山瀬さんを病ませたい
百日紅
自業自得
「あなた、私のこと本当に好きよね」
わたしに荷物を持たせたまま、軽々と帰り道の階段を駆け上がり、わたしの前に躍り出る女の子。
彼女は
わたしの大事な大事な、愛しいカノジョだ。
付き合いだした当初からカノジョはわたしに当たりが強くて、何かとわたしを召使いのようにこき使い、ツンツンとした態度でなじってくる。
そんな彼女だけれど、こう見えても、告白をしてきたのは向こうだ。
あの時のことは、いつでも鮮明に思い出すことが出来る。
『あ、あの!わ、私、あ、あなたのことが、す、好き、なの!お願い、付き合って、くだしゃい!!』
あのぷるぷると小刻みに震えていた身体。
上擦る可愛らしい声。
真っ赤に上気した顔。ぎゅっと閉じられた瞼。
その当時は、わたしと山瀬さんにそこまでの接点が無かったのだけれど。どうやら彼女はわたしに一目惚れをしてしまったらしい。
わたしもわたしで、どこか彼女の告白を目にして、こう胸に、ぐっと、いやキュンとくるものがあった。だからこそ、そこからだと思う。
わたしも山瀬さんに惚れたのだ。
もちろん告白は承諾する。
すると山瀬さんは…………
『ほ、ほんとに!??………よ、よかったぁ。……………あ、……ふ、ふん!ま、まぁ?この私があなたみたいな子に告白してあげたんだから、受け入れるのは当然のことよね!!!』
『うんうん。そうだね、山瀬さん可愛い』
『えへへ♡当然よ!!』
思えば最初から、わたしも彼女に対して甘すぎたのが良くなかったのかも。山瀬さんの私に対する高飛車な態度は段々とエスカレートしていき、今では恋人関係だと認識しているのはわたしだけで、もしかしたら山瀬さんはわたしたちの関係を主従関係か何かだと勘違いしているのかもしれない。
………はっきり言えば、このままではいけないことくらい、分かっている。ただ、わたしに対して必死に上から目線でマウントをとろうとしてくる、その行動も、わたしからすれば『可愛い』としか感じられないのだ。
ここまで来てしまえば、お互いにこじらせていて、二人ともどこかずれていて、相手をそうさせてしまった、わたしたち個人個人が悪い。
ここいらで一度、わたしたちも本来の恋人関係へと軌道修正する必要がありそうだ。そのためには、わたしは山瀬さんをただ甘やかすだけなこの状況を止めて、お互いが正しい距離感を掴むためにも、一旦厳しく接するしかない。
急にわたしが接する態度を変えれば、山瀬さんは戸惑うかもしれない。下手したら、傷ついてしまうかもしれない。
だって、山瀬さんはツンツンしていながらも、絶対にわたしのことが好きだから。
そう思うと、わたしも心が痛む。
けれど、これはわたし自身への罰なのだ。今まで後先考えずに彼女を甘やかしてきた結果がこれなのだから。まさに自業自得。
この罰も甘んじて受け入れるしかない。
「澄川ちゃん」
「なに?あなたごときが私の名前を呼ばないでって、前にも言ったわよね?」
「ううん。ごめんね。最後に呼びたかっただけ」
「え?」
「山瀬さん、これ、重たいから、自分で持って」
わたしは階段を上ってる途中で足を止め、ここまで持ってあげていた彼女のスクールバッグを山瀬さんに持たせる。
「………え?」
「わたしたち、今日から少し距離を置こっか」
「ぇ、な、え?」
「とりあえず今日は、もうわたしは一人で帰るね」
「ぁ………。ま、待って!」
「いや」
胸が痛むけれど、わたしは彼女に明確な拒絶を示し、一人で帰宅した。
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