帰城の馬車の中<ベルナルド視点>
「楽しかったですね」
とにこにことご満悦な表情を浮かべるマルクスに、ベルナルドは微笑みを浮かべていた。
甥っ子のマルクスのことは生まれた時から知っている。
まだ赤ん坊だった頃のマルクスを見たのは、ベルナルドがまだ15歳の時だった。
『抱いてみろ』と歳離れた兄に言われても、小さい赤ん坊を抱き上げる勇気が出ない。小さな頭、小さな手。小さな足。万歳しても頭のてっぺんに手が届くのか怪しい程短い手。
抱くのが恐いと言えず、そっと頬をつついた。ぷよぷよして面白い。もう一度・・・と指を伸ばすと、マルクスはベルナルドの人差し指を掴んだ。ぎゅっと握っているその手が小さくて、そのくせ力強くて。
なんなんだ!この可愛い生き物は!?
それ以来、ベルナルドはマルクスが可愛くて仕方ない、叔父馬鹿になった。
5年前に婚約者候補となったハウアー伯爵家のカイン嬢の屋敷に行ったのは今回が初めてだった。
毎日王城へやってきてはご機嫌伺いにやって来るカイン嬢は正直苦手だ。
婚約者候補になってからの3年は王族教育として王城で勉強をしていたようだが、この2年は用もないのに毎日のように王城へやってきては私の執務室にご機嫌伺いに来る。
忙しいのに好きでもない令嬢に面会する意味がない。だいたい、王城は遊ぶところではないのだ。
なにが「ハウアー伯爵のお手伝い」だ?彼の身の廻りの事は執事がすべきことであり、娘がすることではない。娘のメイドが一緒に来ている時点でカノン嬢が何もしていないのは観なくても想像がつく。
それとなく調べさせてみれば、伯爵の事務官は彼女を「賢く計算高い令嬢」だと言っているようだ。
現時点で婚約者候補の中から結婚するとカノン嬢が最適なのだとは分かるが、はっきり言ってカノン嬢と結婚する気はない。
確かに、今日は彼女の予想外の一面も見れけれど、絆されるつもりは毛頭ない。
だがなあ・・・。
はあ~。
今日は可愛いマルクスがハウアー家に行くと聞いて、心配でじっとしていられなくて、仕事をほっぽり出してここまでついてきた。企んでいつに違いないカノン嬢にマルクスが取り込まれることを何としても阻止しなくては!と、そんな思いでやって来たのだが・・・。
正直なところよくわからなくなっていた。
「叔父上、カノンは面白い人だと思いませんか?」
「うーん。カノン嬢というより、『キードロ』が面白かったのではないか?」
「そうですけど。あんな面白い遊びを思いつくカノンもすごいし、一緒に遊んでくれるところも面白いし、笑った顔は可愛かったですよ」
「か、かわいいって!お前はまだ8つだろう!?」
「歳は関係ないですよ。美しいものは美しいし、かわいらしいものはかわいらしいのです」
「うぐ・・・」
そうなのだ。
カノン嬢は想像しているよりも美しく、優しい女性なのか?と思ってしまったのだ。
やばい。
マルクスではなく、私が絆されてしまいそうだぞ?
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