第5章「隠し芸大会だよ! ざまぁ」⑴

 ノストラを仲間に加え、ヨシタケ達はプロフィポリスを後にした。

 ノストラは地図を広げて見せると、プロフィポリスからほど近い森を指差した。


「エクスザマリバーがある湖は、この森の中にある。ダザドラで飛んでいけば一時間くらいでたどり着けるけど、この辺りにはプロフィポリス以外に町はないし、食料が持たない。途中で野宿を挟むけど、歩いて行こう」

「いいのか、ノストラ? 俺達はエクスザマリバーの在り処さえ教えてもらえば良かったのに、冒険について来るなんて……」

「いいよ、別に。僕を雇いたい連中をおちょくるのも飽きてたし」


 ノストラは地図を畳むと、方位磁針のような道具を取り出し、湖がある方角へ歩き出した。

 ヨシタケが知る方位磁針とは違い、針ではなく小鳥のオモチャが取りつけられている。オモチャの小鳥はアホそうな顔で、「コッチ、コッチ!」とけたたましく鳴く。ヨシタケ達も彼の後をついていった。


「それに、現勇者のパーティにはメルザマァル先輩がいるんでしょ? だったらご挨拶しておかないと」

「知り合いなのか?」

「同じ魔法学校に通ってたんだ。僕は飛び級だったけどね。僕ほどではないにせよ、メルザマァル先輩も優秀な生徒だったよ。"絶対に王室賢者になるんだ"って息巻いてたっけ」

「強かったもんなぁ……入るべくしてパーティに入ったというわけか」

「というか、どうしてもパーティに入りたかった理由があったらしいよ。言えないけど」


 ノストラは何かを企んでいるのか、ニヤリと笑った。




 飛び出してくるモンスターを倒しつつ、ヨシタケ達は湖を目指して歩き続けた。今まで遭遇したことのないモンスターも多くいたが、ノストラが弱点を知らせてくれたおかげで容易に切り抜けられた。

 やがて日が傾き始めると火を焚き、野宿の支度をした。夕食は、そこら中に生えていた食べられるキノコを焼いて食べた。


「うまっ! この赤くて黄色い斑点のあるキノコ、絶対毒キノコだと思ってたのに!」

「さすが賢者職だな。キノコの見分け方まで知っているとは」

「当然でしょ? この世界で僕が知らないことなんてないからね」

「じゃあ、俺がエクスザマリバーを手に入れて、ザマスロット達をざまぁできるかどうかも分かるのか?」


 ヨシタケの質問に、ノストラは「うーん」と自信なさげに腕を組んだ。


「それが……ぼんやりとしか見えないんだよね。今はまだ、未来が確定していない。良い方向に転ぶかもしれないし、悪い方向に転ぶかもしれない。逆に言えば、今ならどうとでも未来を変えられるってこと」

「どうすれば、ザマスロット達をざまぁできる未来に変えられるんだ?」

「今から占ってみるよ」


 ノストラは膝の上に手をかざし、横へ動かした。するとタロットカードのような凝った絵が描かれたカードが空中に現れ、横一列に並べられた。

 ノストラはそのうちの三枚をめくり、表に向けて場に出す。大きな星が描かれたカードと、お面をつけた仙人のカード、ザマァーリンによく似た魔女のカードが現れた。


「夜空に輝く一等星、平凡なる隠者、世界の観測者ザマァーリン……なるほど」

「つまり、どういう意味なんだ?」

「"汝、秘匿せし特技を明かせ。されば、願いは叶う"。ようは、特技を披露しろってこと」

「隠し芸大会かー。面白そうじゃん!」

「自信満々だな。じゃあ、ザマビリーからどうぞ」

「おうよ!」


 真っ先に食いついたザマビリーは自信ありげに特技を発表した。


「実は俺、モノマネが得意なんだよ」

「モノマネですか?」

「俺、こっちの世界の有名人なんてほとんど知らないぞ」

「心配すんなって。ヨシタケも知ってる奴のモノマネにするからさ」


 そう言うとザマビリーは口をつぐみ、じっとヨシタケを見つめた。モノマネをすると言ったわりに、一向に口を開こうとしない。


(腹話術でもするのか?)


 ヨシタケも仲間達も訝しんでいると、頭の中で声がした。


(ヨシタケさん)

(え? ザマルタさん?)


 声の主はザマルタだった。

 チラッとザマルタを一瞥すると、ザマルタもまたこちらを見ていた。いつになく真剣な眼差しでヨシタケを見つめている。


(ザマルタさんもテレパシーが使えたんですか?)

(どうしても、ヨシタケさんにお伝えしたいことがあって……)

(伝えたいこと?)


 ザマルタは眉をひそめ、ヨシタケの顔を凝視する。

 素朴な美しい顔がすぐ目の前まで迫り、ヨシタケは恥ずかしくなって赤面した。


(実は私、ヨシタケさんのことが……)


「ヨシタケさん、おでこに虫刺されができてますよ」

「うぇっ?!」


 突然のザマルタの告白に驚いたのもつかの間、実際のザマルタはヨシタケの額を指差した。

 触れて確かめてみると、確かに額の中央あたりが腫れていた。


「ヴァンパイア蚊に刺されたのでしょう。大したことはなさそうですが、一応治療しておきますね」

「あ、はい」


 ザマルタは告白しようとしていたことなどすっかり忘れたかのようにヨシタケの額へ手をかざし、淡々と治療した。

 ヨシタケは直接尋ねることもできず、複雑そうな顔をしている。すると、彼の表情を見たザマビリーが声を上げて笑い出した。


「はっはっは! 悪い、悪い。今、頭の中でお前に話していたのは俺だ」

「えっ?! ザマビリーが?!」


 ヨシタケは驚いた。頭の中で聞こえたザマルタの声は、明らかに彼女のものだった。

 逆に、テレパシーが聞こえていなかったザマルタ達には何のことか分からず、ぽかんとしていた。


「話してたって、テレパシーで?」

「その割には驚きすぎやしないか? 今までだって、急にモンスターが接近してきた時に知らせたり、攻撃のタイミングを合わせるのに使ってたりしていたぞ」

「だからモノマネだよ、モノマネ。ただし、ザマルタのな」

「わ、私の?!」


 仲間達もようやくヨシタケが何に驚いていたのか把握し、驚いた。


「そんなにそっくりだったんですか?」

「そっくりどころか、完全にザマルタさんだったよ」

「頭の中じゃ、どんな声でも再生できるだろ? それをテレパシーに使ったのさ。俺が声を聞いたことのある奴なら、誰でもできるぜ」


 するとザマルタが「はい!」と真っ先に手を挙げた。


「では、エリザマス姫のモノマネはできますか?」

「もちろん。魔王に攫われる前は毎年、映像通信(ホログラム)でご挨拶されてたからな」


 そう言うとザマビリーは口を閉じ、ザマルタを見つめた。

 しばらくするとザマルタは「はぅっ!」と両手を口に当て、瞳を涙で潤ませた。


「こ、これは……まごうことなく、エリザマス姫のお声! ザマビリーさんがお話になっているとは思えないほどの可憐さです!」

「だろ? 普通のテレパシーに比べてかなり集中力がいるから、無言でいないとキツいけどな」

「戦闘中に使えたら、便利そうだな」

「やったことあるぜ。失敗したけど」

「えっ、なんで?」

「途中で集中力が切れて、バレた。戦いながらじゃ、モノマネに集中できねぇ。使うとしたら、どこかに隠れてやるしかねぇな」


 ふと、ヨシタケは先程ザマビリーが発していた聞き慣れない言葉について尋ねた。


「ところで、映像通信ってなんだ?」

「あー……なんて説明したらいいんだろうな」

「これだから素人は。僕が答えてあげるよ」


 するとザマビリーの代わりに、魔法に詳しいノストラが答えてくれた。


「例えるなら、ヨシタケの世界にあるプロジェクターのような道具かな。そこに実際にはない物や人間の姿を映し出すことができるんだ。幻覚魔法よりも精度は低いけど、特殊な魔法道具さえあればどこでも観られるから、辺境では重宝されているよ」

「あ゛? 誰の町が辺境だってぇ?」

「子供を恫喝しないでよ、大人げない」


 睨み合うザマビリーとノストラに、ザマルタは「まぁまぁ」と仲裁した。


「せっかく映像通信の話が出たことですし、次は私の特技を見てもらえますか?」

「ザマルタさんの特技って?」


 ザマルタは自信なさげに眉尻を下げ、答えた。


「映像通信です。精度は低いですが」

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