第152話 結果

 疲れているのは情報商戦に関わっている人だけではないらしい。

 エルトンの後ろにいるアドフルは疲れた顔をしていた。

「何かあったのですか?」

 元気なエルトンにきいた。

「ええ。シオン様の母上様が、騎士団の装備のテストを手伝ってくれたんです。その時、アドフルが検証に選ばされて、魔力切れを起こしました」

 導師の行動が読めない。

「導師は何をしたんですか?」

「導師?」

「ええ。養子なので昔の呼び方が定着しています。導師はお母さんと呼びづらいです」

「そうですか。……母上は、騎士団の術士に公級魔術のドラゴンフォースで盾の耐久テストをしました。その時に、騎士団に配られた盾と、シオン様が作った盾とを比べました。その時、私ではなくアドフルが呼ばれました。総魔力量が低いからのようです」

「ええ。そうですね。エルトンさんは騎士にしては魔力量は多いですから」

「そうなんですか? ……まあ、それはいいとして、母上は術士にドラゴンフォースでの攻撃に耐えれるかを試しました」

 導師は無茶をしたようだ。盾が耐えられても、人の腕が耐えられるかは別だ。

「結果はわかっていると思いまいますが、シオン様の盾が壊れずに残りました。配られた盾では強度が低かったです。騎士が腕を骨折しました。ケガをした騎士は、母上が魔法で元通りに治しましたが……」

「でも、アドフルさんは骨折しなかったのですね?」

「ええ。知らぬうちに身体向上の魔術が上がっていたようです」

 アドフルを鍛えている人がいう言葉ではないが、力を伸ばす手腕は頼もしく思った。

「それで、結果を見て、シオン様の盾が配備されることになりました」

 エルトンはいった。

「それで、僕の魔法陣を申請したんですね」

「母上はわかっていたと?」

 エルトンには意外なようだ。

「たぶん。予想して先に手を打ったかと。まあ。導師には簡単な仕事みたいです」

「さすがですね。シオン様の母上なのがわかります」

「いえ。今は龍族からもらった本が医療の本なのです。それで、そちらの仕事が忙しいみたいです。なので、すぐに終わらすように考えていたと思います」

「ですが、騎士団長を納得させる手段と早さは感服しました」

「ええ。導師ですからね。僕にはできません」

「シオン様は母上が誇りなんですね」

 エルトンの言葉にとまどった。

 思ってもみない言葉だった。

 尊敬はしている。だが、自分のことのように考えているとは自覚してなかった。

「……そうですね。僕にはすぎた母です」

 僕はうれしくかった。


「騎士の腕を折ったと聞きました」

 夕食の席で導師にきいた。

「嫌味をいうなよ。騎士団みたいな体力系は体で覚える方が早いんだ」

「別に責めてないですよ。骨折程度なら治癒の魔法で治せます。それより、すぐに終わらせたと聞きました」

「まあな。考える余地を残さない。それも説得の仕方だ」

「なるほど。それで、医者の話はどうなりました? すぐにはできないと思いますが、重要と思います」

「ああ。それは宰相を相談した。今後、薬屋や術士から頭の良い人を集める。そして、本の内容を覚えさせて医療を確立させる」

「長い仕事になりそうですね?」

「ん? 他人事ではないぞ。お前の意見は必要だ。だから、あの本を全部覚えてもらう」

「え?」

 僕は開いた口がふさがらない。

 あの量の医学書を記憶するのは知能の高い人達だ。僕のように平均的な頭では理解も記憶もできない。その僕に意見を求められても答える自信はなかった。

「わからないところは私が教える。だが、前世の記憶が必要なところは、お前が教えることになる。本を熟読して覚えるように」

「無理です。僕の頭では理解できません」

 僕は泣きついた。

「これも公爵家の子の役目だ。あきらめてくれ」

 導師は真剣な顔を作っていった。

 導師は自分の仕事に僕を巻き込んだ。明らかに自分の仕事を減らしたいのがわかった。


 僕は夕食後の自由な時間で医学書に目を通す。難しくって頭に入らない。目が滑るだけだった。

「シオン様。失礼します」

 僕はノックの音と共に開く扉を見た。

「また、浮いて本を読んでいます。ダメと、怒られたでしょう?」

 メイドのノーラに怒られた。

「はーい」

 僕はベットの上から床に降りた。そして、念動力で浮いている本を読書台に戻した。

「ねえ。何で、ノックと共に開けるの? プライバシーがない」

 僕は抗議した。

「シオン様は基本的にだらしないのです。だから、家庭教師のいないところも見ないとなりません」

「それって、メイドの仕事なの?」

「はい。年長者として当然です」

 ノーラは胸を張っていった。

「もう少し、優しくってもいいと思う」

「ダメです。そういうところが甘いのです」

 僕はノーラに怒られてばかりだ。

「……ねえ。本格的に勉強するから紙をちょうだい」

「何枚必要ですか?」

「最低でも百枚。もっと必要になるかも知れないけど」

「多いですね」

「でも、それで、僕のやる気と直結する。紙がなければ導師との約束が果たせない」

「わかりました。調達します。まずは十枚ほどでよろしいですか?」

「うん。お願い」

「わかりました」

 ノーラはドアを閉じてさがった。

 僕にはノーラが何しに来たのかわからなかった。

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