第10話 勇者様の物語
俺は泣き腫らした目をジャーロに見せたく無かったので小一時間時間を潰して、ジャーロのアパートに帰ろうと思った。
俺は売人からチョリソーアイスを1個買うと勇者降臨教会へと向かった。
そこではただ飯(それが目的で通う乞食みたいな連中が多い)とただのベッドにありつけるからだ。
今日のレクリエーションは勇者様の物語を影絵で解説するという内容だった。
俺はベッドに横になるとチョリソーアイスを口にふくんだ。
パチパチと口の中に刺激が広がりドロリと周りの風景が溶けて消えていった。
影絵は魔女が桜吹雪の中勇者様に告白をして見事に撃沈したシーンだった。
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気が付くと俺は勇者様だった。
その名もハシレ・メロス様だ。
黄金の鎧を身に纏い、宝石の埋め込まれた剣を腰にぶら下げていた。
そして、目の前には魔女が居た。
長い黒髪にのっぺらぼうだ。
真っ黒い服に大きな黒襟に赤いタイを付け、膝下25センチの赤いラインの入った黒いスカート。
黒のハイソックスといったいでたちだった。
「久留米さぁ塩分って入っとるんですかぁー?」
何の事だか意味のわからない言葉を叫んでいる。
そして、長方形の謎の石盤を取り出すと、それを高く掲げた。
それが眩しく光った。
すると、出るわ出るわ死体がうじゃうじゃと。
ウジ虫やらムカデのわいたそいつらが襲いかかってくる。
だけど、怖くとも何ともない。
何故ならば俺はチートを持った勇者だからだ。
そいつらを片っ端から切り裂く。
途中で魔女の配下の魔人首刈姫が現れるが。そいつの首も逆に切り落としてやる(現実には絶対にあり得ないことだが)
「ます御さんわ×めち×んおかずにシ×シ×シ×シ×ォーーーー!」
腕をムカデに変えた魔女が襲いかかって来る。
「はぁあああああ!」
全身の力を振り絞って、そいつを切り落とす。
剣が魔女の頭上に降り落ちるその瞬間だった。のっぺらぼうだった。魔女の顔がクルリと表れたのだった。
「ッツッ!」
キーンと鋭い頭痛を感じて目が醒めた。
影絵のストーリーは魔女の首を絞め上げた勇者様が魔女の一撃をくらって息絶えたラストシーンだった。
「かくして、悪い魔女は勇者の命懸けの絞め上げによって倒されたのでした。しかし、魔女は、最後の悪あがきとして1000年後にまた現れて復讐をしてやるそう呟いて死んだのでした」
どこからか聞こえるナレーションがそう締めた。
明るくなるとそこにいた小汚ない連中がやんややんやと拍手をする。
俺はそいつらを押し退け、出口へと向かった。玄関には卑猥な落書きで埋め尽くされた。猫蝙蝠蛾を抱いた魔女の肖像画が掲げられていた。
はてな?
と首を傾げた。何処かで見たような顔だった。
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