3-5 洞窟と遺跡


「カー‼ 冷てえ‼」


川の水を頭から被ったヴァラキが悲鳴を上げる。


「“来訪者ヴァイキング”はもっと寒い地域の出身ですよね?」


キールがそうヴァラキに声を掛ける。


「それはそうだが、冷たいもんは冷たいんだよ。」


そう言ってヴァラキがニカッと笑い、それにキールとモンタックが笑顔で応える。


オストル達と一緒に生活するようになったキールだったが、日々の修行に変化はなかった。

今日もヴァラキ、モンタックと共に川で水浴びをするところからキールの一日が始まる。


朝の水浴びに始まり、滝行、山を駆けたのちに瞑想、そして剣の素振り。

キールの日課は変わっていないが、同じ内容の修行をヴァラキもするようになった。


ただ、修行に追加して行うようになった日課もある。

オストルから鍛冶技術を学ぶことと、ヴァラキ、モンタックとの模擬戦である。


もともとキールには酒吞童子時代に鍛冶を行った記憶があるため、オストルの教えをグングンと吸収していく。オストルもまた、ドワーフなこともあり鍛冶の腕前は超一級品と言えるものだった。


キールはかつての記憶にある技術とオストルから学んだ技術を混ぜ合わせ、自身がかつて使用していた武器の再現に挑むこととなる。それは自身の身長と同じくらいの大きさを誇る直刀だった。


「なかなか上手くいかないようだな。」


工房の炉の前で難しい表情を浮かべるキールにオストルが声を掛ける。

既にオストルはキールの鍛冶の腕前を認めており、基本的な態度としてはキールからの質問に対して助言を与えるのみにとどめている。


「そうなんです。イメージはできているのいですが、素材が合っていないのかもしれません。」


「うーむ。剣や刀は鉄が素材だと思うのだが、、、。素材となる鋼鉄の違いか、もしくは炉の構造などが影響しているのかもしれないな。思い当たる節はありそうか?」


「、、、考えてみます。」


キールはそう言って再び炉に向き直る。

その時、キールはかつて”おぬ”達が使用していた鋼鉄は砂鉄と呼ばれる砂のような鉄だったことを思いだす。また、その時に使用していた炉には風を送り込むためのふいごがあったことも思い出した。


「鋼鉄と炉の違いか、、、。盲点だったな。」


キールはそう言って炉の中で燃え盛る炎を見つめるのだった。


工房での時間が終わり、キールが外に出ると、ヴァラキがキールを待っていた。

ヴァラキは無言でキールの木刀を投げて渡す。


木刀を受け取ったキールはニヤリと笑い、剣を構える。

ヴァラキも槍を構え、2人の模擬戦が始まる。


ヴァラキとキールの模擬戦が終われば次はモンタックとの模擬戦が始まる。

3人は毎日模擬戦をし合い、その実力もまたどんどん向上していった。


「今日もキールには勝てなかったな。」


「そうだな。手が届きそうなところで躱されてしまう。」


ヴァラキとモンタックがそう言って焼いた魚を頬張る。

その横でキールとオストルも夕食にありつく。


4人の共同生活は忙しなくも充実した日々として過ぎ去っていく。


▽ △ ▽


キール達が4人で生活をし始めて3か月ほど経ったある朝。


今日もキールはヴァラキ、モンタックと共に朝の水浴びをしていた。

その時、キールは川の中で日光に反射して煌めく小さな鉱石を発見する。


「これは、、、」


「何かあったか?」


小さな鉱石を持ち上げて首を傾げるキールにヴァラキが声を掛ける。

キールは無言で鉱物を見つめ、ヴァラキに手渡す。


「こんな鉱物見たことない。」


ヴァラキはキールに手渡された鉱物をまじまじと見つめる。

その紫金色をしたその鉱物は金属のような手触りであったが、とても固くを7色の光を帯びていた。


「これは金属だろうか? 帰ったらオストル聞いてみよう。」


キールとヴァラキが話しているとモンタックも近づいてくる。

2人に謎な鉱石を見せられたモンタックは、少し唸った後に口を開く。


「これは、、、アダマス鉱石かもしれん。遥か昔にあったとされる伝説の鋼鉄に、この石と同じ特徴を持つ物があったはずだ。ダイヤモンドよりも固いと言われる伝説の素材だ。」


「すげえな、キール。やっぱ、キールといると面白れえことが起こるもんだな。」


そう言ってヴァラキがキールの肩を叩く。

キールはモンタックから手渡された小さな鉱石を握りしめる。


「これは、楽しみが増えるかも。」


キールはそう言って笑顔を浮かべる。

そんなキールの表情にヴァラキとモンタックの2人は満足げに頷くのだった。


▽ △ ▽


数日後、キール、ヴァラキ、モンタックの3人は川を遡って山脈を進んでいた。

結局、謎の鉱石を見たオストルの回答もモンタックの示したアダマス鉱石の可能性を示唆する物だった。3人は謎の鉱石を求めて山脈を探すことにしたのだった。


「川を遡れば鉱石の出所に辿り着けるんだよな?」


キールは山脈を駆けながらヴァラキの質問に頷く。


「そのはずだよ。基本的に川は山中の鉱石を削りながら流れていく。あの場所に鉱石の破片があったのなら、その上流に鉱物の出所があるはずなんだ。」


キールの回答にヴァラキは頷いて前を向く。

3人は川を辿ってどんどんと山脈の奥へ奥へと進んでいく。

川は徐々に細くなり、これまで人が立ち入ったことのないエリアに3人を誘うのだった。



水流は長く、3人は4日間をかけて、ようやく水源と思われる場所に辿り着く。

そこは山脈の奥地、大樹と苔の生い茂る山中にひっそりと佇んでいた。


「あそこだ。」


ヴァラキがそう言って指さす先には、水が零れだす洞窟があった。

3人が洞窟の前に立つと、ちょうどその場所だけ陽が差し、明るくなる。


3人はまるで神秘的な場所に足を踏み入れたかのような感覚に陥る。


「行こう。」


キールがそう言って前に進む。

それに従ってヴァラキとモンタックも歩き出す。


3人は洞窟へと足を踏み入れるのだった。


▽ △ ▽


洞窟の中は異様な雰囲気が漂っていた。

山脈の奥地にいるはずの洞窟の内部は遺跡になっていた。


「ここは一体何なんだ?完全にただの洞窟なんかじゃないぞ。」


そう言ってヴァラキが周囲を警戒しつつ進む。

ヴァラキの声は少し震えている。


「そしたらなんだ。引き返すのか?」


そう言って挑発するモンタックにヴァラキは不満げな表情を浮かべる。


「そんなわけないだろ。うちらのキールが進むなら、俺は付いていくまでだ。」


「その意気だ、ヴァラキ。」


モンタックはそれだけ言うと再び前を進むキールに目を向ける。


3人の進む洞窟内部は明らかに人工物であり、整備された通路が続いていく。

通路には等間隔に輝く鉱物が配置されており、遺跡内部は明るくなっている。


階段などもあり、通路の両脇には外へとつながる水脈が流れている。

通路は入り組んでおり3人は警戒をしながらも、恐る恐る遺跡の奥へと進んでいくのだった。


「これは、、、」


遺跡の最奥と思われる場所に着き、キールは感嘆の声を上げる。

遺跡最奥は大きな広場になっていた。


「なんなんだ、これは、、。」


遅れて最深部に辿り着いたヴァラキも声を漏らす。

広場の奥の壁には祭壇のような物が設置されており、広場の四方には巨大な彫刻がそびえたっていた。彫刻はそれぞれ梟・熊・獅子・蛇が象られており、これまた巨大な長方形の台座の上に鎮座している。


「行ってみよう。」


キールはそう言って広場の最奥、祭壇へと歩いていく。

ヴァラキとモンタックも覚悟を決めた顔で頷き、キールに付いていく。


もはや3人に引き返すという選択肢はなかった。


階段を登り、祭壇の前に3人が立つ。

祭壇には1枚の石板が置いてあり、その先の壁には紅い玉石と共に不思議な文様が刻まれている。


キールは石板を覗き見る。

石板には1篇の詩のような物が刻まれている。


『その血、その涙、その痛みこそ糧なれば、其方の歩みに実りが訪れん』


『王道を行く者よ、そなたの歩みに苦しみを。』


『王道を行く者よ、そなたの歩んだ道に栄光を。』


石板には3行の文章が刻まれている。

そして、その上にキールの見たことのあるマークが刻まれた溝が彫られている。


アルテミスと戴冠する狼”


そのマークはキールがウィリアヌスから受け継いだレガリアである蝋封に刻まれた物だった。

キールはまじまじと石板を眺め、やがて、自身の胸元から、レガリアを取り出す。


「、、、」


ヴァラキとモンタックがキールの背中を見つめる。

キールは無言のまま取り出した蝋封を石板のマークの彫られた溝に押し当てる。


その刹那、壁の紅い玉石が眩く輝き出す。

思わず3人が目を閉じ、視界が真っ白に染まる。


光が収まり、3人が目を開けた時、目の前にあった壁は無くなっていた。

そこには、さらに遺跡の奥へとつながる扉が開かれているのだった。

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