第6章「ザマスロットと対決、ざまぁ!」⑵

 一同は森から出た後、10分ほど作戦会議をした後、森の入口の前で陣営ごとに整列した。陣営と陣営の間に設けられた中立地帯に、ピリついた空気が流れる。

 前衛はヨシタケ、ザマスロットが真ん中に立ち、他の前衛はそれぞれザマビリーがパロザマァル、ノストラがメルザマァルと対峙した。後衛のザマルタとザマァーリンは攻撃が当たらないよう、前衛の後ろに控えている。


「じゃ、始めようぜ」

「待て待て。まだ審判を呼んでいないだろう?」

「審判?」


 ザマァーリンは両手を複雑に組むと、森に向かって唱えた。


「これより聖剣エクスザマリバーを賭け、勇者ザマスロットと元勇者ヨシタケ、およびその一味による決闘を始める。聖剣の守り手、湖の妖精ザマヴィアンよ。この戦いを見届けたまえ」


 すると森の入口に渦を巻く水が現れ、透き通ったエメラルドグリーンの髪と目を持つエルフの少女へと変貌した。流れる川を思わせるような、表面が波打っているエメラルドグリーンの装束をまとっている。素足にも関わらず、足は全く汚れていなかった。

 その神秘的な美しさに、一同は言葉を失い、魅入られた。


(あれがエクスザマリバーの番人か……計り知れないほどの魔力を持っているな)

(すっげー可愛い! リアルエルフ耳、サイコー!)


 ザマスロットがザマヴィアンの力量を推察する一方、ヨシタケは生でエルフ耳の美少女を見られたことに感動した。

 他のメンバーも概ねどちらかの反応を見せる中、ザマァーリンだけは親しげに挨拶した。


「ザマヴィっち、久しぶりぃ! 元気だったかい?」

「……ザマヴィっちではありません。口を慎みなさい、年増魔女」


 ザマヴィアンは無表情でザマァーリンを一瞥し、辛辣に返す。どうやら顔見知りだったらしい。

 すげない態度を取られたにも関わらず、ザマァーリンは「それはお互い様だろー?」と笑っていた。


「彼女はエクスザマリバーを守っている妖精、ザマヴィアン。聖剣を管理し、勇者の素質を見極めるのが仕事だ。聖剣を抜く順番を決める決闘の審判も勤めている。彼女の前では、いかなる不正も許されないと思え?」

「一番不正をしそうなのは貴方ですけどね」


 ザマヴィアンはヨシタケとザマスロット、双方の陣営を目で確認すると、スッとヨシタケ達がいる方の手を挙げた。


「先行、元勇者ヨシタケパーティ」

「ラッキー! 決闘は先行が有利だからな!」


 先行を取り、ヨシタケ達は喜んだ。

 モンスターとの戦闘では一方的に攻撃できるのに対し、対人戦である決闘では陣営ごとに一人ずつ、交互に攻撃し合うルールになっている。攻撃に対して反撃される可能性はあるが、よほど実力差がない限り、先に攻撃ができる方が有利なのだ。


「一方的に決めるなんて、ズルくね? 絶対贔屓してんじゃん」

「構わないわ。あんなド素人に私達が負けるはずないもの」


 文句を言うパロザマスに、メルザマァルは断言する。

 ザマスロットも「当然だ」と頷いた。


「我々は既に奴らの情報を把握している……負けるはずがない」




「では、決闘……開始」

「まずは俺が行かせてもらうぜ!」


 ザマヴィアンの掛け声と共に、ザマビリーが拳銃をパロザマスに向ける。

 パロザマスは銃口を眉間に突きつけられても全く動じず、槍を構えたままニヤニヤと笑っていた。


「お前んとこのパーティって、勇者は騎士団の団長で、賢者は魔法学校にいた頃から優等生なんだろ? お前だけ何もなくね? 〈ザマァ〉w」


 バンッ!


 ザマビリーの拳銃から炎をまとった弾丸が放たれる。

 弾は狙っていたパロザマスの眉間に向かって真っ直ぐ飛んでいったが、


 キィンッ!


「え?w 知らねぇの?w 俺、騎士団の副団長だったんだけどw 田舎民、情弱すぎw 〈ザマァ〉www」

「ぐはっ?!」

「ザマビリーッ!」


 反論と共に、槍で呆気なく打ち返され、炎、水、雷、風をまとった巨大な塊となって戻ってきた。

 ザマビリーは反論する間もなく、まともに攻撃を受け、ダウンした。


「あ、後は任せたぞ、お前ら……がくっ」

「ザ、ザマビリーッ!」

「バカなの?! あいつが元副団長だって、昨日教えたじゃん!」

「攻撃が終わったら、回復差し上げますからね!」


 後衛は全員の攻撃が始まる前、もしくは終わった後に一度だけ、サポート系の〈ザマァ〉を使うことができるため、すぐに回復させることはできない。

 今はただ、戦況を見守る他ないのだ。


「仲間を気づかうなんて、余裕じゃない。貴方達もすぐ、あぁなるのに」

「……言っておくけど、僕はあんな簡単に倒れはしないからね」


 ノストラはメルザマァルを睨みつつ、魔法の杖を構えた。ノストラの背よりも高い銀の杖で、先端にはアメジストに似た巨大な紫色の宝石がついていた。


(……あの杖、いくらすんだろ?)

(いよいよヨシタケの懐が危うくなったら、盗んでやろうか)


 ヨシタケとダザドラが杖に注目する中、ノストラは杖を振りかぶり、宝石の部分を思い切り地面へ叩きつけた。


「先輩、ずいぶん垢抜けましたね。昔は見るに耐えない芋「わぁーッ! 宝石がぁーッ!」「我の食費ーッ!」ちょっと! 二人共、邪魔しないでよ!」


 その衝撃的な光景に、ヨシタケとダザドラはうっかり悲鳴を上げてしまった。

 おかげで、ノストラの声は彼らの悲鳴によってかき消され、メルザマァルのもとまで届かなかった。


「だ、だっておまっ! それ、絶対高いやつじゃん!」

「地面を叩くなら、もっと頑丈な武器にせんか!」

「これはそういう杖なの! 先端を地面に叩きつけることで、魔力を地中から相手の足元まで到達させて、不意打ち攻撃ができるの! 素人のくせに口挟むな、バーカ!」


 ノストラはブチ切れ、ヨシタケとダザドラを罵る。もし、語尾にうっかり〈ザマァ〉をつけていたら、ヨシタケもダザドラもダウンしていたところだった。


「す、すまん」

「つ、次からは気をつける……」


 ヨシタケとダザドラは素直に謝り、ノストラをなだめる。むやみに刺激して仲間割れするのはまずい。

 険悪な雰囲気の中、メルザマァルがぽつりと呟いた。


「……貴方が武器のカラクリを言わなければ、良かったんじゃないの?」

「あ」


 メルザマァルに指摘され、怒りで真っ赤になっていたノストラが青ざめる。

 ノストラの反応に、メルザマァルはここぞとばかりにクスッと笑った。


「いくら飛び級入学しても、頭は子供ね。〈ザマァ〉」

「ぐっ……!」


 メルザマァルの〈ザマァ〉と共に、彼女が構えていた本から強風が吹き出す。ノストラは飛ばされないよう地面に杖をつき、耐えた。


「ノストラ、頑張れー!」

「お前なら耐えられるぞ、小僧!」

「……うるさい、黙れ、静かにしろ」


 反撃せず、横から呑気に応援してくるヨシタケとダザドラを、ノストラはウザそうに睨みつける。

 圧倒的に有利な状況の中、メルザマァルは自らの〈ザマァ〉によって現れた魔法に違和感を覚えていた。


(……妙ね。武器のカラクリを暴露したことを指摘されて、ショックを受けていた様子だったのに、出現した魔法は雷ではなく風だった。つまり、私の指摘に対してショックは受けていないということ……私が武器のカラクリについて指摘すると、あらかじめ読んでいた?)


 あるいは、とメルザマァルは眉をひそめた。


(……#わざと__・__#指摘させた?)

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