい。この先は、分からないと答えろ。時間を無駄にしたくない。次の確認だ。陽動は何分すればいい」
「三十分間。二時まで、お願いします」
「二時を過ぎた後、俺と後から合流してくるエマシンを、どうやって回収する?」
「今、搭乗している貨物船を使ってください。周辺宙域に待機させます」
「最後だ。アフナ・ピラーの宇宙港からエマシン部隊を、どうやって引きずり出せばいい?」
「近づいて、ブラスト砲を威嚇射撃してください。そうすれば出てきます」
無謀すぎた。
唖然としながら、考える。
問題が露見した場合に、ホラントを切り捨てるつもりなのか?
……いや。違う。
そこまで頭が回るほど、こいつは利口ではない。
単純に、何も考えていないだけだ。
「……そうだな。出てくるだろうよ。軌道エレベーターの周囲十キロメートルは、戦闘が禁じられている。共通協定で定められているからだ。ちなみに、うちの会社は共通協定には従う方針だ。ビュッサーは違ったんだな? だとすれば、今回の案件は断ることにする。構わないな?」
「御社、ホラント社のオラヴィさんとは話がついています。正式に契約を交わしました。前金もお支払い済みです。その上、イリスさんは優秀なエマシン乗りだからということで、追加で要求された費用もお支払いしました。会社間で契約が成立している以上、イリスさんには案件を断ることは出来ないはずです」
「追加費用を支払っただと……? オラヴィ、あの野郎。人を出しにして、小遣い稼ぎをしやがったな」
社としての中抜きだけでは飽き足らず、個人的な収入も得ようというのか?
人を口実にして、好き勝手にやりやがって。
「もう、あまり時間がありません。行動を開始してください」
「ちっ……、仕方ない。あと、もう一つだけだ。さっき言っていた、戦略に関わる重要な資材というやつ。それは人を傷つけるようなものじゃないな?」
「分かりません」
「いい返事だ。切るぞ」
ニコラスの返事を待たずに、通話を切った。
何はともあれ、仕事だ。
取りかかるしかない。
情報ターミナルを使って、新たな通話を始める。
接続先は、俺の搭乗するエンガインを乗せた貨物船ケーニンガーのコクピットだ。
むさ苦しい、髭面の男がウィンドウに現れる。
「出るのか?」
「そうだ。ハッチを開けてくれ」
「お前一人で、何をするつもりなんだ……?」
「知らない方がいい。この後の予定を確認させてくれ。どういう風に伝わっている?」
「お前のエマシンを降ろした後、最長で二時五分まで、この宙域で待機。違うのか?」
「いや。それでいい。アフナ・ピラーからは、なるべく離れておいてくれ」
「……これから何をするつもりなんだ? ヤバいことじゃないだろうな?」
「ビュッサー絡みで、クリーンな仕事が、あるのか?」
「俺には、この船を守る責任がある。船に危害が及ぶと判断したら、後退させてもらう。構わないな?」
「ビュッサーと契約して請け負った仕事だろう? あんたと、うちの会社は同列だ。ニコラスと話し合ってくれ」
「……奴とか。どう話せば、奴に言葉が通じる?」
「それは、あんただけの悩みじゃない」
「慰めにもならん。クレームを上げれば、更迭されたりしないだろうか……?」
「是非やってくれ。心の底から応援する」
「ハッチは開ききった。エマシンのアンカーも外してある。フルチャージのブラスト砲は左端だ」
格納庫の壁面ラックには、二十を超えるブラスト砲が懸架されていた。
半分ほどが明らかに損傷していて、残り半分は型が極めて古い。
左端のクラシックな外観をしたブラスト砲を、エンガインの右手に掴ませた。
砲身に左手を添えさせて、全長五メートルの無骨な射撃武器を観察する。
「何世代前の型なんだ? 撃った瞬間に融解したりしないだろうな?」
「万全にメンテナンスしてある。二週間前に使ったときにも問題は無かった。確かに型は古いが、そのエマシンとは似合いじゃないか。第五世代の初期型だろう?」
髭面の男が情報端末を動かして、格納庫の映像を見せてくる。
格納庫の中央には、古めかしいブラスト砲を見つめる、八メートルの白い巨人が立っていた。
いつも通り、クラシックな佇まいのエンガインである。
改めて、見るまでもない。
「わざわざ見せてこなくていい。自分の乗るエマシンの姿は分かっている」
「銘のあるエマシンなんだろう? それだけの外見なんだ」
「まさか。他の誰とも適合しなかったから、俺のところに回ってきただけだ」
「適合しない? 人が乗って動かないエマシンがあるのか?」
髭面の男が、不思議なものを見るような顔をしてきた。
エンガインに興味を持った相手の見せる、よくある反応だ。
説明しすぎているので、勝手に口が動く。
「そうじゃない。動きはするが誰が乗っても、ブロム強度が低すぎたんだ。千にも満たないから、使われてこなかったに過ぎない」
「お前は、そうじゃなかったと?」
さすがにこれ以上は、無駄話をしている暇はない。
「おしゃべりは、もういい。この古めかしいブラスト砲のスペックを教えてくれ。装弾数、射撃間隔、威力は?」
「フルパワーで二十発は撃てる。連射は一秒間隔。威力は他と同じだ。ブロムを張っていないエマシンなら、蒸発させられる」
突然、情報ターミナルに注意が示される。
ニコラスの寄越してきた増援か?
……いや、数が違う。
六体のエマシンが、貨物船ケーニンガーの後方から近づいている。
だが、奴の仕事だ。
おそらく、味方とみていいだろう。
髭面の男へ指示をする。
「六体のエマシンが、後方から近づいている。ビュッサーの送ってきた増援だ。奴らの光通信ユニットへ向けて、回線を確立してくれ」
「お前の進行方向へ、誘導すればいいな?」
「それでいい。通信回線は、固定したままにしてくれ。ホラント社イリス・ハイン。エンガイン、発進する」
格納庫の床を、エンガインの足に蹴らせた。
無重力の空間を流れた白い巨体が、格納庫から外へ出る。
眩しい。
眼下が、目映い光で染められた。
漆黒を背景にした、巨大な碧が見渡す限り続いていた。
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