第13話
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名前 名無しの鬼頭タカヒロ
職業 奴隷商
レベル 1
HP 0/0
MP 0/0
腕力 5
体力 5
敏捷 2
精神 1
魔力 0
デスP 102/999
スキル
【無死】
【死合わせ】
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「そういう仕様なんだな……」
木に背を預けたまま、震える手でステータスを確認したら、職業欄横の▼の表示が消え、スライムの項目が押せなくなっていた。
『死んでしまった』という不吉なメッセージは、[スライム]の力が使えなくなったということと同義だったらしい。
「まさかワンパンされちゃうとはね……」
[奴隷商]のデスPも1加算されていたので、やっぱりスライムの魂はあのゴブリンの一撃でこの世を去ってしまったとみて間違いないだろう。
ありがとうスライムくん!
君のことは3ヵ月くらいはたぶん忘れないよ!
……それにしても、あのゴブリンどんだけ強いんだよ。
最弱モンスターのスライムだったとはいえ、レベル53もあったんだぞ?防御力だってそこそこあったのに。
ここ[リンネの森]で間違ってないよね?
「やれやれ。せっかく便利な能力手に入れたと思ったのに……あの脳筋ゴブ……」
「グオオオオオォォォ!!」
「わあああ!ちょっとちょっと!タイムタイム……」
いやあああ!!
追い打ちかけてきたぁぁ!!
しかも今度はあの凶悪なデカ釘バット構えて走ってくるぅぅ!!
ちょ、待てよ!まだ身体動かな……
「グオワッシャァァッ!!」
「ごっふ!!」
一応両手を上げてガードを試みたが、無駄だった。
腕、あばら、頭蓋、その他俺を形成するあらゆる骨格・内臓が無残にも粉砕された感覚が脳を揺らす。
……また死んだわ、これ。
バキバキバキバキ……メキィッ!!
あまりにも強烈な打撃だったので、当然もたれていた木も衝撃で根本から折れる。
ゴブリンは一旦後退したから免れたが、俺は折れた木の真下で倒れていたので上から落ちてくる木々に対して無防備。
シャワーのように降り注いだ枝木の洗礼を次々と浴び、俺は完全にそれらの下敷きとなってしまった。
「グオオオオオッッ!!」
倒木の隙間から、ゴブリンが両手を振り上げ、勝利の雄たけびを上げている。
天に向かって「勝ったどー!」とアピールしているようだ。
もう完全に俺を無力化した気でいやがる。
「……」
たぶんこのまま大人しく待ってれば、アイツはここを去ってくれるだろう。
奴は当然、俺が不死であることなんて知らない。
傷の具合から、自己回復にも相当な時間を要する。
ここは黙ってやり過ごすのが吉。
……と、普通の冒険者ならそう判断するだろう。
だがしかし、俺は違う。
「おい!脳筋ゴブリン!」
「グオ?」
「俺はまだ死んでないぞ!」
下敷きになっている木の隙間から大声でゴブリンに対して生存アピールをする俺。
このまま勝利の余韻に浸ったまま帰れると思うなよ!脳筋ゴブリン!
実力で圧倒できなかったことは正直悔やまれるが、致し方ないだろう。
俺にはまだ、秘策が残っている。
職業[スライム]を失った俺に、今後の戦う手段というのは残されていない。
ならば今、とるべき手はひとつしかない!
「棍棒で殴ってその程度かよ!」
「グオ……」
「全然、効いてないんだが!!」
「グオオオオワッシャアアアァァァ!!!」
俺の挑発にあっけなく怒り狂うゴブリンさん。
うわぁ……地面がドッスンドッスン言ってるよ……
地響きが憤怒を表現しているかのように伝わってくる。
どうやら俺の煽り、相当効いたみたいだ。ちょっとスッキリした。
ってことで、例のアレ、いっちゃいます!
「死合わせ!」
両腕がバキバキに折れていたので、念じて叫ぶことしか出来なかった。
だが
「グオオオ……!?」
突進してきたヤツの身体が宙に浮かび、進路を塞いでいた倒木を次々となぎ倒し、俺の胸へと飛び込んで来る!
よしっ!うまく発動した……
「ぐほぁ!」
飛来ゴブリンの勢いが良すぎて潰されるかと思ったが、なんとか耐えられた。
さぁ、フィナーレだ!
キィィィィィィン
「グオッ!?」
「狭間の世界で会おう!ゴブリンよ!!」
強烈な閃光と大爆発により、俺とゴブリンは一緒に彼方へと旅立つのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いいカウンターだったが、あれは拳じゃなくて棍棒で殴るべきじゃなかったか?」
「命中率はパンチのほうがいいものでな。貴殿のスピードに対処するには殴るのが最適と判断した」
狭間の世界に飛んだ俺とゴブリンはすでに対峙し、さっきの戦いを思い出しながら、あぐらをかいて検討会を行っていた。
「少し威力押さえて殴っただろ?」
「そうだな。一撃で終わらせるのは忍びなかったのでな」
「本気だったら、もしかして飛び散っちゃってた?」
「少なくとも首より上の原型はなかっただろう」
おお、こわっ。
いくら不死の俺でも、頭壊されると戻すのに苦労するからな。
「アンタも戦いを楽しみたかったのか?」
「ああ。今の世界は魔物にとって平和すぎてな。久方ぶりに血が
「そりゃよかった」
俺は
「だが自爆で終わらせるというのは身も蓋もない結末だ。一緒に死んでどうする」
「あー俺、死なないんだわ」
「ふむ。不思議なことを言うのだな、貴殿は。この狭間の世界に来たということは死んだも同義では……!?」
「お、始まったな」
二回目だからもう慣れた。
スライムと同化した時と同様、2人の身体は再度光に満ち溢れた。
「な、なんだ!」
「まだ戦いは終わってないよ」
「どういう意味だ?」
「永遠にともに……」
「?」
まぁ、永遠ではなかったけどね。
「その力、存分に使わせてもらうからな!」
「うおおお!!」
引き寄せられる身体と運命!
今、俺たちはひとつになる!
『良きかな~』
直腸に溜まったヘドロの呪縛を一気に解き放った仙人みたいな声を脳内に反芻させながら、俺の意識は再び彼方へと遠ざかっていくのであった。
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