第8話
いよいよ明日は入学式だ。
先週、私たち一家は王都のタウンハウスに移ってきた。
うちの領地は王都のすぐお隣なので、今までは社交シーズンの前半だけ帰りが遅くなりがちなので両親共に滞在したり、お父様の仕事が遅くなり帰るのが大変な時に泊まったりする場所として遣う程度だったが、これから3年間は基本ここに家族で暮らす。
明日…私は複数回楽しんだセイント☆ストーリーの冒頭入学式を思い返す。確か…
学校全体が映って…
ヒロインの自己紹介付きの学校説明が流れて…
式で王太子が挨拶したのを見て、教室に移動する時、ディルアーナとヒロインがぶつかって…
ディルアーナがヒロインにつっかかった挙げ句イチャモンつけてチュートリアル戦闘をする…までが固定。
うん、気を付けよう。
で、王太子と会話して、教室についたら隣の席になる攻略対象が体験版ではランダムで選ばれて会話があったけど…製品版はそれまでの行動で決まるって妹が言ってたな。
て、ことは私はヒロインの隣の席は回避できそう。
聖・王立学園は寮の無い学園だからクラスが基本1つしかないのよね。
ちなみに王都にタウンハウスが無かったり爵位の低い貴族は王立サンクチュアリ学園に通う。
実は同じゲーム会社のスマホ配信版の舞台がこっちの学園なのよね。
スマホゲームだけあって攻略対象が数え切れないほどいるんだけど…。
アプデの度に増えたり限定ストーリーが出たり果てしない。
翌朝、真新しい制服に身を包み私はセルディと共に小型の馬車に乗り込む。
領地にはサイズも様々な複数の馬車を保有しているが王都は混み合うのもあってタウンハウスには小型の馬車2台しか保有していないので、朝はなるべく一緒に通おうとセルディと決めた。
「やっぱり小型の馬車に2人はちょっと狭いかしら?」
「2人共大きくなったからね。向い合わせに座ればゆったり座れるさ。」
そう言ってセルディは馬に背を向ける方の座面に腰掛け私が馬車に乗るのを手助けしてくれる。
「お兄様がそちらで良いの?」
「一応ディディも女性だからね」
ちょっと悪い顔で笑うセルディ。
「一応は余計ですぅ!淑女相手なのにー」
私のした怒ったフリにセルディは吹き出した。
そんな他愛もない会話を楽しんでるとあっという間に学園に着いた。
少し頑張れば歩いて通える距離なので馬車だとあっという間だ。
混み合う馬車降り場から少し歩くと学園の門が見えてくる。
「わぁ…!」
何度も画面越しに見た聖・王立学園そのままだ。
ゲームでの入学式は王太子の挨拶くらいだったが実際は2時間半ほどあり少し疲れた。
今年は王太子に公爵令嬢もいるというので偉い人の挨拶が多かったらしい。
王太子の声はゲーム内の某声優さんそのままだった。
ボーっと教室に向かっていたらドンっと強めに肩がぶつかった。
「大丈夫ですか!?」
可愛らしい聞いたことある声。
「は?え?」
続いて響く声…ん?ヒロインのセリフにこんなのあったかな。
「こちらこそごめんなさい。大丈夫ですか?」
ゲームと違って常識的な返しをする。
こちらを見ているヒロインは案の定ピンクの髪にほんのり桃色がかった大きな真珠のついた髪飾りをしていた。
よく見ると真珠は髪飾りに無理やり後付したのかもしれない作りだ。
何で誕生石の髪飾りが母親の形見なのかと思ったら形見に誕生石をくっつけたのかもしれない。
「あの…ディルアーナ…よね?水色の髪、1人しかいなかったしぶつかったし」
「え?」
まさかの名前呼び捨て。
「あの…初対面だと思うのですが…」
いきなりこんな風に言われたら少し気の強い令嬢なら誰でも怒る気がする。
でもそんな気も起きないくらいヒロインの顔はポカンと間が抜けていた。
「えぇ…。伯爵家のディルアーナ・ディオ・ブレビリーですわ。あなたは?」
「…あんた転生者?」
「はい?」
なんとヒロイン、こちらの質問無視して質問を被せてきた。
しかも『転生者』って言った?
ヒロインも転生者ってこと?
イメージと違う言動し過ぎだけどこのゲーム知らないとか?
いや、私の名前知ってる時点でそれは無いな…。
痛い人ってやつか…もしくはゲームの世界だからと好きに振る舞ってるか…?
どちらにせよ平穏に生きるにはこの人には転生者ってバレない方がいい気がする。
懐かしい日本の話とかしたい気もないわけでないがヒロイン相手にも転生者ってのは秘密にしておこう。
そう心の中で強く決心した。
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