黄色いハンカチと闘う伝説の打者

序章 冷めたマウンドの裏側

俺の名前は門倉淳一。

いつも野球のことしか頭にはなく、ハナから抜きん出た才というものに憎悪という概念しかなかったのだ。それも、夏の全道大会の話。

「おおーい。門倉、出番だそ！」

監督にそう言われ、静かにピッチへと向かう。

何だアイツラの視線は…。

どことなく俺に嫌悪感をあらわにして…。

そんな目つきをして一体何がしたいんだ。

今の自分には与えられた全てをかけて挑む…それが自分なりのおきてであり、正義だった。

「おい、よく頑張ったな、将暉。」「門倉、お前、ちゃんと自分のピッチングをしてこいよ。」

「ええ。」マウンドに立つと感じる言いようのない支配感。このマウンドだけが、自分の生きがいであり、正義だ。

このたぎるスポーツへの情熱と微塵もない敬意に対する侮蔑が俺の蓋をこじ開けた。

捕手が構えると第一球を投げる。

俺の球は球種こそ少ないがストレートだけでそこら辺の強豪チームの強打者をいとも簡単に打ち崩すレベルだった。

「不思議だ…俺がこのマウンドにいる限り、誰の嫌味も感じない。」

「おい、門倉！やっちまえ、三者連続三振だー。」

そんな煽りのベンチからも、たいしてきにはせず、自分の燃えるような力をボールに引き出す。

打ち気満々だと逆に燃えてしまう。

そんな血気盛んな俺のメンタルが更に沸き立つ。

俺のストレートは球筋が浮くという火の玉ストレートなだけに、簡単には当てられなかった。

ストレートだけで最終回をピシャリと三者連続三振でおさえたのだ。

これにはスタンドの人や、チームメイトまでが俺を活躍を鼓舞したのだが、やはり俺の心は晴れなかった。

俺は、俺の真価を発揮するよりかは、チームでこのきれいな芝生の上を青春で埋め尽くしたかったのに…。

誰も俺のことなんてピッチャーとしての概念がなければ、俺のことなんて見向きもしなかっただろうな。

俺が投げたとしてもスタンドは盛り上がらないし、バックグラウンドの冷めた表情に嫌気が差した。

監督に言われたんだよな…あの時。

お前は素晴らしい、ピッチングだ。

しかし、お前はチームワークを学ぶべきだがな。

意味がわからないことを言われたんだ。

その時から、このチーム野球にサヨナラを告げた。自分の愚かな独りよがりがとこまで好きになってもらえるのか、そんな淡い期待を隠しながら。

きっと自分の孤立した概念は野球のイメージを変えれるとおろかにもそこまで考えついたのだろう。

しかし、きっと俺に野球の神様がいるなら、俺の考えを正すだろう。

仲間と心から喜び合い、勝利を一人ではなく皆で分け合うそれこそ近道だったのに。

どんなしがらみも、野球が人を笑顔にするスポーツだと信じてほしいと。

勝利の先にある野球人生としてのその人の本当の幸せだったのに。

それに気が付けないまま、時は過ぎたのだ。