(二)-8

 二十三時を過ぎる頃に帰宅した彩香がダイニングに入ると、テーブルの上には夕食を食べ終えた食器が出しっ放しになっていた。せめて流しに戻すことぐらいしてくれてもいいのに、と彩香は呟かずにはいられなかった。冷蔵庫から麦の辛口炭酸水の銀色の缶を取り出してプルタブを押し上げ、窒素を抜きながらリビングにやってきた。そして背中から体をソファに放り投げ、三五〇ミリリットル缶の約半分を一気に飲み干した。

 口の周りに付いた泡を袖口で無造作に拭うと、鼻から抜けるホップの香りの後に、ココナツオイルを不快に調整したようなざらつく匂いをかぎ取った。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る