第24話 式典
ノーラの頑張りで式典に必要な服や道具は間に合った。
式典は城の謁見の間で厳かに進んだ。
王がひざを着けた僕の肩に持った杖を当てる。そして、決まり文句を並べる。
「我、汝を術士に任命す。謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、民を守る盾となれ」
王は威厳ある声でいった。
「はい。誓います」
僕はいった。
「うむ。その誓いを忘れずに
王に杖を渡された。
杖を渡されると拍手が起こった。
王は自分の玉座に戻って座った。
僕は一礼して下がった。
宰相が前に出る。
「ここに一人の術士が誕生した。皆は彼を導いて欲しい」
再度、拍手が起きて式典は終わった。
式典が終わると
貴族は祝宴を開く理由があると集まるようだ。
導師はグラスを持ちながら
術士である僕は導師の後に付いて回って、偉い貴族にあいさつしていた。
導師には親しい貴族はいる。僕が思ったより数は多かった。
「この歳で術士か。息子がすねる理由がわかるよ」
導師と同じ年らしい聡明そうな男はいった。
導師とは知り合いらしい。導師に向ける目は、力強い上に優しさが混じっていた。
「こいつは特別だ。それに理由が理由だ。本当なら蹴ってもいい話だ」
導師は答えた。
「そういわない。この子が傷つくよ」
「シオンなら問題ない。元から貴族になろうとは思っていないからな」
「まあ、この歳で貴族になろうとか考えないね。僕なんて家庭教師からどう逃げるか考えていたね」
男は笑った。
「まあ、貴族なんて、生まれた家で決まるものだ。選ぶ方が無理なのさ」
導師は苦笑いをした。
「否定はしないよ。平民と貴族。どうあがこうとも生まれという隔たりがある。だが、優秀かは別なんだよね」
「まあ、そういうヤツは召し上げればいいだけだ。貴族社会である時点であきらめている」
「本当にそうかい?」
「違うように見えるかね。これでも貴族社会に染まっていると思っているよ」
「なら、彼は召し上げたのかい?」
男は僕を見た。
「いや。勝手になった。本当は下男として普通の生活をして欲しかったよ」
導師はため息交じりにいった。
「可愛がっているようだね。でも、君らしくない。心変わりでもしたかい?」
「成長したといってくれ。私は冷徹な人間ではないと思っているよ」
「そうだね。前よりトゲがなくなった。話しやすくなったよ」
男は優し気に微笑んだ。
導師は男の微笑みに不快な顔をする。
「ふん。変わったのはわかるが、それほどではない。相変わらず他の貴族には嫌われているよ」
「まあ、貴族は能力より血統にしがみ付いているからね。君とは正反対だから気になるのさ。それに本当に嫌っているのなら無視をしている」
「そうだな。私を視界に入れない貴族はいる。だけど、お前も私と似たようなものだろう?」
「否定はしないよ。でも、貴族社会に染まる努力はしているよ」
「そんなことをいっている時点で染まっていない。普通の貴族ならそんなことを気にしないからな」
「まあ、そうだね。それより、この子を僕の娘の家庭教師にできないかい? 無詠唱魔法の先生として」
「本気か? 私の記憶ではシオンより年上だろう? それにお嬢様の相手をできるとは思えないよ」
「普通ならそうなんだけど、手のかかる子でね。無駄に頭が良くって手を焼いている」
「娘の自慢かい? それなら、お断りだ」
「いや、家庭教師が次々と辞めていくんだ。だから、年の近い子なら適任かと思ったんだ。助けると思って力を貸して欲しい」
「何を企んでいる?」
導師の声に力が入っていた。
男を警戒したようだ。
「ちょっとしたショック療法をしてもらおうと思っただけ。この子を見れば、自分が知っている世界が狭いと理解できると思ってね」
「シオンは貴族のあいさつどころか、コミュニケーションが苦手だ。お前の話では役に立つどころか逆に傷つく。だから、この話はなしだ」
「その子を箱入り娘にする気かい?」
「娘ではないが、外に出すのはかまわない。しかし、貴族相手には慎重にならざるを得ない。だから、もう少し貴族というものを知ってからにして欲しい」
「なら、遊び相手では、どうかな? 年下の男の子はいないから」
「息子はどうした? 確か、娘とは年の離れた兄がいただろう? それも双子が」
「ああ。でも、歳が離れているからか、娘に甘いんだ。二人して甘やかしている。なので、期待できない」
「そうか……。だが、貴族としての教育ができてからだな。まだ、目を離せない」
「なら、私の方で教育しよう。そうすれば君は研究に打ち込める」
「今は間に合っているよ。……だが、遊びに行くのもいいだろう。シオンには友達がいないからな」
「なら、決まりだ。近い内に二人で遊びに来てくれ」
「ああ。久しぶりだが遊びに行く」
「約束したぞ。では、私は他の貴族にもあいさつに行く。また、後で」
男はうれしそうに導師の下を離れた。
導師は僕を見た。
「お前は嫌か?」
先の話をしているようだ。
「友達になれるかわかりませんけど、問題ありません」
僕がいうと、導師は難しい顔をする。
「そういうところが問題なんだよな」
導師はボソッといった。
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