第153話 台風
朝は家庭教師に勉強習う。そして、一時間だけと魔法を自習する。そして、午後からはカリーヌのお宅に行って、無詠唱魔法の教師とダンスの生徒をする。だが、この時間は遊びの時間だ。四人一緒にトランプで遊んで終わるのがほとんどだ。
四時から騎士団の練習場でアドフルとエルトンを相手に模擬戦をする。魔法を放って二人の相手をしていた。
爪は切るほど生えそろったが、薄い。もう少し槍を持つには時間がかかるようだ。
日が落ちる前に帰って夕食を食べる。そして、その後は医学書を勉強する。ノートをとって頭に入れる。
僕にはスケジュールが詰まっていた。
「導師。何もしない時間が欲しいです」
「うん。それは、自分で作るしかない。自分が休むと決めた時間を作る。それは、お前の意識しだいでもある。無理やり作るしかない。……でも、寝る前の一時間ぐらい時間を取れるだろう? 医学書の件は何年もかかる。急ぐ必要はないぞ」
「一年後とか目標にしていないんですか?」
「いや。まだ、宰相と話している最中だ。新しい仕事だ。新しい役職を作らないとならない。それだけでも半年はかかる。それから、医師になる人材を募集して教育する。何年かかるかわからん」
僕は急ぎすぎたようだ。だが、医学書を理解する必要はある。それだけで、治癒や再生の魔法の力が変わるからだ。
「お前はまだ子供だ。急ぐ必要はない」
導師はほほ笑んだ。
「自分の仕事を減らしたいために、僕を巻き込んだと思っていますけど?」
僕は導師の目を見た。
「少しばかり手伝ってくれてもいいだろ。私には重荷なんだ」
導師の言い訳には疑問があった。
「導師なら、できると思いますが?」
「私も一人の人間だぞ。できることと、できないことぐらいある」
導師の取ってつけたようにいった。
導師を責めても意味がない。それはわかっている。だが、医学の知識は僕には必要なようだ。将来、治癒魔法使いとしての道があるからだ。
「まあ、いいですけど」
僕は許した。
「すまないな。今度、おいしいものでも食べにいこう」
導師のほほ笑みに、僕は何もいえなくなった。
爪が生えそろって、槍が握れると思う頃、嵐はやってくる。
父が三人を連れてゲートの魔法で屋敷にやって来た。
執事やメイドたちを導師は避難させた。
僕と導師は玄関から出た。正門に続く庭では門番と小競り合いをしている。
『よう。ドラゴンスレイヤーとかいわれて調子に乗ってると聞いた。……バカか?』
父はコールの魔術で挑発してきた。
『それは他人がいうことで、僕がいうことはないです。それぐらいわかりませんか?』
『ほう。お頭の方は少しは回るようだな。だが、本当の知識ではない。現実を理解しろ』
『なら、あなたが犯罪者になったのを理解してください。母が犯罪者と結婚していていたことになります。母の名誉を下げているのは、結婚相手だったのあなたですよ』
『お前が、そんなんだからオレはこうなった。力が必要だからな』
『力なら、傭兵ギルドに所属すれば鍛えてくれます。そんな当たり前のことができないんですか? 正攻法を取れないのは、頭が悪い証拠です。自分の弱さを棚上げしていわないでください』
『傭兵ギルドに夢を見ているようだな。あれはバカが所属するギルドだ。仕事をしても一割はギルドに取られる。それぐらいわからないのか?』
『ギルドなら当たり前でしょう? 商人ギルドでも同じだったはずです。忘れたのですか?』
『わかっているよ。だから、損をするようなギルドに頼らない。それぐらいわからないのか?』
『あなたが所属しているのは、王の反対派の貴族の集団です。利口な判断ではないでしょう? 後ろ盾の貴族はまずくなったら切り離すだけですよ。それがわからないぐらいバカになりましたか?』
『それができないぐらい入り込んでいる。オレはバカではない』
『バカな貴族を捕まえたようですね。では、そのバカな貴族と共に沈んでください』
『それができるのか?』
『やるか、やらないかだけですよ』
導師がコールの魔法でアドフルとエルトンを呼んでいた。
騎士団の術士と共に二人は家の中から現れた。
「よう。これからはオレたちが相手だ。シオン様の道を阻むなら消えろ」
エルトンは剣で指した。
『ふん。こんなガキを助ける大人がいるとはね。がっかりだ』
父は剣を振り上げた。
僕はブレイクブレットを動作発動で放った。
父は僕の魔法を無視して体で受け止める。だが、父は耐えた。そして、剣は天高く光る筋を作った。そして、そのまま僕たちの方に倒してきた。
「家を壊されたくない」
導師はそういうと、ドラゴンシールドで家の全面をおおった。
振り抜かれた光に筋は導師のドラゴンシールドで弾かれた。
そこに、エルトンとアドフルは駆けた。
父に
父は騎士の剣を受け止めていた。
父は商人だった。王直属の騎士団の剣を受け止められるとは思いもしなかった。
対魔法能力と剣士の技量が上がっている。
明らかにおかしい。こんな短期間で強くなるはずがない。
だが、二人の騎士を相手に生きている。二人は弱くはない。衛兵なら倒されている。だが、父は攻撃をいなしながら生きていた。
「シオン。見えるか? 後ろから魔力が注がれている」
導師はいった。
明らかにおかしい筋が父に伸びていた。
「はい。確認しました。ですが、供給元がわかりません」
「そうだな。あれがある限り、二人には殺しきれないだろう。再生の魔法で復元できるほど魔力は注がれている」
「ですが、父では耐えられないと思います。いつか限界が来るかと」
「消耗戦は歓迎しない。門番が死にそうだ」
「わかりました」
僕は杖を出した。そして、門番のもとに駆けた。
「何だと!」
父が驚いていた。
僕が父を無視するとは思わなかったようだ。
「相手はオレたちだ」
エルトンは父に剣を振るった。
僕は門番の二人のもとに走った。そして、ブレイクブレットの魔法で牽制をする。
三人は防御膜で受け止めた。しかし、一人は弱く弾かれた。残る二人にさらに力を上げたブレイクブレットを放つ。二人は防御膜に魔力を集中して耐えてた。
僕はハメるように範囲を大きくブレイクブレットを放つ。
左右に走ってもブレイクブレットの攻撃範囲と悟ったようだ。
防御膜とブレイクブレットの力比べになった。
ふと、気配が多くなった。
転移による移動だ。
探知の魔法で探ると知った気配だった。
「これからは王直属の騎士団が相手になる。死にたくないやつは剣を捨てろ!」
騎士団長の大声が聞こえた。
僕がブレイクブレットで足止めしている二人に、新たに現れた騎士が詰め寄った。
僕は騎士に任せて、父を見た。
父は二人に後れを取っている。アドフルとエルトンは長い付き合いで連係が取れたようだ。
父の剣を持つ右手が切れた。父はすぐに再生の魔法で形を戻そうとするが、次の剣が肩口から走った。
致命傷である。あれではいくら魔力を注がれようとも、生き残ることはできない。
王直属の騎士団が来て、襲撃者たちは無力になった。父の連れた剣士たちは捕まっている。二人が捕まって、一人は死んだようだ。地面に倒れているのを騎士たちは縛りもしない。
後は瀕死の父だった。だが、父は死ななかった。巨大な魔力で包まれたからだ。
魔力の塊である球体は、術士の魔術を弾いている。その中で、ゆっくりと天に昇って行く。
父の顔が視認できなくなると、西の方角に飛んで行った。
何が起きたのかわからない。
それは騎士団だけでなく、導師も一緒のようだ。天をにらんでいた。
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