第32話 日常
翌日からはカリーヌの家庭教師を再開した。
何かしていないと、気が滅入るからだ。
だが、城に槍の稽古には行っていない。まだ、アドフルたちは盗賊の捜索で忙しいからだ。
カリーヌの騎士に守られて屋敷に行く。
僕は術士として情けないばかりだった。
一人前に認められたと思っていたが実情は違う。まだまだ、子供で保護される対象だった。
隣にいる騎士のように民草を守る人間には成れていなかった。
「騎士さん。術士って弱いんですか?」
僕は騎士にきいた。
「ん? まあ……、世間ではそうなっている。術士といえば魔術師だ。遠くから攻撃する印象が強い。だから、弓兵と変わらない。それに魔術師は頭で勝負する。戦略や戦術とかな。だから、強い術士は滅多に聞かないな」
「強い魔術師っていないんですか?」
「そうだなー。術士にはいないな。その代り、傭兵に多い。二つ名を持つ魔術師は強いと思えばいい。後、冒険者に数名かな」
「冒険者? そんなギルドがあるのですか?」
「知らないのか? 冒険者といえば冒険者ギルドがあるぞ」
「詳しく教えてくれますか?」
「詳しくはないから、聞き知った話ぐらいだ」
「それでもいいです」
僕はその話に食らいついた。
「おう……。冒険者には二つある。一つは何でも屋だ。誰もやりたがらない仕事をする。下水の掃除から屋根の修理。特別な能力がなくてもできる仕事をする。もう一つは本当の冒険者だ。未知の区域に入り薬草や鉱石、特殊な生物を発見し、必要なら持ってくる。こっちが本来ある冒険者ギルドの姿だ。だが、何でも屋という印象が強いな。本物の冒険家は少ないから。パトロンである貴族に金をもらって冒険する。だから、貴族にコネがあるヤツしか成れないみたいだ」
「他の種族に会ったりするんですか?」
「それは当たり前のようだ。人族と犬猿の中である魔族の言語を話すヤツもいるらしい」
僕の想像は膨らむ。
神霊族、魔神族、聖霊族の滅多に見れない種族。それに獣人族に巨人族など知らない種族を見たかった。
「お前さんは術士だ。それに後見人は公爵。冒険なんてしなくても生きていけるよ」
「でも、興味はあります」
「それは危険と隣り合わせだぞ。せっかく爵位をもらったんだ。捨てるのは任命した王に失礼だぞ」
「ああ。そうでした。でも、冒険って惹かれませんか?」
「気持ちはわかる。だが、せっかく騎士に成れたんだ。文句はないね」
さらに騎士に冒険者の話を聞いていると、カリーヌの屋敷に着いた。
カリーヌに冒険者の話をきいた。
カリーヌは嫌そうな顔をした。
「冒険者ってウソつきばかりよ。金をもらっても二度と顔を出さない。逃げたのか、死んだのかわからないけど、金の無駄よ」
カリーヌの父であるジスランは投資先として見ていないようだった。
出す金と戻ってくる金のバランスが悪いらしい。一攫千金になるような話はないようだ。
だが、物好きは金を出すらしい。知らない土地の生物を飼うことは一種のステータスになるようだ。
しかし、話は面白いらしい。一冊の本を渡された。この本は冒険の話らしい。出版された数も少ないので、貴重だが面白いとカリーヌはほめていた。
「でも、本の中身を本気にしてはダメよ。キレイごとしか書いてないから。まあ、自分の恥を書く人はいないわね」
そういいながらも、カリーヌにはお勧めらしい。
帰ってから寝る前に読もうと思った。
「それより、今日は日が落ちる前まではいられるでしょう? お母さまがカードゲームをしたいといっているの。だから、付き合って」
夕方のアドフルとの稽古はない。付き合う時間はあった。
「はい。ですが、カードはあるんですか? 僕の持っていたカードはお父様が持っていきましたし」
「それなら、大丈夫よ。昨日の帰りに職人に頼んで、今朝、見本をもらったから」
僕はジスランの行動の早さに感心した。
「本気で売るようですね。売れますかね?」
「お父様は売ってみせる気満々よ。期待してもいいと思うわ」
この日のカリーヌはやる気があり、無詠唱魔術の練習は早くに始まり早くに終わった。
「誰よ。このラインを止めているの」
カリーヌの母であるロズリーヌはいった。
七並べで出せる場所もなくパスは使い切っていた。
「私の負け」
ロズリーヌは手の中のカードを場に並べた。
「やった」
カリーヌは手の中からカードを一枚出して並べる。
通せんぼをしていたのはカリーヌだった。
「カリーヌのいじわる」
ロズリーヌはすねたようにいった。
「これは真剣勝負。お母様にだって手加減しないわ」
カリーヌは楽しそうだった。
テラスに続くドアが開いた。
「やあ。見本はどうかね?」
家長であるジスランが現れた。
「いい出来だと思います。乱暴に扱っても柄がかすれませんし、折れにくいです」
僕は答えた。
「うん。わかってくれてうれしいよ。庶民が使うから安くて頑丈にしてもらった。もちろん、賭博でも使うからね。耐久性がないと困る」
賭博の件はわからない。だが、貴族相手にはこのカードゲームは簡素すぎた。貴族は貴族らしく絵柄を見る。それは美術品を見るような目で見るからだ。しかし、今回のカードは簡素だった。貴族が見向きもしないのはわかっていた。だが、わかりやすい上に覚えやすい。取っつきやすいといえる。だから、トランプは平民に合うと思った。何より、前世では当たり前のように存在していたのだ。下手なことをしなければ売れると思う。
「それで、今は何のゲームをしているんだい?」
「七並べよ。お父様もしよう?」
カリーヌは誘った。
「もちろん。シオン君には遊び方を教えて欲しいからね」
ジスランも混ざり、お茶を飲みながら遊戯で午後を過ごした。
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