第38話 貴族
後日、レティシアの夫であるケヴィン・ディ・ローランサンのお宅に伺った。
今回は導師も同行している。母であるアルメルとは友人らしい。
導師の機嫌は良いようだった。
玄関でアルメルとケヴィンの二人に迎えられた。待ちわびていたらしい。
「やあ。邪魔するよ」
導師は簡単なあいさつをした。
僕は貴族式の礼をした。
「シオン。何してるんだ?」
導師は貴族であることを忘れたらしい。
「ちゃんとしているのよ。この家に来るのも、主人に会うのも初めてだから」
アルメルはかばってくれた。
「ああ。そうだったな」
導師は慣れた家のようだ。
「シオン君。庭のテラスに娘もカリーヌちゃんもいるわ」
アルメルがメイドを呼んで案内させた。
僕は導師と別れてメイドの後に付いていった。
「こちらになります」
僕はテラスに出た。
そこにはカリーヌとレティシアがいた。
「遅いわ」
カリーヌは待ちわびていたらしい。
「すみません。導師に連れてきてもらったので」
「それなら、仕方ないわね。では、早速、やるわ」
カリーヌはいき込んでいた。
「何をするの?」
レティシアはわからないようだった。
「トランプよ。カードゲーム。色々な遊び方があるわ」
「よくわからないわ」
レティシアは困った顔をした。
「簡単なゲームからするから心配ないわ。それに、製作者はここにいるから」
「製作者?」
「ええ。シオンが作ったの。面白いわよ」
カリーヌはポシェットからトランプを出した。
その後は紅茶を飲みながら、ババ抜きとか大富豪をして過ごした。
「ところで、レティシア様は何で貴族が嫌いなんですか?」
僕は自然ときいていた。
「貴族なのにきくの?」
「ごめんなさい。僕は貴族の実感がないですから」
「ふーん。……まあ、いいわ。教えてあげる。婚約者が決まっているのよ。私は自由に恋愛をしたいの」
今年十歳になるレティシアはいった。
僕は前世でもそんなことをいう女の子は知らない。もちろん男もだ。
早熟だなーと感心するも、解決策はない。貴族に生まれた運命であるからだ。
「それは貴族には無理ですね。でも、婚約者より身分の高い相手なら許されるのでは?」
「でも、お父様は公爵よ。だから、同じ公爵しかいないの。それにいい男はいなかったわ」
この歳で恋愛相談されるとは思わなかった。それに、恋愛は前世でも空の向こうの話だった。
「それは難しいですね。カリーヌ様はレティシア様に相応しい男の子を知っていますか?」
僕は逃げるようにカリーヌに話を振った。
「それはない。ない。……あ、ごめん。ちょっと焦った」
カリーヌが何に焦ったのかわからない。だが、考え込んでいたカリーヌは答えを持っていないようだ。
「でしょう……。私には殿方を選ぶ選択はないのよ」
レティシアはため息をついていた。
年齢が十歳にならない子供の話とは思えなかった。
「レティシア様が自由恋愛をしたいそうなんですが、貴族にできますか?」
僕は帰りの馬車の中で導師に尋ねた。
「貴族には無理だな。その子は現実を見た方がいい。だが、爵位を持つ他の人族なら結婚もできるだろう。跡取りではないからな」
「そうですか。今度会ったら話してみます」
「深入りするなよ。婚約者に恨まれる可能性がある。それに他人の恋愛に手を出すのはヤボだ」
導師はそういっていた。
僕に家庭教師がついた。
導師の意向である。貴族らしく礼儀作法を覚えないとならないようだ。
ノーラはメイドとして一緒の食卓に着くことはなくなった。そして、ノーラはメイドとして僕たちの食事を眺めていた。
僕はなけなしの記憶に頼りながら食事をする。ナイフとホークを使う。迷ったら、家庭教師にきいた。
家庭教師のアデーレ・カペルマンは驚いていた。わからなくなるときいてくる生徒は少ないようだ。
もう一人、家庭教師がいる。こちらは教育に力を注いでいた。
ギード・ビアホフの指示の下、言語や数学を学んだ。
前世の記憶もあり、二人の家庭教師は怒られることはなかった。
三時になると家を出る。二人の家庭教師に止められた。
まだ、勉強は残っているらしい。だが、槍術は二人では教えることができない。
僕は導師の許可をもらって城の詰所に向かった。
「男爵様。ようこそお出でくださいました」
アドフルが片ひざを着いていった。
「気持ち悪いです。何か失敗したんですか?」
僕は不穏なものを感じた。
「男爵様。ちょっとこちらへ」
アドフルに詰所の中に入れられた。
「お前は男爵だ。オレらより偉い。だから、男爵に無礼を働いたら、オレたちの首が飛ぶ。それを理解してくれ」
ここでも、貴族になった問題が出ていた。
「わかりました。でも、手加減はしてくれないんでしょ?」
「もちろん。私たちが教えているのに弱かったら問題だからな。騎士の名前が泣く」
男爵になっても稽古でボロボロにされるのは変わらないようだ。
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