戦略級魔法使いの日常

氷河じん

第一章 異世界とレールガン

第1話 転生

 僕は神になりたかった。

 現実では何も思う通りにできない。そして、不条理がまかり通っていた。

 だから、神の力という万能な力で現状を変えたかった。

 僕は神になる方法を探した。だが、僕にはできないことばかりだった。

 神になれるような神通力はない。豊臣秀吉みたいに天下人になって、死んだ後に神と祭られるような力も頭も運もない。その前に生きたまま神になる道はなかった。

 しかし、あきらめずに調べまくった結果、仙道を見つけた。人間を超えた仙人。それは理想でもあった。だから、仙人になりたかった。

 人間である僕が神に近づく階段だと思っていた。しかし、それは幻想で終わった。

 仙人には成れなかった。その代り、幽霊が見えるようになった。だが、幽霊が見えても対処できない。見て見ぬ振りをする。それだけだった。

 これは幽霊ばかりでなく他人とも一緒だった。人と対面できない。

 人見知りだと思って逃げてばかりだった。

 それは、人生でも一緒だった。職場の人間関係を嫌ってフリーターになった。そして、フリーターから家に引きこもるようになった。そして、味気ない毎日を消費する。

 そんな人間は神どころか彼女もできない。それどころか時間だけが無意味に過ぎていく。

 本心でもわかっている。勇気がなく逃げている。それが原因だと。

 だが、死ぬまで逃げてばかりの毎日だった。そして、両親が交通事故で死んだ。運悪く玉突き事故に巻き込まれた。だが、両親が死んでも僕は変わらなかった。

 両親が死んでから三年経った頃、バイト帰りに猫が道路で横たわっていた。その時、車にはねられて、かわいそうだと思い触った。生きていたら動物病院へと運ぼうとした。だが、猫は死んでいた。

 クラクションが突然聞こえた。振り返るとトラックが目の前にあった。

『これは死んだな』

 そう思うと視界が暗くなった。

 仙道を教えてくれた師がいっていた。道のわきで死んでいる猫に同情するなと。

 事故で殺された猫にとって人間は恨む対象でしかないからだ。

 猫に八つ当たりで呪われて死ぬ。僕らしくくだらない最後だった。


 僕は目を開ける。体は満足に動かない。しかし、耳は聞こえ目も見えた。

 男と女が視界に入った。二人の顔は大きく見えた。

 二人は嬉しそうにしている。何かを話しかけているが、理解できない。だが、笑顔でなおも話しかけてくる。

 言語が理解できずに声を上げる。しかし、言葉にはならずに「あーあー」としか出てこない。しかし、二人は笑った。

 こんなことで笑うのが理解できなかった。

 死んで生まれ変わったようだ。

 生前ではあの世に行くと思っていたが、すぐに生まれ変わった。

 それよりも前世の記憶が不快だった。生まれ変わるのなら前世の記憶はいらない。そればかりか、邪魔なだけだ。

 新しい環境と古い環境を比べてしまう。それでは、新しい環境に馴染みにくい。

 下絵の描かれたキャンパスに、新しい絵を描くようなものだ。要らぬ苦労を背負うと思った。


 心配だったが言葉を多少はしゃべれるような歳になると、生活は一変した。歩けるようになり、できることと行動範囲が広がった。

 両親は変わっていない。昔と同じように笑顔で話しかけてくる。

 愛されている。それが理解できた。

 ふと、涙が流れた。

 こんなにも愛されているのに、人生をあきらめている自分がいた。それは二人の期待を受けるどころか、二人をバカにしている。だからだろう。一生懸命になって生きなければならいと思った。

「シオン。どうしたの?」

 不安そうに両親は見つめてきた。

 僕は涙を拭いて笑った。

 すると、二人は安心したのか微笑んだ。

「これ読んで」

 僕は母親に本を読んでくれるようにねだった。

 この世界を想像でもいいから早く知りたかった。


 この世界では魔術文明であり、前の世界とは遅れるが文明は進んでいた。

 洗濯機と掃除機がある。そして、トイレは水洗だ。家具のほとんどは魔道具だった。

 水を出すにも蛇口を触れば水が出てくる。しかし、触った時に体の中の魔力を奪われるのだ。なので、魔力の足りない僕はいつもは誰かにしてもらうのだが、歳が五歳になった今では自分でできるようになった。

 この世界は魔術が基軸として動いている世界のようだ。そして、人族以外にも多種多様な種族がいる。そこには上位の種族がいる。龍族など人族より優れた種族がいるようだ。

 それは羨ましかった。

 強い体と賢い頭。そして長寿である。

 それは求めていた強さに似ている。だが、絶対的な力ではない。だが、できることは多いだろう。長生きをしていれば知恵もつくだろう。

 神にはなれない。だけど、この世界では神のような神霊族しんれいぞくという種族が存在するらしい。

 憶測なのは、人族では滅多に姿を見れないからだ。見た人の証言では、人族と似た姿をしているらしい。だが、霧のように姿を消したようだ。

 その他で確認できたのは古い文献ぐらいらしい。

 神も存在する世界。想像だけが広がる。だが、外の世界は怖かった。前世でも危ないことは家の外にあった。だから、憧れがあっても怖い。僕は母が側にいないと外に出なかった。


 日常では家にある魔道具まどうぐはかっこうのおもちゃだった。水道やライトなど、家の中の魔道具を触って確かめる。そして、次の魔道具に触る。

 そんなことをしていると、すぐに魔力はなくなった。その代り、前世で修行した仙道の技が役に立った。

 仙道の周天法しゅうてんほうで周囲に漂うマナを集め、体内で練って魔力とする。そして、体の腹の中に落とし込んでためた。これで魔力切れはなくなった。魔力がなくなったら周囲にあるマナを吸えばいいからだ。

 最初はこの世界でも仙道ができるか確かめていたら、このようなことができた。だから、同じように体内にの魔力の流れと感じて操作した。

 前世の技術が使えるかわからなかったが、無駄ではなかったと思うと純粋に嬉しかった。

 魔術はこの世界では武術の一つでもある。剣士の剣術と同じで魔術で敵を攻撃する。しかし、剣術とは違ったのは、魔術は戦闘以外に役にたった。

 生活を便利にする。治療や運送など日常であった。ゆえに剣士といえど魔術は当たり前に習っていた。

 僕は魔力の流れを感じ取れても、魔術の研究者に成れるとは思っていない。前世では頭は良くなかったからだ。だから、体は変わっても頭が良くなったと思えなかった。その代り、仙道の技術で魔術を上手く使えないか研究を始めた。

 マナは仙道でいうところの玄気げんきと同じと感じている。存在とエネルギーを持って物質を支えている。ゆえに、玄気を操るようにマナも操ればいいだけである。

 何度も実験すると、マナは魔力に変換しないと使えないらしい。マナを魔力に精製する。この行程は外せなかった。

 理由はわからない。しかし、魔力に変換しないと現象化はしなかった。だが、魔力の扱いも玄気に似ていた。

 そして、魔力の流れを感じていると、現象化の変換点がわかった。変換点の変換は難しい。だが、何度も試しているうちに感覚がわかってできるようになった。

 手から水が水道のように水が出てきた。

「キャッ」

 それを見た母は悲鳴を上げた。

 そして、父親を連れて来た。

 父も父で驚いているようだ。

 その夜は父と母は話し合っていた。

 どうやら、僕のしたことが悪かったようだ。

 両親の出した答えは家庭教師を雇うというものだった。

 読み書き計算は母に教わっているが、魔術は誰にも教えてもらっていない。変な魔術を覚えるより、ちゃんとした魔術を覚えるのがいいと判断したようだ。

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