第27話 術士

 後日、正式にカリーヌの魔術の家庭教師になった。

 これで、午後は家庭教師と槍の修業で埋められた。そのため、魔術の研究の時間が少なくなった。本来なら、魔道具の術式を覚えたかった。

「貴族のたしなみと思いな。貴族同士の付き合いをおろそかにするんではないよ」

 導師はそんなことをいった。

 導師の方が貴族の付き合いを軽んじている気がする。だが、それは言葉になることはなかった。


「ねえねえ。術士になりたかったの?」

 庭のテラスの席でカリーヌにきかれた。

「いえ、傭兵になるだろうと漠然ばくぜんと思っていました」

 僕は答えた。

 僕は紅茶を飲んで、クッキーをかじった。

「そうなの? あれだけ、魔術が使えるのに?」

「元々、僕に魔術を教えてくれたのは傭兵をしている人です。だから、傭兵になると思っていました」

「貴族より、傭兵の方が強いの?」

「さあ? ただ、魔術の師は優秀でした。無詠唱で魔術を使うのは当たり前みたいでしたから」

「へー。だから、シオンも使えるのね」

「ええ。そうだと思います。カリーヌ様の魔術の師は無詠唱を使わないんですか?」

「そうなのよ。そればかりか、呪文を正しく覚えろとうるさいのよ。無詠唱があるのを知っているから、そんな努力は無駄とわかるのに」

「それで、無詠唱にこだわっていたんですか?」

「ええ。だから、シオンが来てうれしくなったの。私の考えは間違っていなかったと」

 カリーヌはカリーヌらしい苦労をしていたようだ。

 だが、練習が始まるまでは長い。

 なぜか、お茶を飲んでくつろぐ時間をもうけないと、やる気にならないらしい。

 やる気になると集中力は高いのだが、それまでの時間が長かった。

 僕は貴族のたしなみと思ってガマンした。


 カリーヌの魔術の練習を終えると、城の詰所に行った。

「最近、貴族の魔術の先生をしているときいている。槍術はやめたのか?」

 アドフルにきかれた。

 アドフルの顔は怖かった。

「導師の付き合いの延長です。断れなかったんです」

「まあ、相手は公爵だ。そんな時もあるだろう。だが、練習の時間が短くする気はない。わかっているな?」

 どこでこんな情報が漏れたのだろう? 公爵の家庭の事情が騎士にもれていいのか考えものだ。

「相手の公爵にも許可は頂いています」

 僕は答えた。

「なら、いい」

 いつものように徹底的にしごかれる毎日は続いた。

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