わたしの好きな女の子
犬怪寅日子
第1話 わたしの好きな女の子
自慢だが女の子にモテて生きてきた。
昔から背が高かったし、5才くらいの頃に腰まであった長い三つ編みを根本から切られて(そういう風習があった)以来、ずっと男の子みたいな格好をしていたし、運動もそこそこできたし、なにより私は女の子が大好きだった。
わたしの好きな女の子は(世の中のすべての女の子がそうというわけではない)人に好かれるのが好きで、自分を好きな人間を好いていた。だから私は私の好きな女の子にモテた。
モテるというのは、告白されるとか色んな子と付き合えるとか、そういうことではない。私の好きな女の子には大抵彼氏がいたか、いなくても恋をしていて、私のことはそういう意味で好きではなかった。もしかしたらそういう意味で好きだった子がいるかもしれないということは置いておいて。
彼女たちは私に、性的な愛情ではないが友情でもなく、距離感の近い、でも距離のある、名前のついていない親愛を与えてくれていたように思う。
それは私が彼女たちを好きでいて、ほとんど愛していて、それでいて性愛を抱かず、決して敵対することのない存在だったからだ。
私が好きな女の子は自覚的にせよ無自覚にせよ、いつも戦いにさらされていた。たとえば一部の女子に強く嫌われていたり、愛しているか愛していると錯覚している異性に搾取されていたり、そうでない場合でも生活に敵意がまとわりついていた。
戦いはいつも、愛情や性愛が交わる場所の歪みから生まれてくるような気がする。
敵対する女の子同士も、相対する恋人同士も、結局は同じ土俵の上にいて、それは生活の土俵とたぶん同じような場所にある。そうして私は彼女たちと同じ場所にはいなかった。
彼氏みたい、とよく彼女たちは私に言ったが、それは「男の子みたい」ということよりはむしろ「女の子みたいでない」ということだったのだろうと思う。そうして「男の子みたいではない」ということも多分に重要だったのだ。彼女たちにとって性愛は絶対的に必要なものではあったが、同時に性愛のない場所にも行きたかったのだと思う。
気軽なスキンシップと、可愛いねっていう言葉と、それ以上にならない関係が、彼女たちには心地よかったのかもしれない。
と、大人になってそんな整理をしてみたが、あの頃のわたしはただ女の子が好きだった。腕を組んできてくれたときに胸があたるのが嬉しかったし、私の好きな女の子はみんないい匂いがしたし、第一に私にとても優しかった、あと可愛かった。
だから今から私の好きな女の子たちがどんな子だったか語ろうと思う。なんで? どうしてそんなことを? と思わないでもないが、急に思い出を語りたくなる性癖なんだと思う。あと昨日夢で、全然しらない女の子と仲良くなって、その感覚が懐かしくていろいろ思い出したからだと思う。
たぶん今では誰も私のことを思い返したりはしていないんだと思う。私たちは合同体育の体育館の隅で、バイト中の忙しさが落ち着いたディッシャーの前で、子供から大人になる時期の複雑な社会が始まる隙間で、ほんの一時、触れ合っただけだったから。
でも私はいまでも彼女たちに、敵対も相対もしない親愛を抱いている。今でも大好きだし、女の子を好きでいさせてくれてありがとうと思っている。私がいつもすべての女の子にいいことがありますように、と心から願えるのは、彼女たちが私に優しかったからだ。
そうして願わくば、他の女の子よりもちょっとだけ、私の好きな女の子にいいことがありますように。
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