第17話

「いてててて……」


 少し割れた頭蓋の痛みが脳内を駆け巡っている。流れ落ちる自身の血液が視界を塞いできて、前が見にくい。


 なんとか敵に一矢報いたけど……

 結構ダメージ負っちゃってるよな、コレ。


 HP大丈夫かな……。


「お、おじさんすごいじゃないですか!」

「へへ……やってやったぜ……」

「でも頭……」

「で、できれば回復を……」


 自身の頭を押さえながら素直な気持ちを吐露する俺。

 自己治癒能力でも直るんだけど、回復してもらったほうが早く元に戻るんで、フランちゃんには可及的速やかに癒しの光をお願いしたい。


「すぐに治しますから、おじさんは周囲の警戒を……」

「フランちゃん!後ろ!!」

「えっ?」


 フランちゃんの背後に人影!

 くっ!頭がふらついて索敵を怠ってしまった!


「んんんん~!!」

「はっはぁ!なかなかやるじゃねぇか、おっさん!」


 人影の正体はゴロツキ兄のほう!

 フランちゃんの後ろから抱きかかえるように腕を回し、彼女の口を塞ぎながら締め上げている!


「この……」

「おせぇ!!」

「がはっ!!」


 すぐにフランちゃんを取り返そうとゴロツキ兄に殴りかかったら、逆にカウンター気味の前蹴りをみぞおちに決められた!


 こいつら……

 つ、強い!


「フ、フランちゃん!」

「頭カチ割れてんのにタフすぎだろ、おっさん」

「!?」


 蹴り飛ばされた位置が悪かった!

 ゴロツキ弟は俺のカウンターを喰らったにもかかわらず、すでに立ち上がって右手を突き出しており……


「パラライズ!」

「ぐっ!」


 状態異常魔法【パラライズ】を発動して俺の動きを封じた。


 パラライズ。


 その名の通り相手を動けなくする「麻痺」の効果を持つ魔法。

 A級の魔力なら、レベル35程度のゴブリンの動きを止めるくらいワケないか。


 って冷静に分析してる場合じゃないな。


 明らかに、決闘開始からものの1分足らずで大ピンチな状況に陥っている。


「さて、この生意気な小娘どうするよ?弟」

「へっへっへ。そりゃ決まってるじゃねーか、兄貴」


 決まってるって、お前らまさか……


 えっちなコトする気じゃないだろうなっ!


「んんんんー!!」

「フ……ラン……ちゃん!」


 くそ!喉まで痺れて声がまともに出ねぇ……


 あっ!


 そ、そこはっ!?


「んっ……」

「ほぅ。なかなかいい乳してんじゃねぇか、ねぇちゃん」


 左腕で後ろからフランちゃんを拘束しながら、右手を触手のように動かしていやらしくフランちゃんのおっぱいをまさぐるゴロツキ兄!


「デカいのか?兄貴」

「Fはあるな、これ」


 パッと見そんな大きくは見えないんだけどな。

 隠れ巨乳だったのか、フランちゃん……。


 って、今はそんな事どうでもいいだろ、俺!

 いや、どうでもよくないが……


 とにかく!早くなんとかしないと、フランちゃんが慰みモノになっちゃう!


「さぁ、ねぇちゃん。早く「まいった」言わねぇと、このままおっ始めちまうぜ」

「いいの撮れたら凌辱モノ好きな貴族に高値で売りつけてやろうぜ、兄貴!」

「俺の顔は撮るんじゃねぇぞ、弟」


 おいおい!なにちゃっかり映像記録魔法発動して撮影準備に取り掛かってんだよっ!ゴロツキ弟!


 えっ?まさか本当にここで公開AⅤ撮影会、始めちゃうの??

 チンピラにも程があるだろ、お前ら!!


 でもこのパラライズを解かないことには反撃も何もできない!


 万事休す!


 ゴメン、フランちゃん……。

 どうやら俺は、ここで君のあられもない姿を黙って見ているしかないらしい。


 悔しいけど、仕方ない。

 仕方がないんだ、本当に……


 申し訳ないけど、俺はイチ視聴者としてここで君の事をじっくり、脳裏に焼き付けるようにしっかりと、見ているコトくらいしか今の俺には……


「(諦めるのはまだ早いぽよっ!)」

「!?」


 突然脳内に懐かしきスライムのぽよ語が聞こえた、気がした。


「(まだ手はあるぽよっ!ぼくのとっておきの力を貸すぽよっ!!)」


 えっ、マジでスライム君なの?

 キミ、確か狭間の世界でお別れしたハズだよね?


 それにゴブリンと戦った時にやられちゃって、モードとしてももう使えなくなっていたから、てっきり昇天しちゃったのかと思ってたけど……。


 俺の中にまだいたんだな、スライム君!


 あっ!もしかして!


 説明文にあった「永遠にともに」ってそういうことなのか!


「(声が出なくても大丈夫ぽよっ!心から、こう念じるぽよっ!)」


 より鮮明にスライムの甲高い声が俺の脳内を駆け巡る!


 叫ばなくてもいいのか!念じる?

 

 よしわかった!

 んで、なんて念じればいいの?

 

「(パパ、助けてぽよぉぉっ!!)」

「パ……」


 はぁ?

 パパってなんだよ!


 それキミの能力ちゃうやんけぇぇ!!

 ま、まぁでも言われた通り念じてやろう!


 すがるものは、ほかにない!


 パパ、助けてよぉぉぉぉ!!!



 ゴゴゴゴゴゴ……



 なんか背後から強烈な威圧感を感じる……

 来ちゃったのか。その……


 パパとやらが。

 

「避けろッ!弟ッ!」

「ごっふぅぉぁぁぁ!!」


 痺れた俺とそれを見下していたゴロツキ弟という構図は、俺がパパに助けを懇願した瞬間、すぐに崩れ去った。


「我が息子、ぽよ彦の魂を狙う邪悪な冒険者は貴様らぼよよんか」


 ゴロツキ弟を派手に吹っ飛ばす突進をかましたソイツの正体を俺は知っていた。


 このゲーム世界「ブロス・ザ・チョッパー」におけるスライム系モンスターの最上位に君臨する最凶モンスターの一角。


 スライムキングダムそのものだった。

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