第6話
夏の暑さも和らいできた今日このごろ。
そろそろ誕生日だというのに至って平和な日々。
私は結局魔物討伐には連れてって貰えないままだった。
まぁ…確かに私は騎士になりたいわけじゃないけど…。
あんなキツそうな訓練したくないし…。
でもゲームと違ってセルディも魔物討伐に出るようになったからもしかしたら魔物の数が減って襲われる危険がなくなったのかも?
そんな風に呑気に構え、ちょっと訓練が疎かになってきたタイミングだった。
屋敷にほど近い池の畔でお母様と夕涼みをしている時、私達は襲われた。
「アァッッッ!」
そういきなりお母様が叫んだ瞬間、血が宙を舞った。
お母様の肩から腰にかけてがザックリ鋭利な何かで切られている。
「お母様!!!」
叫びながら私は自分たちを囲うように土魔法で土壁を築き、全力で回復魔法を放つ。
「うぅ…ディディ…、逃げ…なさ…い…」
本来はほぼ即死の傷だったのか出血が止まらない。
でもちょっとづつ治っている!
「絶対治してみせますから!シッカリして!」
もう少し…あと少しで致命傷とは言えなくなる…!
必死に訓練して子供にしては異例と言える魔力量になったし放っているのは中級レベルの回復魔法。
でも、あんなに頑張ったのに11歳のディルアーナでは何か鍛えられない数値が低いのかもしれない。
どうみてもゲーム開始時に使える回復魔法よりマシかな程度の威力なのだ。
きっと初級回復魔法なら回復が追いつかなかった。
治療に時間がかかるとそれだけ血が流れる。
傷は治せてもお母様の体力は刻一刻と弱まっていく。
「ディディ、どこから攻撃を受けたか分からないわ。お母様はもう大丈夫。1人なら逃げられるわ。防御を上げて逃げなさい」
先程よりしっかりした口調にはなったが大丈夫だなんて絶対嘘だ。
軽く息は切れ、顔色はもの凄く悪い。
傷は塞がってきたが流れてしまった血も多い。
絶対大丈夫なわけが無い。
その時ザッと土壁が切り落とされたように崩れる。
驚き視線をやると湖に中ボスクラスの魔物が潜っていったのが見えた。
「ど…どうしよう…」
獰猛な半魚人のようなアレは今の私じゃ倒せない。妹の攻略で見た2年生の夏くらいに出てくるイベントボスだ。
土属性は水属性に弱い。
物理攻撃ならともかく相手がアレじゃ私の防壁じゃ時間稼ぎにもならない。
ただ攻撃の威力は強いけどそんなに飛距離はなかったはず!
魚っぽいだけあって水から出られないから距離を取れば…で、気付く。
(怪我してるお母様を連れて動けないわ…)
ぐったりと力なく横たわるお母様。
漸く傷はほぼ塞がったがゼイゼイと息は上がりいつまで意識が持つかすら怪しい。
治すのに時間がかかり過ぎたからか明らかに具合が悪かった。
「ギーーー!」
魔物が腕を振り上げ攻撃を放とうとしている。
私は防御力を上げる魔法を自分にかけてお母様に覆い被さった。
「ディディ!」
お母様の叫びとザッと肩甲骨の辺りに痛みが走ったのはほぼ同時だった。
が、お母様の傷を思えば掠った程度だ。
(攻撃が反れた…?)
恐る恐る顔を上げると魔物が再び潜ったところだった。
そして湖と私達の間には水魔法の優位属性、風の防壁魔法…お母様の属性だ。
「ディディ…無事ね…?」
私の無事を確認し、お母様の意識は途絶えた。
「お母様!?」
私を守るためになけなしの力を振り絞ったに違いない。
無駄だと分かっているが回復魔法を再びかける。
お母様の呼吸はあるが涙が止まらない。
「そんな…お母様…お母様!」
そんな私達を狙い魔物が再び顔を出し…凍りついた。
「ディディ!お母様!」
お兄様の声がする。
「お兄様!お母様が!お母様がぁぁぁ!!!」
屋敷の方からお兄様が走ってくる。
その更に後ろから水のナイフが飛んできた。
ザンッ…
水が凍って動けなかったとはいえ一撃で魔物の首が高く飛ぶ。
「ディディ!リファリナ!」
私とお母様の名前を呼ぶ声はお父様だ。
さっきの「
初級魔法であの威力とコントロール…騎士団長の名は伊達じゃない。
「迎えに来て良かった!無事か!?」
「お母様が…お母様が…」
私の膝の上で力なく横たわるお母様を抱き上げジッと見つめるお父様。
「…大丈夫、恐らく出血と魔力切れで気を失ってるだけだ。呼吸は荒いが安定している。ディディ、良くやった!」
涙でぐしゃぐしゃの私にお兄様がハンカチを差し出す。
「コレで顔を拭け…」
そう言いながらお兄様が初級の回復魔法をかけてくれた。
お兄様の魔力もやはり弱い。
これだったらお母様の命は助からなかったかもしれない…。
そんな事を思っていたら一気に痛みが消えた。
お父様の初級回復魔法だ。
「お父様…どうして私達の魔法は弱いの…?」
なにを鍛えれば良かったのか…今更だが知りたい。
「あぁ、子供だからな。魔力は今から訓練で増やせるが本来の威力で魔法が使えるのは本当は15歳くらいからなんだよ。学園も15歳からだろ?だからもう少し大きくなったら自然と強まるよ」
えー…知らなかった…
「ディディも討伐に行きたいと言ってたが…お前の攻撃手段魔法だけだろ?だからまだ連れていけないって言ったんだよ」
あの時私は「騎士になるつもりが無いならダメだ」と断られている。
理由を説明してくれてたらどうしたら手に入るか分からないけど回復アイテム調べて手に入れてたのにぃーーー!
少々邪魔でも持ち歩いたのにー!!!
私の心の叫びを知る由もないお父様。
まぁ…お母様が助かったから良しとしよう…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます