(二)-13

 彩香がそう考えて黙っていると、反町部長が意外な言葉を続けてきた。

「会社の近くに部屋を持っているから、平日君はそこで暮らしてはどうか」

 思わぬ提案に、彩香は驚きの言葉が声帯を震わせるのを止められず、同時に反町部長の顔を見た。

 彩香が戸惑っていると「ああ、いや、すぐにというわけではない。君にも事情があるだろうし。ただ、そういう選択肢もあるということだ」と反町はさらに続けた。

 そのときはなにも返事をしなかったが、休み時間や帰りの電車の中でその可能性を考えてみた。会社ではなく部長が個人で所有するマンションだ。そこに住むということは、ある意味、部長のモノになる、いやフィジカルな肉体関係になるということだ。そうなるかはともかく、それは実質的かつ究極的には夫との離婚へとつながる道だ。


(続く)

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