第一章 『爪聖』の弟子(2)

    ***


 しゃくねつの太陽が照りつけ、熱砂が足をすくう。

 白い日差しを手で遮りながら、レクシアが息を吐いた。

「暑いっていうよりも、熱いって感じね」

 サハル王国に向かう道中、レクシアとルナは【赤月の砂漠】に踏み込んでいた。

 過酷な環境で生き抜いた魔物がばっする乾燥地帯で、【恵みの森】や【オールズの森】に並ぶ危険区域である。

 本来はかいするルートもあったのだが、レクシアの「サハル王国に向かうなら、【赤月の砂漠】を縦断するのが一番早いわ!」という鶴の一声によって、砂漠越えを敢行することになったのだ。

「うう、喉がからから……サハル王国に着く前にらびそうだわ」

「泣き言を言うな、お前が砂漠を突っ切ると言ったんだぞ」

「ねえ、もうちょっとだけ水を飲んじゃダメ?」

「さっきも飲んだだろう」

「ね、一口だけ。いいでしょ? お願い、ルナ」

「はぁ、まったく……一口だけだぞ、まだ先は長いんだからな」

「ありがとう! お礼にあめをあげるわ!」

「いらん。というか、なんでそんなもの持ってるんだ」

「こんなこともあろうかと、レガル国の王城でくすねてきたのよ!」

「あの短い間に何をしてるんだお前は!? ……おい、一口だぞ? それは一口か? レクシア? おい? 水筒を放せ!」

「っぷは! 何よー、ちょっとくらいいいじゃない! っていうか、ルナはなんで平気なの?」

「闇ギルドで鍛えたからな、過酷な環境には慣れてる。ほら、この丘を越えたら少し休憩しよう、それまで頑張れ」

 へろへろになっているレクシアをしっしつつ砂の丘を登り、ルナはふと目を凝らした。

「あれは……」

 陽炎かげろうの向こう、澄んだ泉と植物の緑がゆらゆらと揺れている。

「オアシスだわ! 水と日陰よ、ルナ! 早く行きましょう!」

「待て、

 うれしそうに走り出すレクシアを、ルナは慎重に引き留めた。

 オアシスのほとりで、小さな子どもが三人、抱き合って震えている。

 そしてその子どもたちを背にかばって、白い髪の小柄な少女が空をにらみ付けていた。

 四人とも獣のような耳を生やし、何かを警戒するように長いしっぽをぴんと立てている。

「獣人だわ。一体何をしているのかしら?」

 レクシアの言う通り、彼らは獣人のようだった。

 一番年上の、白猫の獣人らしき白髪の少女は、猫耳を伏せ、緊迫した様子で上空を見上げている。その視線を追って、息をむ。

「! あれは……!」

 上空に、巨大な鳥の群れが旋回していた。黒い翼は片翼だけで少女たちを覆うほどに大きく、太い脚に備わる爪は牛さえも容易たやすく引き裂けそうなほどに鋭い。

「【クルーエル・コンドル】……!」

 ルナは思わず声を引きらせた。

だいきょう】のヘルスライムや、【てんざん】のチャージ・ボアと並ぶC級の魔物だ。その強大な魔物が、群れをなして少女たちを狙っている。

「なんて数だ……! そうか、オアシスに生き物が来るのを知っていて、狩り場にしているのか……!」

「ギエエエエエエエエエエッ!」

 空を裂くような絶叫と共に、魔物が少女たち目がけて急降下した。

「大変! 助けるわよ、ルナ!」

「ああ!」

 しかし、二人が走り出すよりも早く、白猫の獣人が動いた。

「ふッ……!」

 少女は地を蹴ると、一瞬で驚くほどの高さまで跳躍した。

 先頭のコンドルに肉薄するなり、爪を振りかざす。


「──【】っ!」


 少女が叫び、無数の斬撃が、黒い翼を切り裂いた。

「ギェ、ァ、<外字>……」

 コンドルが光の粒子となって消えるのを見て、ルナは思わずうめく。

「なっ! なんだ、あの強さは……!?」

「なぁんだ、あの魔物、弱いのね」

「そんなわけがあるか、C級の魔物だぞ!? あの少女が桁違いに強いんだ!」

 通常C級の魔物は、れの兵士が数人がかりで対処する。少女はそんな恐るべき魔物を、まるで紙でも裂くかのようにほふってみせたのだ。

「獣人は生まれつきりょりょくひいでている場合も多いが……それにしてもあの強さは規格外だぞ……!?」

 その間にも、少女は爪を繰り出して次々にコンドルを切り裂く。

 しかし少女がいくら戦闘能力に秀でていようとも、小さな子どもを守りながら大群と戦うのは分が悪かった。

「っ、く……!」

 少女が数体を相手に戦っている間に、別のコンドルが地面すれすれに滑空しながら子どもたちへ迫る。

「行くぞ、レクシア!」

 ルナは砂の丘を駆け下りると、滑空するコンドルめがけて糸を放った。

「『せん』!」

 ──この糸こそが、闇ギルドで【首狩り】と恐れられたルナの武器だった。

 放たれた糸が束になってドリルのように回旋しながら、コンドルの胴体を貫く。さらに貫通した糸が一気にほどけて、ばらばらに引き裂いた。

「ギェギャアアアアアッ!」

 断末魔の叫びを上げながら消えていくコンドルと、突如として助けに入ったルナを見て、子どもたちが目を丸くする。

「えっ!? ま、まものが……!?」

「あのおねえちゃんがやっつけてくれたの!? すごいすごい!」

「で、でも、どうやって!? まほう!?」

 幼い子どもたちは、ルナの糸を目に捉える事ができなかったのか、口々に驚く。

 ルナはさらに別の一体へ糸を放つと、その全身をからめとった。

らえ! 『しっこく』!」

「ギャギャアアアアアアア!」

 コンドルが怒り狂って暴れるほどに、絡みついた糸が食い込んでいき、ついには首をねじ切った。

「あ、あの糸が武器……!? すごい……!」

 白猫の少女もルナの加勢に気付き、目を見開く。

 驚いている白猫の少女に、ルナは叫んだ。

「早く逃げろ! 敵の数が多い、まだ襲ってくるぞ!」

「っ! は、はいっ! みんな、こっちに……!」

「ギギャアアアアアアアア!」

 少女はうなずくと、子どもたちを連れて走り出す。

 その背中目がけて降下するコンドルへ、ルナは新たな糸を放った。

「させるか! 『えき』!」

「ギェギャッ!?」

 糸が生き物の舌のようにコンドルの足をからめとり、地面へたたき付ける。砂が派手に舞い上がり、群れの注目がルナに集まった。

「はぁっ、はぁっ……! すごいわルナ、また強くなったの!?」

 息を切らせて追いついたレクシアに、ルナは叫んだ。

「彼らが安全なところへ逃げるまで、注意を引き付ける! レクシアは隠れていろ!」

「いやよ! 私も戦うわ!」

「そんな護身用の短剣で何が──ああ、もう! ならば私のそばから離れるなよ! 『らん』!」

 ルナが鋭く腕を振るうと、糸が縦横無尽に躍り、襲い来る魔物を切り刻んだ。

 レクシアも、ひんの傷を負って地面に落ちた魔物に、果敢に短剣で斬り掛かる。

「ギギャアアアアアアアッ!」

 か弱い獲物だと思っていた相手に反撃されて、魔物たちが怒りの鳴き声を上げながら殺到する。

 ──その時、必死に逃げていた男の子が、砂に足を取られて転んだ。

「あっ!」

「!」

 白猫の少女が駆け戻ろうとするが、それをはばむようにひときわ大きなコンドルが翼を広げる。

「ギギェエエェエエッ!」

「っ……!」

 少女が足止めを喰らっているわずかな隙に、他のコンドルたちが男の子へ殺到する。

 ルナはそちらへと手をかざしながら歯を食い縛った。

「くっ……!」

 僅かに糸の間合いの外だ。

 男の子が恐怖に泣きながら叫ぶ。

「たすけて、!」

「……ッ!」

 刹那。

 


「グゥウ……グルルルル……ッ!」


 獣めいたうなりと共に少女の白い髪が逆立ち、爪が光をまとって鋭くなる。金色の瞳が激しい闘志にいろどられ、小さな身体からだからすさまじい殺気が立ち上った。

 レクシアが息を吞む。

「な、なに? あの子の様子が……」

「ヴヴヴ……ガアァァアアアァアアッ!」

 少女は牙をき出してほうこうを上げるや、正面のコンドルに向かって地を蹴った。

 次の瞬間、爪による嵐のような斬撃が魔物を襲う。

 ズバアアアアアアアアッ!

「ギギャァアアアァアッ!」

「っ、な……!?」

 その凄まじさに、ルナは声を失った。最初に見た一撃も恐るべき威力だったが、それさえ比べものにならない、あまりにも凄烈な斬撃だった。

「ガァゥッ! ガアアアアアアッ!」

 少女は消えていく魔物をいちべつさえせず砂を巻き上げて着地すると、今まさに男の子を爪に掛けようとしていたコンドルたちに向かって右腕を振り抜いた。

 ザシュッ、ザンッ! バシュウッ!

 爪から五本のせんこうが放たれ、コンドルたちをいとも容易たやすく切り裂く。

「む、群れを一撃で!? あの子、さっきよりさらに強くなってない!?」

「さっきもすごかったが、あの時とは桁違いだ……! 一体何者なんだ、彼女は……!?」

「ギェェェエエェッ!」

 ルナを襲おうとしていたコンドルが、仲間を殺されたことで怒り狂いながら少女に襲い掛かった。

「ガアァアアァァアアッ!」

 少女は一瞬にしてコンドルよりも高く跳躍すると、落下しながら空中で身をひねった。鋭い爪に光を纏わせながら車輪のように回転し、押し寄せる群れをまとめてぎ払う。

「ギェギャ、ギャ……」

 魔物のざんが熱をはらんだ風に溶け消え、オアシスに静寂が訪れた。

 レクシアが興奮しながらルナの袖を引っ張る。

「すごいわ、あの子とんでもなく強いじゃない! 助けてくれたし、良かったわね!」

「待て、様子がおかしい」

「ヴヴ……グルルルル……!」

 異様な空気を感じて、ルナははしゃぐレクシアを制した。

 少女が振り返り、らんらんと光る金色の瞳が、二人を捉える。

「っ、レクシア、逃げろ!」

「きゃっ!?」

 ルナがレクシアを突き飛ばした直後、少女の姿がき消えた。

 ほんのまばたきの間に、少女がルナの眼前に迫っていた。

「ッ、速い……!」

「ガアアアアアッ!」

「『』!」

 ルナは手をかざし、少女に向けて網状に編んだ糸を放った。

 しかし、確かに少女に巻き付いたはずの糸はくうを切る。

「(透過した!?)」

 いや、自分の影すら置き去りにして跳んだのだ。本体は──

!」

 跳び退しさるよりも早く、凄まじい衝撃と共に少女に押し倒されていた。

「くっ……!?」

「グルルルル……!」

 ルナを押さえつける少女の手は強く、ルナがもがいてもびくともしない。信じがたい膂力だった。

「(なんだ、この力の強さは……っ!?)」

「ガ、アァ、アァッ……!」

 少女は明らかに理性を失っている。

 しかしその瞳の奥に、闘志とは違う感情が瞬いているのを、ルナは僅かに感じ取った。

「(っ、これは、恐怖……? いや、おびえか……?)」

「ガアアアアアアアアッ!」

 少女のそうぼうが狂気に燃え上がる。

 振りかざされた爪が、しゃくねつの陽光をはじいてぎらりと光った。

「ルナ!」

 レクシアの悲鳴が響く。

 ルナは歯を食い縛って身をよじった。

「くっ、戦うしかないのか……! 『螺旋』──!」

 ルナが少女の爪めがけて糸を放とうとした、その時。


「やめなさい! 私のルナに何するのよ────っ!」


 レクシアの凜とした絶叫が、砂漠の空に響き渡る。

 ──その瞬間、少女の目に理性の光が宿った。

「あ……──わ、わた、し……?」

 少女が目を見開いてまばたきをする。その表情からは、先程までの狂気は抜け落ちていた。

 ルナは身を起こしながら、胸中でうめいた。

「(っ、なんだ、今のは……?)」

 ルナの目には、レクシアが叫んだ瞬間、その身体からように見えたのだ。

 しかもそれだけではない。波紋のように広がるそのオーラに触れた瞬間、穏やかな温かさに包まれたような感覚に陥ったのだ。

 き物が落ちたようにほうけている少女を見る。

「(さっきまで、まるで狂戦士バーサーカーのようになっていたが、理性が戻っている……レクシアが放った波動と、何か関係があるのか? だが、あの波動は一体……あいつ、あんなことができたのか……?)」

 ルナが思考を巡らせていると、レクシアが少女へと歩み寄った。腰に手を当てて頰を膨らませる。

「ちょっと! 人に襲い掛かっちゃだめよ、危ないじゃないの!」

「!? あ、は、はいっ……! ごごごごめんなさい、ごめんなさいっ……!」

 少女は我に返ると、光の速度で何度も頭を下げた。

「本当にっ、本当に申し訳ございませんっ……! あ、あの、おはないですかっ? どこか痛いところは……!」

「ああ、大丈夫だ。多少は鍛えているからな」

 ルナが身を起こすと、少女は心から心配そうな様子で、ルナに怪我がないか必死に確認した。白い猫耳は伏せられ、ふさふさのしっぽもうなだれている。今にも泣き出しそうな顔で何度も謝る姿は、先程の鬼神めいた戦いぶりがうそのようだ。

 レクシアが首をかしげる。

「さっきとは別人みたいね。どうしてルナを襲ったの?」

「あ、えっと……」

「ティトおねえちゃん」

 少女が眉を下げて視線を落とした時、獣人の子どもたち三人が駆け寄ってきた。

 ティトと呼ばれた少女は、慌てて子どもたちの無事を確認する。

「みんな、大丈夫? 怪我してない?」

「うん!」

 その様子を見て、レクシアはほほんだ。

「あなた、ティトっていうのね」

「は、はいっ。さっきはご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ございません……それに、この子たちを守ってくれて、ありがとうございました……!」

「ありがとう、おねえちゃんたち!」

「すっごくつよいんだね! かっこよかったー!」

「ふふふ、そうでしょ?」

「お前は剣を振り回していただけだがな」

「何よー! ちょっとは役に立ったでしょ!?」

 にぎやかに言い合うレクシアとルナを見て、白猫の獣人──ティトは少しほっとしたように目元を緩ませた。

「私たち、この先にある街で暮らしていて……オアシスに水と食料をりに来たところなんです」

「こんな危ない所に、あなたたちだけで暮らしているの? 他に大人の人は?」

「それは──」


「すまない、私の弟子が迷惑を掛けたね」


 ティトが答えかけた時、その隣に、黒い影が音もなく降り立った。

「……!」

 ルナはきょうがくしつつ身構える。

「(気配を一切感じなかった……!?)」

 頰に冷たい汗が流れる。闇ギルドでも屈指の実力を誇るルナが、ここまで気配に気付かないなど、通常ならばあり得なかった。

 警戒するルナだが、突如として現われたその人物──黒髪の女性を見上げて、ティトが声を上げた。

「し、師匠!」

「(! ティトの師匠……? 見たところ、くろひょうの獣人か?)」

 その女性を、ルナは注意深く観察した。

 艶のあるこんぺきの長髪に、濃紫の瞳。頭には豹のような耳が生え、機動力を重視したショートパンツからは黒くて長い尾が伸びている。軽装に包んだ身体からだは美しく引き締まり、右肩から先は黒い鋼の義手だった。

 女性はレクシアとルナへ、しんな表情で頭を下げた。

「来るのが遅れて申し訳ない、ティトが暴走している気配を感じて、すぐに飛び出したんだが……とにかく、怪我がなくて良かった」

 どうやら、先程のティトは暴走状態にあったらしい。

 女性は二人の無事を確かめてあんしたような息を吐くと、レクシアへ視線を向けて目を細めた。

「どうやらティトの暴走を止めたのは、お嬢さんのようだね」

「えっ、私?」

 驚いて瞬きするレクシアの横で、ルナが慎重に尋ねる。

「あなたは一体……?」

「話せば長くなりそうだ。ここは危ないから、移動してから説明しよう。良かったらうちに──」

 女性が言いかけた時。

 ドゴォォオオオッ! という地響きと共に、砂の中から巨大な口が現われた。

「な──」

「ゴガアアアアアアアアアアアッ!」

【ビッグ・イーター】。竜のうろこさえもみ砕く凶悪な牙を持ち、【赤月の砂漠】に生息する魔物の中でも屈指の攻撃力を誇る、A級の魔物だ。加えてこうかつで、砂の中に潜んで獲物を待ち伏せする。

 魔物のばっする過酷な環境にあって、食物連鎖の頂点に位置する、砂漠で最も恐ろしい脅威だった。

「ゴガアアアアアアアアアアアアア!」

 牙の並んだ巨大な口が、レクシアたちをみ込もうと迫る。

「危ない、逃げろ──!」

 ルナが叫ぶよりも早く、黒豹の獣人が動いた。

「【れつざんそう】」

 振り返りざま、鋼の義手を横ぎにいっせんする。

 すると、無数に生まれた真空のやいばが、砂を巻き上げながら魔物へと殺到した。刃が巨大な口内に吸い込まれたかと思うと、魔物の内部で幾重にもぜる。すさまじい衝撃に、巨体が周囲の砂ごと消し飛んで、巨大なクレーターと化した。

「な……A級の魔物を、一瞬で……」

 強大な魔物が断末魔の叫びさえ上げられず消滅するのを、ルナは信じられない思いで見つめた。

 何事もなかったように義手の砂を払う女性に、レクシアが尋ねる。

「あなたは一体……」

「自己紹介が遅れてすまない」

 黒豹の獣人はレクシアたちに向き直って、微笑んだ。


「私はグロリア。『そうせい』であり、その子──ティトの師匠さ」


「「『爪聖』!?」」

 レクシアとルナはとんきょうな声を上げた。

せい』とは、この世界の負の側面の結晶たる『じゃ』に対抗するために星が生み出した存在だ。その分野を極めた者が、『邪』のカウンターとなるべく、星より称号を与えられる。この世界で比類なき強さを誇る、ほとんどおとぎ話のような存在だ。

「すごい……あれが『聖』の力なのね……!」

 A級の魔物を一撃でほふった技を思い出して、レクシアがつぶやく。

 その隣で、ルナが驚愕の目でティトを見つめた。

「じゃ、じゃあティトは、『爪聖』の弟子なのか!? どうりで尋常じゃない強さだ……」

『聖』は力を持つ者として、後継を育てる義務がある。目の前で小さくなっている、まだ幼げな白猫の少女が、いずれ最強の一角をになうことになるのだ。

 爪術の頂点を極めた『爪聖』──グロリアは、ティトの頭に鋼の義手を置いた。

「改めて、ティトが迷惑を掛けて、すまなかったね」

「本当にごめんなさい……!」

「いいのよ。びっくりしたけど、お互い無事だったんだし。それに、『爪聖』様とそのお弟子さんに会えるなんて、ラッキーだわ」

「そう言ってもらえるとありがたい」

 目を輝かせるレクシアに、グロリアが笑う。

「しかし驚いたよ、まさか暴走状態のティトをしずめるなんて。ティトは一度暴走したらなかなか止まらなくてね、私でも手こずるんだけど……」

 ルナは信じがたいおもいを半眼に乗せて、レクシアを振り返った。

「……『爪聖』でも手こずる彼女の暴走を止めるとは、おまえ一体どうやったんだ?」

「? よく分からないけど、きっと心が通じたのね!」

 胸を張るレクシアとあきれ顔のルナを見て、グロリアが喉を鳴らして笑う。

「良かったら、続きは私たちの隠れ家でどうだい? おびと言ってはなんだけど、お茶くらい飲んでいってくれ」

うれしい、喉がからからだったの! お言葉に甘えましょう、ルナ!」

「ああ、そうだな」

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