夜勤族の妄想物語4 -7.異世界ほのぼの日記3~今カノと死に別れたので元カノと同棲生活を始めます~-

佐行 院

7. 異世界ほのぼの日記3 ①~⑤

7.「異世界ほのぼの日記3~今カノと死に別れたので元カノと同棲生活を始めます~」


佐行 院


-① 新たな生活に向けて-


 きっかけは母・真希子の言葉だったと思う、それは全知全能の神であるビクター・ラルーの奢りによる宴会から暫く経った頃の事だった。


真希子「そう言えばあんた、今更なんだけど真帆ちゃんはどうしたんだい?」


 守はこの世界に転生してからずっと真帆と音沙汰無しであった、まぁ、お互い別の世界に飛ばされたから当然の事かと守は余り気にしない様にしていた。


守「真帆は・・・、俺と同時に死んだけど今何処の世界にいるか分からない。一応神様にも聞いてみたけど管轄外って言ってし、別の世界で結婚して子供までいるって聞いたよ。」

真希子「そうかい、元気にしているなら良いんだけどね。」


 自らの言葉を聞いて安心する母の言葉を聞いて少しホッとする守、しかし次に発せられた言葉に焦りの表情を隠せなかった。


真希子「あんた、そろそろ身を固めても良いんじゃないのかい?結婚相手として相応しい女の子と出逢っても良いと思うけどね、例えば好美ちゃんとか好美ちゃんとか好美ちゃんとか・・・。」

守「確かに好美とはやり直す事になったけど母ちゃんが意見する事じゃないだろう、それにこういう事は急ぐのは良くないと思うけどな。」


 親子同士で衝突があるのは仕方の無い事だと思われるが、2人以上に黙っていないのが双方の事を『探知』していた好美本人だった。

 好美は中々一歩を踏み出そうとしない彼氏に少し怒った様な口調で『念話』を飛ばして来た、守には好美が泣いている様に聞こえた。


好美(念話)「守自身は私とどうしたい訳?!本当にやり直したいと思っているの?!」


 守は唐突な『念話』に焦っていた、しかし元の世界で真帆と付き合っていた頃もずっと心の片隅に好美がいたことは間違いではない上に真帆も公認していた事であったし今でも変わらない。


守(念話)「俺は・・・、好美と・・・、好美と・・・。」

好美(念話)「待って・・・!!」


 守の言葉を止めた好美はすぐさま『瞬間移動』で守の目の前に現れた。


真希子「えっと・・・、私はお邪魔かね。」


 真希子はそう言うと急いでその場から何処かに『瞬間移動』してしまった。


好美「直接・・・、守の口から聞きたい。守の気持ちを知りたい・・・!!」

守「俺は・・・、好美といたい・・・!!」


 数秒の間静寂が辺りを包んだ後に好美は満面の笑みを見せた。


好美「じゃあ、一緒に住も!!」

守「へ?」


 守が唖然としていると好美は守を連れて自宅へと『瞬間移動』した、守が辺りを見廻して見ればそこは街中で一番高いビルの最上階にありプールと露天風呂が備え付けてあるバルコニーだった。


好美「ここで一緒に暮らそう!!私ずっと1人で淋しかったの、お願い!!」

守「い・・・、良いけど店長に一言言わなきゃ。」


 好美の言葉は嬉しいがこの世界に来てからずっとライカンスロープのケデールが経営する肉屋で住み込みで働いているので無断で出て行く訳にも行かない、しかもそこそこ長く暮らしているが故に肉屋のメンバーと家族同然と言っても過言では無い位に仲良くなっている。一先ず、守は店主に『念話』で「ホウ・レン・ソウ」してみる事に・・・。

 ただ、ケデールの返答は意外とあっさりしていた。


ケデール(念話)「良いよ、荷物もすぐに送っちゃうね。」

守(念話)「えっ!?」


 守が返答するや否や、守の部屋に置かれていた荷物が全てバルコニーに集結していた。


-② レベル違いなプレゼント-


 早速2人はケデールから送られてきた荷物を好美の家の空き部屋へと入って行った、まさか今でも未開の地があったとは、作者としても驚かされる。


好美「すみません、ケデールさん。お忙しいのにお手伝い頂いちゃって。」

ケデール「良いんだよ、好美ちゃんにはいつも贔屓にしてもらっているからね。それより守が迷惑をかけていないかい?」

好美「昨日の今日で何かトラブルがあったらビックリですよ、大丈夫です。ご心配なく。それにしても良いんですか?いきなり守を有休にして貰っちゃって、この時期お店お忙しいんでしょう。」

ケデール「気にしなくても良いよ、それにちゃんと従業員に有休を与えないとそれこそ法律違反になっちゃうからね。」


 どうやらこの世界にも日本の「働き方改革」の様な物が存在する様だ。そんな中、守は1人表情を曇らせていた。目の前の恋人はこっちの世界に来た時も一途に自分の事を想っていてくれたというのに、それに対して自分はどうなんだ。例え軽い気持ちでは無かったとしても、一度好美の事を裏切ってしまった様な気がしてならなかった。

 1人浮かない顔をしている守の心情を察したのか、実は事前に真希子から真帆の事を聞いていた好美は守の事をけしかけてみる事にした。


好美「ねぇ、守。私が死んでから他の女の子と付き合ったりしたの?」


 「まずい・・・」と思った守は言葉を慎重に選びながら答えた、もしも一言でも誤ると大げんかになりかねない。

 追い詰められた様な気分だった守は正直に話す事を選んだ。


守「実は幼少の頃からの幼馴染と付き合っていたんだ、真帆って言うんだけどね。その子も俺と同時に毒を盛られてこことは別の世界へ飛ばされたらしいんだ、今はあっちの世界で子供がいるらしい。」


 好美は数秒の間沈黙した後突然笑い出した。


守「な・・・、何?」

好美「もう、何真面目な顔で語ってんの?ウケるんですけど!!」


 目の前で大爆笑する恋人にどうする事の出来ない守は、1人立ちすくんでいた。


好美「あのね、こっちには結愛や真希子さんがいるんだよ。知ってたに決まってんじゃん。」


 好美は涙ながらに笑い続けた。


守「結愛か、やられた!!」


 好美は守が悔しがる中、話し続けた。


好美「それにね、真帆は私のはとこなの。全部筒抜けだったんだよ。」


 実は守に好美からの手紙を渡す裏ではとこ同士の手紙の受け渡しをしていた結愛。


好美「ごめんごめん、お詫びと言っちゃなんだけど部屋をロフト付にしておいたから。」

守「えっ?!」


 守は驚きを隠せなかった、先程荷物を運び込んだ時はロフトなど見当たらなかったからだ。改めて部屋を見廻してみると本当にロフトがあった。


守「良いの?大家さんに怒られない?」

好美「何言ってんの、私がここの大家だもん。良いに決まってんじゃん、それと・・・。」


 2人はロフトへと上がり、奥にある小さな扉から外に出た、出た先には小さなバルコニーが。そして・・・。


好美「守用の露天風呂を作っちゃいました!!」


 守はその場に倒れ込んだ、そしてこの世界は何でもありだと改めて実感した。


守「良いの?」

好美「私用もあるから構わないよ。」


 そんな中、家の中から電話の音が。どうやら玄関横の内線らしい。守が電話を取ると相手は「暴徒の鱗」店長、イャンダ・コロニーだった。


-③ ビビる-


 守は好美の家(というより自分の新居)で初めての内線にドキドキしていた、通常ナンバーディスプレイには各々の部屋番号が記されているが最上階のこの部屋の物だけは「好美用」と書かれていた。


イャンダ(内線)「引越し蕎麦出来たぞ、エレベーターに乗せて良いか?」


 まさか自分の為に忙しい中用意してくれているとは思わなかった守。


守「すみません、わざわざありがとうございます。助かります。」

イャンダ(内線)「これ位構わないさ、それより・・・。俺らの大切な好美ちゃんを泣かせたら承知しないからな。」


 元竜将軍(ドラグーン)のドスの利いた声に守は思わずビビってしまった、もし圭との一件を知ればどう感じるのだろうかと想像しただけで身震いしてしまった。

 たとえ一度だけだったとしても守が好美を泣かせてしまったという事実、そして好美の放った言葉は変わらず守の頭にこびりついたままだった。


好美(回想)「何よ、守なんてもう知らない。」


 過去の記憶に頭を悩ませる守の横で、屈託のない笑みを浮かべる好美。

そんな中、守は好美が学生時代にアルバイトをしていた中華居酒屋「松龍」で当時悪名が高かった学生の成樹による暴力事件があった日、店主である龍太郎の言葉を思い出した。


龍太郎(回想)「自分から大切な物を失おうとしたんだぞ。」


 あの言葉は今でも守の胸の中にずっと残っていた、そしてあの日誓ったはずだ。「好美の笑顔をずっと守る」という事を。

 守が一人強く拳を握りしめる中、すぐ隣でただただ笑う恋人が声を掛けた。


好美「守、何やってんの。早くしないと折角の蕎麦が伸びちゃうよ。」


 好美の言葉を受けた守は空いた口が塞がらなかった、食卓の上には数十人分の物と思われる量の蕎麦が積まれていた。確かに元の世界にいた頃から好美が大食いだった事は今でも鮮明に覚えているが、いくら何でも多すぎやしないだろうか。


好美「何言ってんの、麺類は別腹って言うじゃない。」

守「いや、考えがほぼデブと同じだから。好美は違うだろう。」


 言葉では口喧嘩している風に聞こえても久々に訪れた2人の時間に顔がニヤけついてしまう守。


守「じゃあ好美にとってスィーツって何なんだよ。」

好美「スィーツねぇ・・・、飲み物だね。」


 好美には「食べ物」と言う概念が無いのだろうか、守はただ目の前に重ねられていく空いた容器の量を見て、今度は焦りの表情を見せ始めていた。

 ただ、これだけで終末する訳では無かった事を知らずに。


守「これ全部食う気か?!」

好美「当たり前だよ、勿体ないじゃん。」


 ゆっくりとだが食事を進める2人の元に再び内線が、相手は勿論イャンダだ。


イャンダ(内線)「そろそろ追加を送って良いかい?」


 電話の相手の言葉に目の前が真っ暗になった守。


守「まだ食うのか?!勘弁してくれ!!」

好美「良いじゃん、体力付けとかないと。」


 2人は引っ越し作業よりも長い時間をかけて食事を摂っている内に残っている荷解きの作業をすっかり忘れてしまっていた、というより「もう後でもいいや」と言う気持ちが強くなったらしい。


好美「守、いっその事呑まない?日本酒欲しくなっちゃった。」

守「確かに・・・、天婦羅に刺身って本当に日本酒が欲しくなる物ばっかりだけど店って拉麵屋だよな?」

好美「何、私の店に文句ある訳?」

守「すみません、無いです・・・。」


-④ 彼氏の扱い-


 学生時代の頃から相も変わらず「鬼の好美」は健在だったが、この世界に来て数年が経ち少し変化があった様だ。


イャンダ(内線)「好美ちゃん、別に呑むか呑まないかは勝手だけどまあ引越しの作業が終わって無いんだろ、大丈夫なのかい?」


 やはり元竜将軍(ドラグーン)と言えどオーナーである好美には頭が上がらない様だが、イャンダは好美が忘れっぽい性格だった事をしっかりと覚えている様だ。


好美「大丈夫だって、あと数箱しか残って無いんから。」


 守はその「あと数箱」の事を思い出した、中身は家電等が中心で比較的大きめの物ばかりだった。まさか、全部一人でやらせるつもりなのだろうか。

 守の表情を見た好美は恋人が何を考えているのかを察して少し表情を歪ませた。


好美「何、女の子に重たい物を持たせるつもり?!」


 好美の言葉に守は「まずい」と思ってしまった、このままでは自分が「鬼の好美」の餌食になってしまう。


守「い・・・、いえ・・・。何を仰いますやら、自分の荷物なんで自分で行います。」


 恐怖からか、つい敬語になってしまう守。ただ、この会話は内線を通してイャンダへと筒抜けだったらしく・・・。


イャンダ(内線)「好美ちゃん、あんまり彼氏君を怖がらせちゃ駄目じゃないか。」


 イャンダの優しさにじんと来る守の目の前で頬を膨らませた好美。


好美「何よ、イャンダも守に味方する訳?!」


 今度はイャンダに矛先が向いた様だが、店長は回避する方法を知っていた。


イャンダ(内線)「まぁまぁ、落ち着きなよ。ほら、エレベーターに日本酒を載せておいたから。」


 しかし今回は方法(というより手順)をあやまったらしい・・・。


好美「だれが冷やって言ったのよ?!熱燗でしょ、熱燗!!」


 拉麵屋のオーナーは相当ご立腹らしく、イャンダは逃げる様に電話を切った。その様子を見ていた守も逃げる様に荷解きへと戻った。

 数秒後、好美の大声が守の新しい部屋へと聞こえて来た。


好美「守、何やってんの?!1人で寂しいんですけど!!」


 今まで1人にさせていた分、「寂しい」という言葉にどうしても反応してしまう守。


守「はいはい、今行きます・・・。」

好美「「はい」は1回でいいの!!」

守「はーい・・・。」


 日本でもよくある光景に守が安心しながら食卓へと戻ると、既に肴は消えてしまっていた。よく見ると好美は真っ赤だった上にいつの間にか着物に着替えていた。


好美「もう寝て良い?」


 好美は気持ち良さそうだ。


守「はい、どうぞどうぞ。」


 守がやけくそ気味に答える中、再び内線が鳴った。ディスプレイには「暴徒の鱗」の文字、またイャンダかと思いながら出ると別の男性だった。一先ずスピーカーで話す事に。


守「も・・・、もしもし?」

男性(内線)「あれ?番号間違ったかな、男の声がするんだが。」

守「すみません、今日から好美と一緒に住むことになった宝田 守です。」

男性(内線)「君がうちのオーナーの変態彼氏だな、イャンダから聞いているよ。」

守「「変態彼氏」って・・・、すみませんがどちら様でしょうか・・・。」


-⑤ 冷静な対処-


 内線の声の主は吉村 光の旦那であるナルリスの弟で、吸血鬼の家系に生まれた元黒竜将軍(ブラック・ドラグーン)である「暴徒の鱗」副店長のデルア・ダルランであった。


デルア(内線)「ごめんごめん、イャンダが面白がって言うもんだから俺もついいじりたくなってさ。気を悪くしないでおくれ、後でサービスさせて貰うから。」

守「気にしてませんよ、元の世界でも結構「変態」って呼ばれていましたし。」


 確かに光や好美による「プロレスごっこ」の被害(?)を受けていた時、顔がニヤケついていたので変態であるという事は否めない。


デルア(内線)「そうか、それなら良かったんだ。それはそうと好美ちゃんいるかい?」

守「いますけど・・・。」


 つい後ろを振り返る守、目線の先では食卓で好美が未だに手酌酒をしている。顔は先程以上に赤くなっていた。


デルア(内線)「いるけどどうしたんだよ。」

守「すみません、先程から日本酒呑んで陽気になっていまして。」


 好美が気を悪くしてはいけないと表現を変え、好美が泥酔しているという事を伝えたのを察したデルアが今度は守に気を遣い始めた。


デルア(内線)「なるほどな・・・、そりゃまずい事になったかも知れないな・・・。」


 重苦しい雰囲気を醸し出す副店長に少し焦る守。


守「まずいってどういう事ですか・・・?」

デルア(内線)「ごめん、確か好美ちゃんって今夜夜勤だったんじゃなかったかなー・・・、って。」

守「確かにあの状態だと起きても夜勤には行けそうにありませんね、ちょっと本人に確認してみます。」


 守は刺身を肴に5本目の熱燗を楽しむ好美の肩をそっと叩いて尋ねた。


守「こ、好美・・・。今夜、もしかして夜勤じゃないのか?デルアさんって人が心配してるんだけど。」


 すっかり泥酔した好美は上手く呂律が回りそうになかった。


好美「なぁにぃ?デルア?内線来てんのぉ~?」


 ふらつきながらもデルアからの内線に出た好美。


好美「2人して何?お楽しみ中のオーナーを呼び出しても良いと思っている訳?」

デルア(内線)「何ってこっちが言いたいよ、今夜夜勤じゃないの?呑み過ぎは禁物だって。」


 デルアの心配とは裏腹に好美には何の問題も無い様だ。


好美「有給取ったから大丈夫だって・・・、折角守と住むことになったのにクリスマスに仕事なんてしたくないもん。」


 どうやら好美は「恋人との時間」をじっくりと楽しみたい様だ。


デルア(内線)「そうか・・・、休みなら良いんだ。まぁ、ごゆっくりお過ごしください。」


 少し気まずさを感じながらフェードアウトする様に副店長が電話を切った後、好美の本心に気付いた守は急ぎ荷解きを終えて食卓へと向かった。


守「ご・・・、ごめん。お待たせ。」

好美「遅い、女の子を待たせても良いと思っている訳?」


 泥酔しつつも重みのある一言を浴びせる好美。


好美「分かったなら早く生ビール追加して!!」

守「すいません、分かりました・・・。」


 内線横のタッチパネルで生ビールを注文する守にあの女性から『念話』が飛んで来た。


女性(念話)「お前、こっちの世界でも好美の尻に敷かれてんのかよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る