第47話 執事

 三日後、執事が来た。名前はロドリグ・ブノワといって、スーツを着こなしている。

 執事といったら、こんなおじさんと思うような真面目そうで、身なりにスキはなかった。だが、少し太っているせいか印象は丸い性格と思えた。

「初めまして、ロドリグ・ブノワと申します。公爵家に雇われるのは光栄であります。それにふさわしくなるように精進していく所存です」

 僕は少し堅苦しいと感じた。

 だが、こういう人が使用人を束ねるのだろう。自分にも他人にも厳しくないとならないようだ。

 夕食は皆で食べた。しかし、執事だけは頑なに拒んだ。そして、食事風景を見ていた。

「急ですまない。みんなには私のわがままに振り回せなくなった。今後は私個人でなく公爵家に仕えて欲しい。だから、この食事が最後となる。すまんな」

 導師は食事の席で皆に謝った。

「いえ。今までがお優しかったんです。嬉しかったのです」

 ノーラは答えた。

「ありがとう」

 導師は寂しそうに微笑んだ。


 僕は家庭教師から学ぶ日々が続いていた。

 カリーヌの魔術と僕のダンスの練習ために、ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵の家を訪れた。

 カリーヌはどこから聞いたのかわからないが、遺跡の件を知っていた。

「今度の遺跡は大きいそうなの。滅んだ前の遺跡らしいわよ」

 カリーヌは興奮していた。

「カリーヌ様は詳しいんですか?」

「ううん。お父様から聞き知ったぐらい。シオンもランプレヒト公爵と一緒に行くと聞いたわ」

 もう知っている。カリーヌの父であるジスランの情報網は侮れない。

「はい。導師が呼ばれました」

「でも、変なのよね。ランプレヒト公爵は公爵なのよ。そんな危ない仕事をするはずがないのに」

「そういえば、そうですね。でも、導師は受けたようですよ。理由は聞いてませんが」

「ふーん。ランプレヒト公爵の考えはわからないわ。何で受けたのかしら?」

 カリーヌは答えの出ない疑問に首をかしげた。

「僕にもわかりません」

 僕は紅茶をすすった。

「二人とも、仕事の話なんかしないで遊びましょうよ。シオンのいる時間は短いのよ」

 レティシアはいった。

「そう思うなら、ダンスの練習を手伝ってよ。私だけでは練習にならないわ。リズムが違う人とも合わせないとならないのよ」

 カリーヌはレティシアにいった。

「わかっているわよ。なら、来週から手伝ってあげるわ」

「本当? 助かるわ」

 カリーヌは喜んでいた。

 僕はよくわからず二人を見ているだけだった。


 執事が来てから家の様子が変わった。

 食事は導師と僕の二人だけの食事になった。そして、それをメイドの二人が見守った。

 家庭教師も一緒の食卓につくこともなく、他の部屋で食事をしているようだ。

 何か家の中の秩序が整い出した。昔みたいに気軽に厨房に入り込むのも気が引ける。

 家の中は風が吹くような寂しさがあった。

 だが、慣れなければならないようだ。これが、本来ある貴族の家だから。


 調査に行くための荷物を導師にきいた。すると、導師が執事と共に必要な物を手配したらしい。なので、執事が頼んだ商人の持ってくる荷物を持てばいいだけだった。

 僕はカリーヌから借りている冒険者の本の内容を思い出す。しかし、必要な道具は物語りの中では詳しく出てこない。なので、荷物の量や種類はわからなかった。

 後日、執事が頼んでいた道具が届いた。

 玄関先に商人が置いて行った荷車がある。

 導師はその荷物を選別する。そして、僕は渡された荷物を空間魔術の倉庫に放り込んだ。

 その光景に執事は驚いていた。

 食料以外は全て倉庫に消えた。

 執事には普通の光景ではないようだ。口を開けて驚いている。

「後は食料か。ロドリグ。凍らせておいてくれ。後で回収する」

 導師は荷物を片付けると執事に命令した。 

「……はいっ。わかりました」

 我に返った執事の挙動は変だった。


 約束の日になると、導師と僕。メイドのノーラの三人で出発した。

 家のことは全て執事に任せたようだ。

 門番を一人御者にして、馬車で正門を通って城下町を出る。そして、待っていた魔術師の作ったゲートに入った。

 僕は他人のゲートに入るのは怖い。一度の失敗でどこに飛ばされるのかわからないからだ。

 僕はゲートを通る一瞬は目を閉じていた。

「ほう。未開発地区にしては、人が多いな」

 導師の関心する声が聞こえた。

 僕は目を開けて窓の外を見る。そこは活気あふれていた。

 何台もの荷馬車が止まり、荷物を降ろしていた。

 そして、大型テントが何十も建っている。そして、人が荷物を持って出入りしていた。

 大規模キャンプになると聞いていたが、ここまで大きくなるとは思いもしなかった。

「導師様。一週間で終わるのですか?」

 ノーラは心配していた。

「わからん。途中で、補給に戻るかもしれん。まあ、一週間は覚悟してくれ」

「はい。わかりました」

 馬車は止まった。そして、馬車のドアがノックされた。

「何の用か?」

 導師はいった。

「ラーズニチュカ伯爵の使いです。逗留場所は確保してあるので付いて来ていただけませんか?」

 導師はドアを開けた。

「どこになる?」

 導師は顔を見せた男にいった。

「あちらです。伯爵の横になりますがよろしいですか?」

「他に貴族はいるか?」

「男爵様が数人ほど」

「わかった。そこに行く。御者に伝えてくれ」

「わかりました」

 使いの男は馬車のドアをゆっくりと表から閉じた。

 僕は貴族の大変さを感じる。どこにテントを張るかでもめるからだ。

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