第54話 異常性

「やっと、見れたわ」

 カリーヌの教師兼生徒として僕は訪れていた。

 そして、練習前のお茶の時間でカリーヌは喜びに浸っていた。

 龍を見れたのが嬉しいようだ。

「私は龍を見れなかったわ」

 レティシアは反対に不満そうだ。

「正門に龍を見に行ったのですか?」

 僕はテラス席独特の外の空気を感じ、紅茶を飲みながらきいた。

「ええ。やっぱり、大きくってたくましかったわ」

 カリーヌは思い出しているようだ。

 妄想というか記憶に浸っている。

「シオン。今度来たら私にコールを送りなさい」

 レティシアは僕にいった。

「いつ来るかわからなんですよ。それに僕はコールを送っても、馬車より早く正門にいきますよ」

「それでもいいわ。帰ってきたところを見るから」

「それなら、コールを送る必要がないですよ。貴族なら龍族が来た時に警鐘が鳴るんですから」

 僕は緊急事態の時にいらぬ仕事を増やしたくなかった。

 何より、一秒でも早く動かなければならないからだ。僕と導師がすぐに行動するのは、宰相に実態を見せられないからだ。

「そうね。でも、何度も見逃しているのよ。いつもお稽古や勉強の最中。時間を選んで欲しいわ」

「その内、見れますよ。まだ、付き合いは続きますから」

 僕は苦しいが笑ってみせた。

「でも、龍族が危険視する魔道具って、何なの?」

 カリーヌにきかれた。

「魔力をためる道具です。本来、魔力は流れて留まるものではありません。それに反して留めると大きな爆発を起こすようです」

「ふーん。それをシオンが作るんだ?」

「まあ、龍族の未来予知ではそうなっています。ですが、まだ僕は魔道具を作れません。今、家庭教師から習っている最中ですから」

「そうなの? 龍族って意外とせっかちなのね」

 レティシアはいった。

「龍族は長寿ですから、十年は短いみたいです。だから、すぐにできる感覚かと」

「なるほどねー。ところで、浮島って、どんなところなの?」

 カリーヌにきかれた。

「浮遊石の結晶が草木みたいに生えているのが特徴ですね。その他は地上と変わらないかと」

「そうなんだ。でも、一度は行ってみたいわ」

 カリーヌは目を輝かした。

「観光には行けませんよ。龍族と有翼族の縄張りですから。観光に来ていいかきいたら、断れましたし」

「そっか。なら、誰もいない浮島はないの?」

「それは聞いたことはありません。でも、あってもいいと思いますが、龍族に確認しないと危ないです。龍族でも攻撃的な龍はいますから」

「それなら、龍族は危ない魔道具を開発するシオンを消そうとしないの?」

 レティシアがきいてきた。

「幼い龍ですが、いますよ。何回か、攻撃し合ってます」

「えっ?」

 二人が驚いて硬直した。

「僕を消した方が早いといって攻撃されます。今のところ、返り討ちにできていますが……」

 僕は思い出すとため息しか出ない。

 僕は暖かい紅茶を飲んでリラックスすることに意識を向けた。

「龍を相手にケンカができるの?」

 カリーヌにきかれた。

「三十年ほどの幼い龍です。知力も力も幼いですよ。この前行った時に、やっと龍の攻撃であるブレスを習得したぐらいです。まあ、そのブレスで消されそうになりましたが」

「ブレスって、龍の咆哮ほうこうといわれる攻撃よね。それって防げるの?」

 レティシアにきかれた。

「ええ。長老に教えてもらいました。魔力を四大属性に同時変換するとブレスと同じことができます。それを使って盾を作って防ぎました。まあ、受け止め切れたので、ブレスで反撃しました。龍族の長老は笑っていましたよ」

「えっ?」

 二人が驚いて、また硬直した。

 二人の沈黙に紅茶から目を離して二人を見た。

「……ちょっと待ってね。ツッコみどころが多すぎて整理するわ。……まず、命の危険はあったのは、確か?」

 カリーヌはいった。

「ええ。でも、長老は未来視で死なないと確信しているようなのです」

「うん。でも、他の龍は止めないの?」

「止めませんね。笑って見ています。じゃれ合っているように見えるみたいです」

「でも、今回は龍の咆哮で攻撃されたんでしょ?」

「ええ。そうですよ」

 僕はカリーヌが何を気にしているのかわからなかった。

「それで、長老にブレスと防ぎ方を教えてもらった」

「はい。そうです」

「それで、すぐにできるような魔術なの?」

「しないと死んでいましたから、必死でしたよ。四大属性を同時変換するんですから」

「でも、シオンはできたのよね」

「ええ。できないと導師と一緒に消えています」

「でも、できたんだ」

「ええ。長老の未来視の通りらしいです」

「うん。そろそろ、シオンは自分のデタラメさに気が付いてもいいと思うんだ」

 そういうカリーヌの声は低く怖かった。

「まず、龍の咆哮を使える龍族以外の種族はいないから」

 カリーヌは確かめるようにいった。

「そうなんですか? 長老は簡単にいっていましたよ」

 僕は答えた。

「四大属性に同時変換なんて人族ではできた人がいないから」

「そういえば、導師は四つは難しいといっていましたね。でも、二つなら簡単にできていましたよ」

「普通は無理。それにランプレヒト公爵は天才で通っているのよ。知らなかった?」

「そうなんですか? 初めて聞きました」

 変わり者と聞いている理由は天才ゆえの偏りのようだ。

「その天才でも難しいのよ。シオンはデタラメよ」

「そういわれましても、できたものはできましたから……」

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