第63話 生態

「かわいいー」

 カリーヌは僕の頭の上の聖霊を見て、目を輝かしていた。

「お人形ではないの?」

 レティシアの態度は冷静だった。

「好きで人形を頭に乗せて歩き回りません」

 僕はレティシアに抗議した。

 いつもの魔術とダンスの練習のためにジスラン宅に来たら、家長のジスランとその妻のロズリーヌに失笑されたのだ。

「触っていい? 触っていい?」

 カリーヌは聖霊にゆっくりと手を伸ばしていた。

『聖霊さん。触っていいですか?』

 僕は寝ている聖霊にコールの魔術できいた。

『……ん? いいよ。それより、お腹減った』

 聖霊はいつものように腹を減らせていた。

「聖霊さんは何を食べるの?」

 カリーヌは積極的だった。

「魔力だよ。でも、底なしだから、加減した方がいいよ」

 僕は糸のように魔力を聖霊に与えた。

 聖霊はそれを飲むように吸収していった。

 カリーヌも同じように魔力を手から出して、聖霊に与えていた。

「それより、何で聖霊と関わっているのよ」

 レティシアは責めるようにいわれた。

「僕だって、懐かれるとは思わなかった。その前にロボットから出てくるんだよ。理解できないよ」

 僕は望んで今のようなことになっていない。

「ねえねえ。名前は何ていうの?」

 カリーヌはまだ興奮している。よほど聖霊が気に入ったようだ。

『聖霊さんの名前は何ですか?』

 僕は聖霊にきいた。

『名前? なにそれ?』

 聖霊は自然現象の象徴だ。名前はないようだ。

「名前はないみたいですよ」

 僕はカリーヌにいった。

「だったら、クーちゃんでいい?」

 カリーヌは嬉しそうにいった。

「いやいや。ペットでないんだから」

 余りのことにレティシアは止めた。

 相手は格上の種族である。ペットになるのは人族の方だ。

「でも、名前がないと不便だよ」

 カリーヌはカリーヌで考えているようだ。

『名前がないと不便なので、『クー』でいいですか?』

 僕は聖霊にきいた。

『いいよー』

 聖霊は魔力を食べるのに集中していた。

「やった」

 カリーヌは喜んだ。

「クーちゃん。よろしくね」

 カリーヌは聖霊に微笑んだ。

 その日は聖霊に魔力を与えすぎて、カリーヌは魔力切れでダウンした。そのため、お茶を飲んで終わった。


 カリーヌ宅から城の詰所に行った。槍の訓練のためだ。

 詰所に来たら衛兵の全員に失笑された。

 聖霊族という上位の種族のため、あからさまに笑わない。それがますます不快にさせる。

 やはり、ゆるキャラは愛でるもので頭に乗せるものではなかった。

「それで、訓練はできるのか?」

 隊長のアドフルは笑いをかみ殺しながらいった。

「どいてもらいます。危ないですから」

 僕は聖霊を頭からどかそうとしたが離れない。

『聖霊さん。訓練をするので危険です。離れていてください』

 僕は聖霊にコールの魔術を飛ばした。

『お風呂?』

 お風呂の時はいつも離れてもらっている。そうでなければ、頭を洗えないからだ。

『いえ。槍の訓練です。剣と槍を打ち合うので当たる可能性があります。なので、離れていてもらえますか?』

 僕は頼んだ。

『わかったー』

 聖霊はいつものようにのん気だった。だが、素直に聞いてくれるとは思わなかった。

 僕は頭から聖霊を掴んで離すと近くの開いたイスの上に置いた。

「魔力を食べるので、余裕があるなら与えてください。喜びますから」

 僕は周りの衛兵にいった。

 そして、僕は槍を出してアドフルと対面した。

 何度も打ち合ていると、外野がうるさくなった。

「よそ見するな」

 そういってアドフルの木刀は僕の体にめり込んだ。

「隊長!」

 誰かの悲鳴のような声が聞こえた。

 僕は痛みをガマンしながら声の方を見る。聖霊が帯電していた。

『ダメ』

 僕はコールを飛ばした。しかし、聖霊から電撃が放たれた。

 アドフルはその電撃に当たった。身を震わせて倒れた。

『練習です。ですから、攻撃しないでください』

 僕は聖霊にコールの魔術を飛ばした。

『守ると約束した』

 聖霊は聖霊のルールに従ったようだ。

『今は練習です。多少のケガは覚悟しています。なので、ここでは攻撃しないでください。僕のためになりません』

『そうなの? それなら。見ている』

 聖霊は帯電するのをやめた。

 それを見て、衛兵たちは安堵していた。

 アドフルを様子を見る衛兵に目を向けた。

「治療を頼む」

 その衛兵にいわれた。

 僕はアドフルに近づいて治療の魔術で新陳代謝を加速させる。ダメージは重くない。すぐにアドフルの呼吸は普通になった。

 練習は打ち切られた。

 聖霊がここまで邪魔になるとは思いもしなかった。だが、捨てるという選択肢はない。なぜか、嫌いになれないからだ。

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