2.カルト教団、異世界に飛ばされるってよ

「あぁ、なんということだろうか……」

 ホッケディウム王国の国王、アントン・ナヴィルフェルムは玉座で頭を抱えていた。


 何故、国王が悩んでいるのか――。

 それは、今から数十分後にカルト教団『✚終末の炎パーフェクト・デス・フレア✚』がホッケディウム王国に攻めてくるからだ。


 ホッケディウム王国はカミカミスワイガニバリズム大陸の中でも国力、軍事力ともに強い方ではあったため、普通のカルト教団であれば恐れるに足りなかった。


 しかし、かの悪名高い『✚終末の炎✚』は普通のカルト教団と一味違った。

 彼らはあまりにも危険すぎるのだ。


 大陸中の国々は、『✚終末の炎✚』の情報を集めようと躍起になっていたが、情報収集に向かった諜報員は皆例外無く帰ってくることは無かったので、何の情報も得ることはできなかった。


 ただ分かったのは、彼らは「大陸中の人々の救済のために破滅を」という矛盾した教義を掲げているということのみだった。


『✚終末の炎✚』は既に周辺諸国に甚大な損害を与えており、中には復興不能にまで追い込まれ、既に滅びてしまった国もいくつか出始めている。


 彼らが通り過ぎた後には人や建物はおろか、花や木のような植物ですらも残らず、ただそこには巨大な軟体生物が這ったような粘液と、木で出来た謎の人形のみが残されていたという……。


「マズイ!とてもマズイ!非常にマズイぞ!!!」

 ストレスのあまり、国王は頭を掻きむしり獣のような雄叫びを上げる。


 国王の奇声を聞きつけて、肥え太った大臣のビフオア・チェッケンが焦った顔で国王のもとに駆けつけた。


「国王!一体どうされたというのですか!?」


「これが叫ばずにはいられるか! いいか、あと数十分後にはこの国に、災害と同じような力を持った頭のイカれた連中が我が国を踏み荒らしにくるんじゃぞ!?」

 国王は大臣に対して怒鳴った。


「では、異世界から勇者を召喚してみてはいかがでしょうか?」

 大臣が提案するが国王は首を横に振る。


「ダメじゃ。勇者を呼ぶための素材が無い。昨年度お前が私に内緒で大陸内の国々が締結した『勇者召喚禁止条約』に加盟してきたせいで、持っていた素材も捨てることになり、あまり残っとらん」


「あれ、そうでしたっけ?」

 大臣が首を傾げるのを見て、国王は自身の血が沸騰しそうになるのを感じた。


「あのとき、お前を斬首刑に処すべきだったな」

 国王は深くため息をつく。


「せっかく、国を覆うように魔法陣を地下に作ったんですけどねぇ」


 大臣はサラッととんでもないことを口走ったが、国王は怒る気力も無くなっていた。


「一体お前は何をする気だったんじゃ……」


 国王は、今すぐ目の前の男を斬首刑にしたい気分にかられた。

 しかし、もうすぐ『✚終末の炎✚』が攻めてくるので、そんなことをしている時間はない。


「異教徒どもが国内に入ってきたら魔法陣を使って、国ごと爆破しますか?」


「いい案じゃ。では、まず手始めにお前から爆発してみせよ」


 国王は残り少ない時間を使って大臣を更迭しようと考えていたとき、大臣は独り言のように呟いた。


「いっそ、我々だけでも異世界に飛んで逃げられたらいいんですけどねぇ」



「最低じゃなお主…………ハッ!?」


 大臣の言葉を聞いた瞬間、国王の脳はフルスピードで回り始めた。


「大臣!今すぐ国中の魔法使いを全て集めよ!」


 国王はいつものような威厳を取り戻したことに、大臣は非常に驚いた。


「最後に飲み会でも開くんですか?」


「バカを言うな! いいか、ワシはこの危機的状況を打破できるかもしれない唯一の方法を思いついたのじゃ」


「唯一の方法とは……?」


「お前が国を覆うように作った魔法陣、それを使うのじゃ。 それを使って


「はぁ!?」

 大臣は驚いて大声をあげてしまう。


「お前も知っているじゃろう? 召喚魔法は、召喚する側は膨大なコストを支払わねばならないが、逆に送り込む側は召喚側と比べ、低コストで済む。今この国が所有している召喚素材でも十分足りるはずじゃ」


「いや、知っていますよ。しかし、召喚魔法は送る側と受け取る側が同じタイミングで発動しないと成立しないのは国王も分かってますよね? ましてや、異世界への干渉となると、同じタイミングで発動なんてとんでもない。もし成功したとしたら、それは奇跡ですよ。だから、近代の異世界干渉系の召喚魔法は、異世界でも死んだ者の魂など実体が曖昧なものを使っているんじゃないですか」


 大臣は元魔法使いだったので魔法に詳しかった。

 もっとも、学者としては優秀だっただけで、戦闘面はからっきしだったが。


「でも、試さなくては分からないだろう? それに学者の話だと異世界というのは無限にあるという……どこか1つくらい受け入れ先があってもおかしくないはずだ」


「それは、入念な準備をした場合の話です。今から召喚魔法を発動するとなると魔法使い達による魔法陣の書き換えが必要です。書き換えにはそれなりに時間もかかります。おそらく、召喚先の検索に使える異世界は多くて2つ……いや、今の状況だとできて1つが限界だと思いますよ。これじゃあ実現なんて到底不可能ですよ!」


「書き換えのための時間稼ぎは兵士たちに任せる。勝つのは難しいと思うが、あくまで時間を稼ぐならなんとかなるはずじゃ……ワシは国民達を信じておる。それに、希望があるだけマシじゃろ。とにかく、大臣。今すぐ国中の魔法使いを集めよ!」


 大臣は呆気にとられていたが、すぐにため息をついて国王に笑いかけた。


「私、国王のそういうとこ大好きです。分かりました、ただちに集めます」

 大臣は大急ぎで部屋っを出ようとするが国王は「待て」と大臣を引き止める。


「これを乗り切ったら、お前を斬首刑に処す」

 大臣はニコッと笑い、部屋を出ていった。








 その後、国王の作戦は成功し、『✚終末の炎✚』の信徒達は皆、異世界に飛ばされた。

 国民は大いに熱狂し、三日三晩祭りを開き、勝利を祝いあった。


 後日、大臣の処刑はつつがなく実行された。

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