第190話 幕間
午後はジスランとの見学で終わってしまった。
それほど、仕事で決めることが多いということだ。現場を見ながら頭の中と実物をすり合わせる。必要な作業だった。
そのため、騎士団での練習は休ませてもらった。
「今日はジスランの仕事につきっきりだったようだな。競馬場はできそうか?」
導師はいった。
「ええ。その予定です。様々な問題が出ました。また、話し合う必要があるようです」
僕は今回の見学で、小さなことから大きなことまで、問題があるのを知った。
「そうか。こちらでも進展があった。お前の父は傭兵を集めて何かを結成しようとしている。それは傭兵団かわからないが、力のある人間を集めている。そこで、こちらから打って出る予定だ。お前は行くか?」
「必要なら行きますが、連係の不安があります。僕と連係ができる騎士は二人しかいません。それに術士もいません」
「そうか。なら、今回は傭兵ギルドに任せようと思う。犯罪者を頭にして団を作ったんだ。その責任はギルドにあるからな」
「騎士団が出なくて問題ありませんか?」
「傭兵ギルドでは強いパーティーに声をかけるだろう。弱いヤツにはやらせんよ」
「それですと、父に逃げられるんですが……」
僕の希望は通じないようだ。
「ああ。そうだったな。……私からも忠告しよう。仲間は捨て駒で、形勢が悪くなるとすぐに逃げると」
「たぶん。意味ないですよ。実際、目にしないとわからなほどの逃げ足の速さですから」
「それも含めていうよ。お前の懸念はわかる。しかし、力を持つなら潰すしかない」
「僕なら、それは表の顔で、裏ではもっと違う方法で力を集めていると思いますよ。そちらが本命と思います」
「……なるほど。神霊族の影響で一般人なら誰でも使える。例外は龍の牙を持つ者以外か。すまん。少し本気になる」
姿勢を正した導師の真意がわからない。
「はあ」
僕は間抜けな返事をした。
「まあ、公爵である意味を知ってもらうだけだ」
導師はほほ笑んでいた。
頼もしくもあるが、不安もある。絶対というものがないからだ。なので、父が捕まればいいなーと思うだけだった。
僕は寝る前の時間を防御魔法の魔導書を解析していた。しかし、気になることがあった。
夕食の時にいった導師の話だ。
父が動き出した。
これは本格的に考えないと命がなくなる。父は逃げ足の早さは一流である。そして、失敗を糧にしてさらなる方法と力を身に付けてくる。僕はそれを上回らないとならない。それができないと死が待っているからだ。
父との縁は早くに消した方がいい。父の成長速度は僕の成長速度より上回っていると思う。
ふと、部屋のドアが開いた。
「また、浮いています。ちゃんと席についてください」
ノーラにしかられた。
「考え事の途中だよ。ちゃんと、本は読書台にあるでしょ?」
「ええ。ですが、浮いているのは行儀が悪いのです」
「そうなの? 部屋を歩き回るのと一緒だよ? 考え事をするとそうなるんだから仕方ないと思う」
「ダメです。貴族らしく、机で考えてください」
僕は仕方なく浮かぶのをやめて地に足を付けた。
「ところで、何しに来たの?」
僕は席に座りながらきいた。
「……忘れました。また来ます」
去り行くノーラの背中を見ると、僕は導師が持つ書斎が欲しくなった。
朝の勉強は医学書から防御魔法の解析になった。
僕は魔法使いだ。魔導書の内容の方が頭に入る。今までの苦労がウソのようだった。
「ちょうどいい魔導書です。これなら、よい教科書になります」
語学も担当する家庭教師は喜んでいた。
僕はその魔導書に書かれている魔法を使う。
家庭教師は喜んでいる。
普通の七歳と比べると優秀なのだろう。褒めてばかりだ。
今までが普通と違うようだ。まあ、喜んでいるので、このまま進めることにした。
昼食をとってカリーヌの家に行く。そして、メイドの案内でテラスに向かった。
「よう。競馬ってあんな大掛かりなのか?」
いつものように一番にあいさつをするアルノルトにいわれた。
「ええ。大事業ですよ。闘技場と人気を二分すると思います」
「マジか?」
「ええ。それだけの施設を作っています。お父様は大きな博打をしていますよ」
「何だって?」
アルノルトは驚いていた。
「新しい仕事を起こすことは一種の博打です。成功すればお金が大きく手に入りますが、失敗したら借金で地の底です。なので、遊びではありません。命懸けでもあります」
「そうなのか……」
アルノルトは額に汗を浮かべた。
「博打をするなら、お父様のように起業した方がいいですよ。確立はわかりませんが、博打より楽しいと思います」
「そうなのか……。考える」
アルノルトは考え込んだ。
僕はカリーヌに迎えられて、いつもの席に座る。そして、メイドに紅茶をもらった。
僕は一口飲んで思い出す。
「そういえば、競馬では予想屋がいましたね。自分の予想を話して、お金をもらう仕事があると聞きました。ですが、必ず勝てるとは思わないです。勝てるなら、一人で静かに賭けていますから」
「それって、信じられない職業ね」
レティシアはいった。
「ええ。話術が達者でないとならないですね。負けた時の言い訳が上手くないと、暴力を受ける可能性がありますから」
「まあ、そうね。未来予想だもの。だましているとも考えられるわ」
「そうですね。解説が楽しいから聞くんだと思いますよ。それも娯楽の一つです」
「なるほどね。色々な商売があって面白いわ。他にないの?」
「そういわれてもすぐに思い出せません。それに場内では勝手に仕事はできませんよ」
「そう。面白い話があったら教えて」
レティシアは紅茶に口をつけた。
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