☆『九回目』『一日目』『夜』☆

 クァトランがラミアと組まず、天井の崩落という出来事イベントが発生しなかったミツネさんとファラフにとって、クァトランを交えてUNOをやる流れになったことは、望外のチャンスだったに違いない。


「手札出せないから、山札から引きます」


 私もゲームに興じながら、今、この席に居ない人たちの事を考える。

 決意が肩透かしになった形になり、罪悪感が募っているであろうファラフは、ゲームには参加せず、部屋に戻り、そして少ししたら、星を見るために屋敷を出ていくだろう。


 それから少し遅れる形で、ラミアとルーズ姫も砂浜で合流する。

 この時、イチャついてる二人とかちあうとファラフは殺されてしまうので……。


「頼んだよ、メア」


 今頃、ファラフに追いついたメアは、あえて一緒に同行してもらって、そしてなるべく目立つように振る舞いながら帰ってきてもらう。

 ラミア達だって、別に好き好んでクラスメートを殺したいわけじゃないのだから、先に向こうに見つけてもらえば、あっちが折れてくれるのは実証済みだ。

 申し訳ないけど、またの機会にイチャついてもらおう。


 私を含めて散々殺りまくったんだから、これぐらいはいいだろう。


「UNO! ウノよ! 次であがれる次であがれる次であがれる」


 次手番のクァトランが勢いよくカードを場に出し、遂に残り一枚となった手札を、痕が残らない程度に両手でぎゅっと握りしめた。

祈りにも似たポーズで場を凝視し、ぶつぶつと呟き続けるクァトラン、怖い。


「そんじゃ、ドロー2!」


 クローネが、青のカードをばしーん、と場に置いた。


「わたしもドロー2」


 ニアニャが合わせたように、同じカードを更に追加する。


「ウチもドロー2」


 色は違えど効果は同じ。赤いカードを、ミツネさんはそっと差し出した。


「………………」


 ぎぎぎぎ、と鈍い音を立てながら、クァトランの首が私に向いて、鬼の形相で睨んでくる、いや、確かに私の手番だけど、そんなに都合よくドロー2が……。

 そーっと山札に手を伸ばすと、クァトランの顔が一瞬、ぱぁ、と明るくなって。


「あるんだなあ……」


 即座に手札から、青のドロー2を私は躊躇いなく置いた。

 ばさ、とクァトランの手から、ラス一だった手札が落ちた。赤の6。


「うひゃー、お嬢、一◯枚引きだー!」『受けるニャー!』『笑えるナー!』

「ま、待ちなさい、まだ終わってない、終わってないわ! 勝負はこれから――――」

「はい、あがり」

「あああああああああああああああああああ!?」


 そして次手、赤の9をテーブルにおいて、委員長があがった。無情。

 大量のカードをバラマき……かけて理性で抑え込み、クァトランは悔しそうに歯を食いしばって、カードを自ら混ぜて、山札をシャッフルし始めた。


「もう一回よもう一回! まだ時間はあるでしょ!」

「ええけど、手加減せえへんよ? 王女サマ?」


 そうやってからかう素振りを見せつつ、狐の形を手で作って――知っていても、なお注意してみないとわからないほど、本当にさり気なく、自然に、クァトランの髪の毛を少しずつ解いていく。


「あっはっはっはっは!」『笑えるニャー!』『ウケるニャー!』

「ねー! 次勝った人が冷蔵庫のゼリー総取りにしよー」

「乗ったわ! 今度こそ目にもの見せてやるんだから……!」

「駄目よ、あれは明日の夕飯のデザート用」

「っんとに融通効かないわねアンタ!」


 こんなに楽しく遊んでいるのに、水面下で、命を奪おうとする動きがあって。

 それだって、誰も、やりたくてやってるわけじゃなくて。

 ……この楽しいを、当然にしていくために。

 私は、やるべきことをやらないといけない。


「あーごめん、私、これで抜けるね」


 だから、名残惜しいけど席を立つ。


「カタリベ!? アンタ勝ち逃げする気!?」

「私も別に勝ってないけど……」

「私が! アンタに! 勝ってないのよ!」

「いや、髪の毛の手入れがあるからさ……」

「何時間する気なのよアンタ」

「二、三時間ぐらい?」

「狂ってる……!?」


 今狂ってるって言ったの誰だ、聞こえたぞ、当然の措置だろ。


「っ、あーーーーー! 絶対勝つ! 一回は勝つ! じゃないと納得いかない!」

「横暴だー!」『暴君だニャー!』『悔しいナー?』

「お嬢お嬢! 次一番ビリだった人罰ゲームしよー!」


 ゲームはまだもう少し、続いてくれそうだった。


「じゃ、皆、お先に失礼。おやすみ」


 皆、口々にお休み、と挨拶をくれて、


「……………………明日も早いんだから、さっさと寝なさいよ!」


 最後に、背中にクァトランの声を受けて、私は部屋を出た。


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