第69話 知恵

 ひと騒動が終わった翌日に宰相に呼ばれた。

 理由は荒野にある卵型の遺物の話らしい。安全に処理して欲しいようだ。

 しかし、導師は難色を示した。安全に処分する方法がないからだ。

 解体はできない。そして、破壊するのが難しい。

 一番強い帝級魔術でも生き残るのだ。導師の求める安全はないらしい。

 だが、あのまま荒野に埋めて置くことはできない。対処が必要だった。

「仕方ないですね。龍族の長老に聞くしかないです」

 導師の案に宰相はうなずいた。


 宰相と日にちを決めて集まった。

 今までの傾向から龍族の行動は早い。即日に行動すると考えて宰相の空いている日を選んだ。

 宰相は家の応接室で紅茶を飲んでいる。準備はできていた。

 僕は出迎えの龍にコールの魔術を飛ばした。

『何だ? 急用か?』

『いえ。今回は知恵を貸して欲しいのです』

『それは長老と話したいということでいいか?』

『はい。お願いします』

『しばし、待て』

 コールは切れた。

 しばらく待っていると、コールの魔術が届いた。

『いつもの場所で待て。迎えに行く』

『わかりました』

 コールが切れた。

「導師。いつもの場所で待つとのことです」

 僕は応接室で隣に座っている導師にいった。

「わかった。正門までゲートを開こう」

「頼む」

 宰相は立ち上がった。

 導師のゲートの魔術で正門に着いた。しかし、衛兵に囲まれた。

 街中でのゲートの魔術は厳禁だからだ。理由は街への密入を防ぐためだ。

 城と街を囲む壁にはゲートや転移の魔術を弾くようにできている。しかし、導師や僕は外の荒野に行き来をしている。防壁はザルのようだ。

「宰相である。今回、龍族との話が合うため来た。道を開けてもらおう」

 宰相は衛兵にいった。

 衛兵は導師を見た。

「今、宰相がいった通りだ。通してくれ」

 導師の言葉に衛兵は武器を引いて道を開けた。

 衛兵は宰相の顔を知らないようだ。

 宰相は普段は城で仕事をしているのである。門番が顔を知る機会はないに等しいのだろう。

「衛兵に通達はしておいたのだが、通ってないのかな?」

 宰相はぼやいた。

「宰相の顔を知る衛兵は少ないですよ。普段、城で公務をしているんですから」

 導師は宰相の斜め後ろを歩きながらいった。

「だが、君は顔が知れている」

 宰相には納得していないようだ。

「シオンが衛兵と訓練していたので覚えられただけです。それに、ゲートでの移動なら、他の公爵でも止められますよ」

 導師は苦笑した。

「そうか。それよりも、来るのが早すぎたか?」

「龍はすぐに来ますよ。大柄ですが、行動は早いです」

「それなら、待つとしよう」

 宰相は満足そうにうなずいた。


 僕たちは出迎えの龍に運んでもらって浮島に来た。

 僕は長老に会おうと思い歩きだしたが止められた。

『長老は小さき子と、その母は許している。だが、お前には許しがない』

 出迎えの龍は宰相を止めた。

『今回は国の代表として来ている。長老と面会させてもらえんか?』

『しばし、待て』

 出迎えの龍は長老に指示を仰いでいるようだった。

 出迎えの龍は宰相を見る。

『長老の許しが出た。通って良し』

『感謝する』

 宰相はそういうと歩きだした。


 宰相を先頭に広間に着いた。

 宰相は驚いていた。

 何頭もの龍に囲まれているのだ。怖がらない人族はいないだろう。

『ようこそ。今回は相談があると聞いたのだが、少し違うようだな』

 長老は穏やかではないが、怒ってもいない。宰相という新たな客を警戒しているのかもしれない。

『初めまして。宰相をしているベランジェ・フォン・ボワデフルと申します。この度は知恵を拝借したくて尋ねました』

 宰相は貴族の礼をした。

『ふむ。小さき子も悩んでいると聞いている。何が問題なのだ?』

『旧時代の遺跡です。我々には理解できないほど高度な兵器なのです。私たちはこれを破壊することに決めました。そのために知恵を拝借したいのです』

 宰相は長老から目を離さずにいった。

『それなら、簡単だ。我々が使うブレスで消滅させればいい。小さき子は使えるぞ』

 宰相は驚いていた。

 宰相は僕を見た。

「できるのか?」

「はい。威力は龍族ほどではないですけど」

 僕は答えた。

『母は使えるようになったか?』

 長老は導師にいった。

『難しいですね。三回に一度は失敗します』

 導師は苦笑いを返した。

『頑張って欲しい。小さき子だけでなく、母にも期待しているのだから』

 長老は笑っているようだ。

『期待に答えられるように、精進します』

 導師は苦笑い返していた。

『私が見本を見せます』

 幼い龍が一歩前に出た。

『やめておけ。また、痛い目に会うぞ』

 そういう長老は笑っていた。

『あれから、練習しました。威力は上がっています』

 幼い龍は自信満々にいった。

 他の龍がガヤガヤと騒ぎ出した。

 笑う龍から、あおる龍。会議の場は笑いの場に変わった。

『小さき子よ。今回も頼む』

 長老にいわれた。

 僕はうなずいて幼い龍を見た。

 幼い龍は少し怯えるように引いた。だが、気を取り直して力をため始めた。

 僕も動作発動でドラゴンシールドの用意をする。ための時間に比例して威力は上がるからだ。

「がー」

 幼い龍はブレスを吐いた。

 僕はドラゴンシールドで防御する。もちろん、導師と宰相は僕の背後にいる。

 僕はブレスをシールドで受け止める。

 思ったよりブレスの攻撃は長かった。幼い龍は本当に練習したようだ。

 ブレスを吐き切った幼い龍は息を切らしている。そして、僕を見ると背中を見せた。

 僕はドラゴンブレスを動作発動で放った。

 それは幼い龍の尻に当たった。

 幼い龍は悶絶した。

「ぐおぉー」

 そんなうなり声が聞こえた。

 他の龍たちは笑っていた。

「いいのか? 攻撃して」

 宰相は心配そうに導師にいった。

「いつものやり取りです。気にしない方がいいですよ」

 導師の顔は笑っていた。

『今回も相手にしてくれて助かる。これにこりて、大人しくなればいいのだが、期待ができない。小さき子よ。また来てくれ』

 長老は微笑みながらいった。

『はい。今回はありがとうございました』

『うむ。また会おう』

 長老は話を締めた。

『お待ちください』

 宰相は焦りながらいった。

『まだ、何かあるのかな?』

『はい。いつもお世話になっています。そのお礼として、少しばかりですが、お納めください』

 宰相は空間魔術で箱を取り出した。そして、前に出した。

『開けていいかな?』

 長老は確認した。

『はい。確認してください』

 そういわれて長老は箱を念動力で開けた。

『ほう。素晴らしいな』

 長老は喜んでいた。

 中身が勝手に浮かんだ。

 他の龍たちが手を出したようだ。

 空中に宝石がきらめいていた。

 龍族は光る物を集める習性があると聞いていた。その話は本当のようだった。

『ありがたくいただく。また、何かあったら相談して欲しい』

『はい。この度はありがとうございました』

 宰相は頭を下げた。

『小さき子よ。また来るのを待っている』

『はい。また来ます』

 僕は答えた。

 そして、龍たちと別れて広場から去った。

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