第15話
俺に雷を落とした犯人は、ギルドの中ではなく外にいた。
「ご、ごめんなさい!お怪我はありませんか?」
「あ、いえ。ちょっとビリビリしたけど、大丈夫です」
背後から俺の身を案じる女性と思わしき声がした。まだ振り返っていないので表情はわからない。
てか、街中でいきなり雷魔法ぶっぱなすとかどういう神経してんだ?大丈夫とは言ったものの、さすがに苦言のひとつも呈さないと気が済まない!
「大丈夫……ですけど、俺になんか恨みでも……」
そうつぶやきながら、俺は犯人のご尊顔を拝もうと眼をかっ開いてゆっくりと後ろを振り返った。
……うん。
めっちゃ可愛かったのでもう許した。
てか俺、この娘知ってる。
「ほ、本当にごめんなさい!ちょっと色々あってむしゃくしゃしてたもので……」
「……フラン皇女殿下」
「えっ!?」
あっ!しもた!
この娘、皇女であることを隠しながら冒険者してるって設定だったっけか。
「失礼ですが、何故アナタが私の素性をご存じなのですか?」
隠れ皇女フランちゃんの紅く大きなアーモンド形の瞳が急に冷え始め、警戒した目線へと切り替わる。半歩後ろに下がり、俺に対して敵意をむき出しにしている。
めんどくさいことになりそうな予感……。
ええい!ここはもう……
適当に、とぼけとけ!
「あれ?違うのですか?あんなにお綺麗で可愛らしくて魅力的な皇女様を見間違えるとかありえないと思いましたが……。人違いだったみたいですね。申し訳ないです。忘れてください」
「ふぁっ!い、いや、私なんか別にそんな……綺麗で可愛くて魅力的で色気があって性格も超絶良くてなんて、そんな……」
効果テキメンだったようだ。
破顔一笑クラスのニヤニヤをまったく隠しきれてない。
2つほどプラス要素を自分で加点していたのは気になったけど、まぁいいか。
ゲーム内での天然ぶりはそのままだな。
こう言っちゃなんだが……
彼女は
「では、私はギルドに用がありますので、この辺で……」
お近づきになりたいというほどタイプのキャラでもなかったので、俺は何事もなかったかのようにギルドの扉を再び開き、中へ入ろうとした。
「あ、あの!さすがにご迷惑おかけして申し訳ないので、なにかお詫びをさせていただきたいのですが……ギルドで少しお話できませんか?」
「はぁ。俺、忙しいんですけど……」
いやちょっと待て。よく考えろよ、俺。
今日ギルドに来た目的は日銭を稼ぐことだっただろう。
皇女は今、お詫びの申し出をしている。
めちゃくちゃチャンスじゃないか、コレ!
治療費をいただこう!
彼女はお姫様なんだから、実家に頼めばたっぷり支払ってくれるだろ!
うん、そうしよう。
「そうですね……さっき大丈夫って言いましたけど、実は今急に全身がビクビクっとしてきましてね……もしかしたら先ほどの雷で後遺症とか残ってしまったかもしれません……」
「ご、ごめんなさい……」
「我慢できればよかったのですが……申し訳ないです。ここはご提案通り一度ギルドの中に入って慰謝料の額を交渉させて……」
ヒュンヒュンヒュンヒュン……
ザクッ!
「……って、なんでやねん」
ギルドの扉を開けたまま、フランちゃんに向き合って適当な症状をでっちあげていたら、後頭部にまた短剣が刺さったようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやースマンスマン!ダーツしてたら手が滑っちまってな!」
俺の後頭部に短剣をクリーンヒットさせた冒険者のおっさんが「わりぃ!」ってな感じで軽く謝ってくる。
俺だから普通にしていられるけど、他のヤツだったら死んでたぞ!
マジで気をつけろよ!おっさん!
「あ、あの……本当にこの程度の治癒で治るのでしょうか……」
ギルド内一番奥のテーブル席に座り、フランちゃんに回復魔法をかけてもらった俺。
ちなみにこのフランちゃん。皇女なのにめちゃくちゃ冒険者スキルが高い万能キャラで剣、攻撃魔法、治癒魔法を器用に使いこなす、結構役に立つ魔法戦士だ。
ゲーム中、とあるイベントのCPUお助けキャラとして加入してくれた時は、とても助けてもらった記憶がある。
「全然大丈夫です!回復ありがとうございました!では早速慰謝料の話を……」
「ひゅぅ!上玉の可愛い子ちゃんがいるぜぇ」
「綺麗なおねいさん。今から俺らと一緒に冒険しようや」
話を切り出そうとしたら、ゴロツキ冒険者2人に絡まれた。
いや、絡まれてるのはフランちゃんだけか。
俺の存在は完全に無視されている。
「今取り込み中ですので、お引き取り下さい」
フランちゃんはまったく動じていないようだ。声をかけてきたゴロツキ達に目もくれない。
「連れねぇなぁ、ねぇちゃん。俺たちA級冒険者なんだぜ」
「こんな田舎のギルドに俺らみたいな有名冒険者はいないぜ?誘われるだけ光栄に思わなくちゃいけねぇよなぁ」
有名?まったく記憶にないのだが。
てかA級の奴らがなんでこんな序盤のギルドをうろついてんだよ。
普通そこまでランク高かったら、こんなところに用はないはずだ。
「私はS級ですので、A級程度の方は眼中にありません。消えてください」
「はぁ?お姉さんがS級?あはははは」
「あははは!冗談キツイっすね!」
ゲラゲラ笑い転げるゴロツキ冒険者たち。
ただ俺も、彼女がS級という理解は正直なかった。
CPUで仲間になった時の冒険者ランクは確かBくらいだったような……。
バンッ!!
えっ?
急に机叩いて立ち上がって、どうしたのフランちゃん……。
まさか……
「……私、気が長いほうではないので!舐められるのは、大嫌いなんです!」
うわぁ、これ絶対めんどくさいやつだぁ。
「ほう。やる気か、ねぇちゃん」
「ここだとギルドに迷惑かかります。少し街はずれまで出ましょうか」
いやフランちゃん。
君さっき街中で俺に雷ぶっ放したよね?もう忘れちゃったのかなぁ。
「おねえさんが負けたら、俺らの仲間になるってことでおk?」
「いいでしょう。その代わり私たちが勝ったら、アナタ方はこの街から即刻消えてください。よろしいですか?」
なにこれ決闘する流れなの?
やっぱ邪魔くさいことになっちゃったなぁ。
てかフランちゃんホントにS級なの?勝てる見込みあるの?
実はB級でした!ってことだとA級にはまず勝てないよ!
ゴロツキ側がブラフってこともあり得るけど、あの自信と雰囲気は俺のカンでは本物だと言っている。
フランちゃんは……正直B級の雰囲気しか感じてない。
ホントに大丈夫?
……ん?ちょっと待て。
今、私たちが勝ったらって言った?
私たち??
「そこの空気みたいなおっさんも戦うのか」
「あ、なんかいるっすね。気づかなかった」
……なんだと、コラ。
「……クソが」
「あっ?」
「さっきから俺のことシカトしてんじゃねぇぞ、チ●カスウ●コ野郎どもが!この超ドS級冒険者の鬼頭タカヒロ様が勝ったら、てめぇら2人まとめてウチの在庫にしてやるから覚悟しとけよッ!!」
そういえば、俺も短気だった。
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