第41話 浮遊魔法

 この世界では魔剣があるらしい。どういう経緯で魔剣になるのかわからない。だが、興味はあった。

 ジスランの話ではオークションで出されるらしい。見るだけも価値はあるらしかった。

「導師。魔剣が見たいです」

 僕は導師にお願いした。

 だが、導師は渋い顔をしている。嫌な思い出でもあるのかわからない。

「今回、出品される魔剣は血濡れの魔剣といわれていて、触るだけで災難が起きるとウワサされているんだ。もちろん、持ち主は死んでいる。騎士に任じた部下に殺されたらしい。だから、無駄金を払って見に行く必要はない」

「そうなんですか? でも、魔剣とか聖剣とか見てみたいです」

「聖剣なら騎士団長が持っている。私の名で見せてもらえるように手配をしようか?」

「お願いします」

 僕は間を置かずにお願いした。

「……まあ、もったいぶるような性格ではないから見せてくれるだろう。だが、失礼なことをするなよ。王直属の騎士だ。身分は私と同じだと思え」

「はい」

 僕は勢いよく返事をした。

 王直属の騎士だ。王都から逃げることはない。だから、後はその時を待つだけだった。


 僕はジスランに頼まれているスロットを作るために魔道具を勉強していた。必要な知識は本にある。だが、形にするのは難しかった。

 そもそも、スロットは知識として知っているが、内部構造など一般人だった僕は知らない。そのために、一から考えて作るしかなかった。

「失礼します」

 家庭教師のアデーレ・カペルマンが書庫の扉を開けた。

「きゃー!」

 僕を見ると悲鳴を上げた。

 ドタドタと家の中がうるさくなった。

 もう一人の家庭教師のギード・ビアホフが書庫に現れた。

 そして、僕を見ると驚いて固まっていた。

 固まる理由はわからない。

 次に来たノーラは驚くと同時に怒った。

「だらしないことをしてはダメですよ」

 僕は浮遊して横になって本を読んでいる。寝っ転がる場所がないからだ。だから、魔力は消費するが浮いていた。

「えー。本ぐらい横になって読みたい」

「ダメです」

 ノーラはほほを膨らませて怒っていた。

 僕は宙から降り立った。

「何があった?」

 導師が来た。

「導師様。シオン君が宙に浮いて、寝っ転がって本を読んでいたんです」

 ノーラはまだ怒っているようだった。

「そうなのか?」

「……はい」

 僕は怒られるのを覚悟してうなずいた。

「浮遊の魔術はないはずだが?」

 導師の言葉に疑問が浮かんだ。

「そうなんですか? 探すのが面倒なので、スケートボードの浮遊の魔道具をマネしました」

「なぜ、できる? あれは浮遊石に魔力を流し込んで浮くはずだ」

「んー……。僕が一番最初に覚えた魔術は水道の魔道具の魔術です。だから、ですかね?」

 導師は頭を抱えた。

「デタラメなのは知っていたが、ここまでとはな……」

 導師も驚いていた。

「でも、有翼族は翼でなく魔術で移動していましたよ。だから、浮遊の魔術はあると思います」

「それは人族と有翼族の違いを知らんからいえるんだ」

 僕はそういうものかと思いながらノーラを見た。

 唯一、驚いていないのはノーラだけだった。下手に魔術を知らないので驚かないようだった。


 僕は導師の書斎に連れて行かれた。家庭教師の二人はノーラに任せたようだ。

「シオン。動作による魔術の短縮と共に、浮遊の魔術を詠唱でできるようにしてくれ。お前には時間がないのはわかるが頼む」

 導師はいいにくそうだった。

「動作の方はできていますよ。でも、詠唱化は難しいですね。コツとかありますか?」

「無詠唱での魔力の流れを感じるのと一緒だ。魔力の流れを感じながら、そのように流れるように言葉を紡ぐ。そのためには何度も言葉を書いては消す。これを繰り返さないとならない。だから、根気と時間が必要になる」

 僕は仕事量が増えたのが嫌になった。

 動作による魔術の短縮は終わっている。だが、ジスランに頼まれたスロットの件と、浮遊の魔術の詠唱化は、二つとも時間がかかる。ただでさえ、貴族の礼儀作法の学びで時間がない。僕の許容量を越えていると感じた。

「ジスランの依頼は後回しでいい。私は魔道具の作り方を教えていない。だから、魔道具の作り方を一から教える。だが、詠唱化は術者の感覚がものをいう。だから、浮遊の魔法を優先してくれ」

「ジスランさんのは、すぐに必要では?」

「気にするな。本来なら、ジスランが自分で考えてやる仕事だ。お前が責任を感じる必要はない。それにジスランの事業は上り調子だ。急いでさらに押し上げる必要はない。それにな、無駄に金が入ったようで、冒険者を雇って新しい未開発地区に送り出したよ」

 僕はそれをきいて安心した。冒険者に金を払うようなら懐に余裕があるということだ。

 冒険者が持ち運んでくるのは、出した金より少ない。それに娘のカリーヌは冒険者に投資するのは嫌がっていた。娘の反対を押しのけて投資しているところを見ると、お金にはかなり余裕があるようだ。

「わかりました。浮遊の魔術を率先します」

「すまないな。お前に負担をかけて」

「いえ。それより、動作による魔術の短縮化の結果を見てもらえませんか? 仕事はすぐに片づけたいです」

「ああ。早速、荒野に行こう。家庭教師が立ち直る前にな」

 僕と導師は書斎から転移した。

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