第4章「こども賢者に、ざまぁ」⑷

「ねぇ、どうするぅー? ギブアップするぅー?」


 ノストラはゆらゆらと体を横へ揺らし、ヨシタケをあおる。

 ムカつくほどの余裕っぷりに、ザマビリーとダザドラはイラ立った。


「クソうぜぇ……もう俺のテレパシーで気絶させて、拉致った方が早くないか?」

「やめて下さい。列に並んでいる方々と戦争でも始める気ですか?」

「それは良いな。憂さ晴らしになりそうだ」

「ダザドラさんもやる気にならないで」


 ザマルタはヨシタケを見守りつつ、血の気の多い二人を一人でなだめる。

 ヨシタケには二人が爆発する前に、カタをつけて欲しかった。


(ヨシタケ様、頑張って……!)


 するとザマルタの願いが通じたのか、ヨシタケの脳裏にと、彼女と出会った空間のことがよぎった。


(ノストラは俺の前世を知っていた……ってことは、ノストラも自分の前世を調べているんじゃないか? もしそうなら、あの場所でとも出会っているはず。そしてもし、あのことに気づいていなかったのなら……)


 一か八か、ヨシタケは思いついた人物と場所についてノストラに話した。


「じゃあ、これは知ってるか? 死んだ後に連れて行かれる場所と、そこにいる人……いや、のことを」

「もちろん! 死後の世界を統べる、女神様のことでしょ?!」


 ノストラは食い気味に答えた。今までとは違い、年相応の子供のように目をキラキラさせている。


「僕自身の前世を調べている時に、思い出したんだ。朝焼けと青空が交わった美しい空と、真っ白な雲海が果てしなく広がる、天国のような世界……そして、美しくも神々しい女神様! きらめく黄金色の髪、愛らしいピンク色の瞳、純白の衣装と翼! あぁ……できることなら、死ぬ前にもう一度お会いしたい!」


 どうやら、彼にとって女神との逢瀬はかけがえのない思い出らしい。

 貴重なノストラの子供らしさを汚したくはなかったが、「課題をクリアするためだ」とヨシタケは自分に言い聞かせ、打ち明けた。


「実はあの空間……偽物なんだ」

「……偽物?」


 その瞬間、ノストラの顔から笑みが消えた。親の仇でも見るような目で、ヨシタケを睨みつける。


「それ、本気で言ってる? 冗談だったら、今すぐ〈ザマァ〉するけど」

「あぁ……本気だ」


(こ、怖ぇー……)


 ヨシタケは内心、ノストラに怯えながらも、死後の世界のカラクリを説明した。


「あの世界は雲の上なんかじゃない……プロジェクターの映像とドライアイスを使って、再現していただけだ。実際は何もないただの部屋だよ」

「プロジェクター? ドライアイス? 何それ、魔法?」

「どちらも俺がいた世界にあった道具だよ。プロジェクターは白い幕や壁に映像を投影させることができる機械、ドライアイスは固体二酸化炭素……例えるなら、すっげー冷たい氷みたいなもんかな。お湯をかけると、白い煙が出てくるんだ。俺達が雲海だと思っていたのは、その煙だったんだよ」

「う、嘘だ! あのお優しい女神様が、そんな姑息な手で僕を騙すはずがない! 大体、何で女神様がお前の世界の道具なんて使うんだよ?! 女神なんだから、魔法を使えばいいじゃないか!」

「使えないから、道具に頼ったんだろ? あの翼も作り物だったしな。疑うなら、お前が女神と会った時のことをよく思い出してみろよ」

「僕が、女神様と会った時のこと……」


 ノストラは両手を頭に当て、目を伏せた。記憶を遡り、女神と出会った時のことを思い浮かべる。

 色々あって命を落とした後、ノストラはあの美しい空間に立っていた。目の前には想像通りの女神の姿をした女神が立っており、ノストラに微笑みかけていた。


『お目覚めになりましたか? お客……ノストラさん。唐突ですが、貴方にはこれから異世界転生してもらいます。魔王が復活し、選ばし勇者が貴方のもとを訪ねてくるその時まで、賢者として腕を磨いていて下さいね?』

『は、はい……』


 記憶の中のノストラは女神の美しさに魅入られ、ぼーっとしたまま頷いた。

 転生した後にその記憶を思い出した時も、ノストラはただ女神の美しさに心惹かれていた……見えているはずの違和感を見落としてしまうほどに。

 しかし、今度はそれらの違和感に


(……あれ? なんか女神様の髪、ズレてない? まさか、カツラ?)


 今までは気づかなかったが、女神の髪が横に数センチずれていた。ずれている部分から短く切られた地毛が見えている。

 髪だけではない。服にも目をこらすと、女神らしい白装束の下に、女神らしからぬ白いビジネススーツを着ているのが透けて見えた。


(見たことのない服だ……あれもヨシタケの世界のものなのかな? 何でそこまでヨシタケのいた世界を贔屓ひいきするんだ……?)



『それでは、どうかご武運を!』


 説明が終わり、女神は手を振ってノストラに別れを告げる。

 次第にノストラの意識が遠のき、視界は白んでいく中、ノストラは決定的なものを見てしまった。景色の一部が外から、見知らぬ男が顔を覗かせたのだ。


『女神ー、仕事終わったか?』


 男はビジネススーツを着た、平凡そうな顔の男だった。ヨシタケと女神が「ザマァ」を言う練習をしていた際に、苦情を言ってきた男と同じ人物だ。

 ムカつくことに、女神は男の顔を目にした瞬間パッと表情を明るくさせた。


『はい、ばっちりです! これでパーティのメンバーは全員揃いましたよ!』

『それは良かったな。ひと段落したようなら、お茶にしないか? 今日のお茶請けはフェアリーランドのバームクーヘンだぞ』

『わーい! バームクーヘン、バームクーヘン!』


 女神はノストラのことなどすっかり忘れ、男性の待つドアの向こうへ去っていった。

 ドアが閉まる直前、女神が親しげに男性の腕へ腕を絡めているのが見えた。




 ようやく女神の嘘に気づき、ノストラは怒りとショックでわなわなと震えた。


「……リ」

「り?」


 頭から手を離し、拳を握る。衝動のままに、玉座の肘掛けへ叩きつけた。


「リア充死ねッ!」

「どうだ? 違和感に気づいたか?」

「気づきたくなかったよ! 僕の美しい記憶を返せ! いたいけな子供の夢と恋心をぶち壊して楽しいか、クズ勇者ッ! 〈ザマァ〉!」

「ハッハッハ! 痛くも痒くもないぜぇ~」


 ブチギレるお子様に、ヨシタケは大人の余裕を見せる。

 が、ヨシタケの顔を見た仲間達は青ざめた。


「ヨシタケ……なんか、口から紫色の泡が出てるぞ?」

「え?」

「目や鼻からも垂れてますよ」

「いかにも毒々しい色をしているが、大丈夫か?」

「別になんとも……」


 そう言った直後、ヨシタケは目を剥き、倒れた。


「よ、ヨシタケぇぇぇ!」

「この症状……毒の〈ザマァ〉か!」

「毒舌でざまぁされると、稀に受けるという状態異常ですね! 攻撃を無効化できなかったということは、本当は内心、ノストラ君を傷つけて悪いと思っていたということでしょうか?!」

「うん。ほら、俺って根はいい奴だからさ……ガクッ」

「よ、ヨシタケぇぇぇ!」

「死ぬなぁぁぁ!」


 騒然とするプロフィポリスに、仲間達の悲痛な叫びが響き渡った……。




 こうして、ヨシタケの死と引き換えに、


「いや、死んでないから」


ノストラを仲間に引き入れることに


「だから死んでないって。ザマルタさんが治してくれたから生きてるって」


成功したのであった。


「ねぇ、ちょっ、聞いてよォ! 生きてるから、俺ェェェッ!」




〈第四章 戦況報告〉

▽プロフィポリスに到着!

▽「メインクエスト:ノストラの課題」を開始した!

▽ヨシタケの「異世界語り」! しかし、回避されてしまった!

▽ヨシタケの「女神の秘密」! 効果は抜群だ!

▽ノストラの攻撃! ヨシタケは毒の〈ザマァ〉を受けた!

▽ヨシタケは目の前が目の前が真っ暗に……


 なりそうになったけど、ザマルタに治療され、息を吹き返した。

▽ノストラが仲間になった!

▽神殿に並んでいた冒険者達を〈ザマァ〉した! 効果は抜群だ!

▽冒険者達を倒した! ノストラを雇えなくて、ざまぁ!


To be continued……

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