第177話 試験
執事がドアをノックして扉を開ける。そして、僕は中に入った。
サムエルという人は好青年のようだった。傭兵のような荒っぽさは感じなかった。
「初めまして。シオン・フォン・ランプレヒトと申します。よろしくお願いします」
僕は頭を下げた。
サムエルは驚いた顔をしていた。
あいさつを失敗はしていないはずだ。だが、僕を見て固まっている。
「おい。何とかいえ」
クンツはサムエルの頭を叩いた。
「あっ。すみません。サムエル・アッペルグレーンといいます。この度は護衛の件で呼ばれました」
サムエルはあわてて立って答えた。
「さっそくだが、模擬戦をしてもらう。いいか?」
導師は僕にいった。
「はい。荒野に行くんですよね?」
「街中で暴れさせる気はないぞ。王に怒られるどころではない」
「わかっています。普段から、使う魔法を選んでいます」
僕は抗議した。
「あのー。この子は普段から身体力向上と防御膜の魔術を使っているんですか?」
サムエルは恐る恐るいった。
「騎士団で練習しているので、自然と身に付いたようだ。隠密に行動をする時にはやめさせているが……」
導師はぼやいた。
「クンツさん。これが、この家の普通ですか?」
サムエルは不敬罪に問えるようなことをいった。
「ああ。普通だ。相手を子供と思うなよ。負けるぞ」
クンツはいった。
僕たちは導師のゲートの魔法で移動した。
荒野は変わらず、乾いた風が吹いていた。
僕は探知の魔法で周囲を探った。人はいない。
「では、すぐに始める。体を温めるのはなしだ。実戦方式にしてもらう」
「わかりました」
サムエルはうなずいた。
「それで、シオンの普段の探知範囲は?」
導師にきかれた。
「普段は任せています。僕では広すぎますから」
「それは問題だな。普段の探知範囲を決めて置け」
「わかりました。悪意がわかる範囲でいいですか?」
「いや。それほど広げる必要はない。敵意を向ける相手ぐらいでいい」
「はい」
僕が答えるとサムエルは驚いた顔をする。
「クンツさん。常識はないんですか?」
「ああ。それはない。オレを相手にするのと同じと思え」
「わかりました」
サムエルの顔色はくもっていた。
サムエルとは中距離ほどの間を取ってもらった。
そして、相対する。
『始め!』
導師のコールの魔法が届いて模擬戦が始まった。
僕はブレイクブレットの弾丸の幕で相手を牽制した。
しかし、サムエルは疾風の二つ名の通り素早かった。面の攻撃を素早く大きく動いて避けた。
そして、サムエルは近づいてくる。しかし、ブレイクブレットの弾幕の前では攻めあぐねているようだ。
近づいても、避けるために距離を取る。それが続いた。
しびれを切らしたのはサムエルだった。
防御膜を強化し、盾を全面に出して突っ込んできた。
僕はクラッシュの魔法を放つ。
すると、威力がわかったのかクラッシュの魔法は避けた。しかし、ブレイクブレットの弾丸は襲い続けていた。
サムエルは転移した。僕の直上だ。僕は転移して、落ちるサムエルの頭上に転移した。
サムエルは振り返るが、僕はブレイクブレットの弾丸で地面に縫いとめた。
そして、構成してきた帝級魔法のフォーリングサン《落陽》を出した。
浮かんでいる足元ではゆっくりと火の玉が大きく花開く。
僕はサムエルの反応を見ながら大きくしていった。
『転移しろ!』
導師のコールが聞こえた。
サムエルはそれに反応したのか転移した。
僕はそれを確認して魔法を完成させるべく火の玉を解放した。
帝級らしく大きな火の玉は荒野で燃えていた。
『終わりだ』
導師は終わりを宣言した。
僕は転移して導師の側に行った。
「同時に発動できる攻撃魔法は三つか?」
導師にきかれた。
「はい。五つは欲しいのですが、まだできないです」
「その内、できるようになるよ」
導師は僕の頭をなでた。
「失格ですか?」
サムエルは歩いてきた。
「それなんだが、よくわからん。騎士とは距離があると、ああも魔法使いに後れを取るのか?」
「得意な距離はある。だが、シオンが強すぎる。一対一の模擬戦で帝級を使うヤツを初めて見たぞ。それと、ヤツ以上に力のある行儀のいい傭兵はいないぞ」
クンツはいった。
「それなら、雇いながらみるとしよう。いいか?」
導師はサムエルにきいた。
「……はい。今は時間を自由に使えますから」
仮とはいえサムエルは護衛になった。
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