第8章「魔王城へ、ざまぁ!」⑷

「まぁ、なんてこと! 姫様、ご覧になられました?!」


 階段の上から成り行きを見守っていたザモーガンは、そばに転移させた本物のエリザマスに問いかけた。


「そんな……ザマスロットが賊に殺されてしまったなんて……!」


 エリザマスは息絶えたザマスロットを目の当たりにし、膝から崩れ落ちる。

 エリザマスはザマスロットがヨシタケの前へ転がったあたりに、ザモーガンに呼び寄せられた。

 そのため真相を知らず、「勇者ザマスロットは賊に殺された」というザモーガンの言い分を信じ切っていた。ヨシタケとザマスロットの会話は、ショックのあまり聞こえていなかった。

 エリザマスはしばらく放心していたが、


「……許せない。あのような卑劣な賊を野放しになど出来ません!」


 やがて悲しみが憎悪へと変わり、エリザマスは立ち上がった。

 床に転がっていたザマァロンダイトを握り、階段下のヨシタケを睨みつける。


「あれって……エリザマス姫?」


 ヨシタケは顔を上げ、ようやくエリザマスの存在に気づいた。

 同時に、エリザマスがザマァロンダイトを手にしていることにも気づき、困惑した。


「……何で、ザマスロットが持ってた剣持ってんの?」

「さようなら、愚かな国賊さん。〈ザマァ〉」


 エリザマスはザマァロンダイトを振り下ろし、ヨシタケに向かって闇の斬撃を放つ。

 ヨシタケは自分が国賊だとは思ってはいなかったが、仲間や宿敵を守り切れなかった無力感を指摘されたように感じ、攻撃をモロに受けた。


(悪かったな、愚かで。でもさ……知らなかったんだよ。ザマスロットが生き延びてて、その上ザマァロンダイトなんつー、チート武器を手に入れてたなんてさ。知ってたら、もっと上手くやってたってーの)


 そう内心、悪態をつきながらも「まぁでも、」と、ヨシタケは自分達の準備不足を悔いた。


(そういうところが愚かだったってことかなぁ……)


 ヨシタケは生気を失い、倒れる。

 ザモーガンは「やりましたね、姫様」と、ニヤリと笑みを浮かべた。


「さぁ、参りましょう。このような国賊を排出し、ザマスロットの命を脅かした王国に復讐するのです」


 魔法でエリザマスのドレスを漆黒の鎧へと変え、武装させる。

 エリザマスも光を失った目で頷いた。


「えぇ。祖父は国王として、間違いを犯しました。この罪は国民の命をもって、償っていただかなくてはなりません」


 エリザマスは完全にザマァロンダイトに意識を奪われ、正常な判断ができなくなっていた。

 「元に戻りなさい〈ザマァ〉」と、ザマァロンダイトを振るい、エントランスを元の傷一つないホールへと戻す。ヨシタケや仲間達、ザマスロットの遺体も消え失せ、戦闘など最初からなかったように、痕跡を抹消された。




 その後、王国はエリザマス率いる魔王軍によって、一夜で制圧された。

 拐われていたはずの姫が魔王の一味となって帰還し、王国を支配したという事実は、国民達を絶望のドン底へと突き落とした。

 エリザマスによる圧政と虐殺により、王国は壊滅。周辺国も魔王軍の手に落ち、世界はエリザマスのために存在する世界と化してしまった。


「……なんて素晴らしい世界でしょう。どこもかしこも、闇の気配が漂っていますわ」


 ザモーガンは城のテラスに腰掛け、絶望に染まった世界を満足そうに見下ろした。膝には誰のものとも分からぬ、黒いシャレコウベを乗せている。

 彼女はエリザマスの側近として仕えていたものの、破壊にしか興味のないエリザマスに代わって、国の実権を握っていた。


「これなら完全復活の時も近いですわね、ザマン様」


 ザモーガンは膝に乗せた黒いシャレコウベを撫で、語りかける。

 彼女のひとりごとかと思いきや、


「そうだな。ザモーガンよ、よくぞここまでやってくれた」


 黒いシャレコウベがカタカタ揺れ、ザマスロットに呼びかけていたのと同じ男の声が発せられた。


「厄災の姫、エリザマス……アレ以上のザマァロンダイトの使い手はおるまい。奴には儂の体が再生するまでに、全ての聖域を潰させておけ。特に、エクスザマリバーの湖は念入りにな」

「あまり無理をさせると、壊れるのが早くなるのですが……」

「構わん。動かなくなったら、動くよう改造するなり、人間共の魂を食わせるなりすればいい。しばらくは保つだろう」

「かしこまりました」


 彼らにとっては、エリザマスも手駒の一つに過ぎなかった。

 世界は二人の悪によって、着実に破滅へと近づいていた……。


〈第8章 戦況報告〉

▽魔王城に到着した!

▽ザマスロットが生きていた!

▽ザマスロットの攻撃! ヨシタケ以外のメンバーが死んだ……。

▽ザモーガンの攻撃! ザマスロットは闇討ちされた!

▽ザマスロットは死んだ……。

▽エリザマスの攻撃! ヨシタケは死んだ……。

▽世界は闇に支配された……。

Bad End.






























































▽……って思うじゃん?






















▽ところがどっこい、





















▽これは夢なんだなー。





















▽だから、こうならないよう頑張ってね





















▽ヨシタケくん。





















▽さぁ、世界を救いに行く時間だよ。




















▽いい加減起きないと、また夢の中で〈ザマァ〉しちゃうぞ?





















▽……いいの? じゃあ、遠慮なく。





















▽勇者のくせに、魔王城目前でぐーすか寝てるんじゃないよ!

▽〈ザマァ〉!




「ぐふぉあッ! すみません、今すぐ起きますぅ!」


 ヨシタケは夢の中でザマァーリンらしき声に脅され、目を覚ました。

 まだ魔王城には着いておらず、ダザドラの背に乗っている。他の仲間も何事もなかったように、生きていた。


「ヨシタケさん、大丈夫ですか?」

「これから魔王を倒しに行くというのに、余裕だな」

「寝ぼけて、うっかり落ちるなよ?」

「落ちたら置いていくからね。時間の無駄だから」


 仲間達はいつものように、ヨシタケを心配する。

 ヨシタケは先程見た夢を思い出し、瞳を潤ませた。


「ゆ……」

「ゆ?」

「夢でよがっだぁぁぁ!!!」


 感極まり、ダザドラに乗っている三人を抱きしめる。

 ダザドラも抱きしめたかったが、今はできないので、やむなく背中を高速なでなでした。


「ど、どうしたんですか、ヨシタケさん?!」

「魔王城が近づいてきたから、情緒不安定になっちまったのか?!」

「背中を撫でるな! くすぐったいだろう?!」

「ぐ、ぐるじぃ……」


 ザマルタは頬を赤らめ、ザマビリーは戸惑い、ダザドラは笑いをこらえ、ノストラは青い顔で息苦しさを訴える。

 それでもヨシタケは離さない。しばらく抱きしめ、


(俺が今いるのは夢じゃない……現実だ。さっき見た光景が夢だったんだ)


 と実感すると、ようやく仲間達を解放した。


「ありがとな。もう大丈夫だ」

「い、いえ! お気になさらず……」

「魔王城なんて行くのも怖ぇーもんな! 俺も緊張しっぱなしだから、分かるぜ!」

「ふぅ……危うく貴様らを振り払うところだったな」


 ザマルタ、ザマビリー、ダザドラが穏便に済ます中、窒息寸前だったノストラはヨシタケに食ってかかった。


「ちょっと、殺す気?! 僕がいないとどうにもならないって、分かってるよねぇ?!」

「ホント、すまん。ちょっと縁起の悪い夢を見てさぁ」

「縁起の悪い夢ぇ?」

「そうそう」


 ヨシタケは仲間達に、先程見た夢の内容を語った。

 魔王城に行くと、実は生きていたザマスロットがザマァロンダイトを手に、立ちはだかってきたこと。

 彼によって、ヨシタケ以外のメンバーは全員死亡したこと。ヨシタケは生き延びたが、エクスザマリバーが粉々に砕けたこと。

 ザマスロットがザモーガンという謎の美女に殺されたこと。闇の〈ザマァ〉による攻撃だったため、治癒は不可能であること。

 その光景をエリザマス姫が見てしまい、何か勘違いしてザマァロンダイトでヨシタケを殺したこと。

 その後、王国はエリザマス、ザモーガン、ザマンによって支配され、壊滅してしまったこと。いずれは世界をも支配しようとしていること。

 エリザマスはザモーガンとザマンに利用されているに過ぎず、長くは保たないこと。王国の実権はザモーガンが握っていること。

 そして、ザマンの体は本当は完全には復活しておらず、黒いシャレコウベの状態で生きていること……。

 あまりにもリアリティのある夢に、仲間達も不安がった。


「たしかに、縁起の悪い夢だなぁ」

「不安になり過ぎているせいでしょうか?」

「ちょっと休むか? この辺りには、街があったはず」

「……夢じゃないよ」


 ノストラは真面目な顔で、断言した。


「これは予言だ……ザマァーリンから僕達への警告だよ。このまま魔王城へ行ったら、その夢は現実になる」



To be continued……

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